スズキの日本市場におけるメシの種は、もちろん、圧倒的に軽自動車(以下、軽)である。ただ、「軽は便利だけど、さすがに小さすぎる」とか「とにかく軽は生理的にイヤ」、あるいは「軽を卒業してプチ贅沢したい」、そして「どうしても5人乗りの必要がある(軽の乗車定員は最大4名)」といったニーズに応えるべく、スズキは白ナンバーのコンパクトカーを2台用意している。

 その1台がスイフト(第2回参照)であり、それとならぶもう1台が、このソリオだ。

 スイフトは世界中で販売されるグローバル商品であり、基本プロポーションも世界的に通用するオーソドックスなもの。しかも、クルマの走行性能にはもっとも厳しい欧州でも一目置かれる走りを目指している。

 ソリオはそんなスイフトとは、ある意味で対照的だ。ソリオはまず基本的に国内専用商品で、いかにも日本的なスーパーハイト軽の"ワイド版"というべきカタチをしている。

 1.2リッターエンジンに追加されているモーターアシストも、スズキが軽では"Sエネチャージ"と呼ぶものと同じ。軽では「ハイブリッドというほどではないので......」と、謙遜してSエネチャージと名乗るくせに、白ナンバーのソリオでは一転して、堂々と"ハイブリッド"の文字がおどる。現在の国内コンパクトカー市場では、売れ筋はハイブリッドばかり。ここで遠慮しては売れるものも売れない......という判断なのだろうが、こういう商売のツボも、日本的といえばとても日本的だ。

 一見すると、スペーシア(第53回参照)の幅を拡げただけに思える点は、新型ソリオは先代と変わっていない。クルマ業界用語でいう"キープコンセプト"そのものである。ソリオにおけるコンセプトのキープっぷりは、ボディサイズにも貫かれている。全長は先代からビタ1mmも大きくなっておらず、全高は燃費(=空気抵抗減)のためもあって逆にちょっと低いくらい。全幅も5mmしか増えておらず、1625mmという全幅は、もはや大半が5ナンバー枠ギリギリ(=1695mm)までは幅広くなってしまった国産コンパクトカーで、もっともスリムなのだ。

 モデルチェンジごとにボディが大きくなるのが今どきの通例なのに、みずからの体形をここまで厳しく縛りつけているのは、ソリオにはすでに「クルマはこの大きさ、このカタチじゃないとダメ」というユーザーがたくさん存在するかららしい。

 ソリオは全長と全幅はコンパクトカー最小クラスだが、背丈だけがドーンと高い。室内空間は先代でもビックリするほど広かったのに、エンジンルームをよりコンパクトにして、ボディのスミズミまで垂直に四角くした新型ソリオは、さらに広くなった。それに加えて、左右フロントシートの間をとおって、車内を前後に歩いて移動できるのが、軽にはできないソリオ最大の一発芸。壁際ギリギリに駐車しても、リアのスライドドアから乗り降りできるのは、一度体験すると超絶に便利である。

 それだけではない。インテリアにはボックスティッシュからスマホやハンカチ、ごみ箱......と、いちいちニヤリとしたくなるピタリ収納がそこかしこにあって、「カップホルダーが四角い!?」と思ったら、それは最近のニッポン女子がよく飲む500ml紙パックのためという。トランクはリアシートを調整しなくても、12ロールのトイレットペーパーを縦に積んだり、最近よく見かけるようになった買い物用マイバスケットもピタリと載せられる。

 走りもいかにも日本的な柔らかさ。スイフトのようにビュンビュン飛ばして真価を発揮するタイプとは正反対。山道も不安ではないが、速いわけでも、ことさら楽しくもない。ただ、高速を100km/h前後でごく普通に走るときの静かさはちょっとしたものだし、スリムなボディは、路上駐車の多い混雑した道路や、昔ながらのせまい路地で、目からウロコが落ちるようにスイスイと走れる。

 現代ニッポンの生活様式のツボをこれでもかと突きまくる設計は、さすがスズキ。軽の開発で、日本特有のクルマの使われ方、そしてとくに女性ドライバーの声に耳を傾けてきただけのことはある。同じスズキでもグローバル商品のスイフトを、ここまで日本化することはむずかしいだろう。

 日本ではスイフトと双璧的存在のソリオだが、スイフトのようにオタクの趣味心をソソる要素は皆無に近い! しかし、いっぽうで、これほどニッポン人のツボに最適化されたクルマもほかにない。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune