“酒は百薬の長”という言葉がある。限度を超えなければ、飲酒は健康や長寿に効能があるというわけだ。赤ワインもその一つで、中に含まれる抗酸化物質のポリフェノールが、「老化防止」や「心臓病」などを防ぐといわれ、有名人をはじめ愛飲家は多い。
 しかし、半ば定説化していた“赤ワイン健康説”が、覆されるような学説が流布し始めた。いったいどういうことか、その深層に迫ってみよう。

 赤ワインが健康に良いという理由は、一般的に「フレンチ・パラドックス」と呼ばれる推察を元にしている。フランス人やベルギー人は、他の国の人たちよりもチーズ、バターなどの乳脂肪や肉類、フォアグラなどの動物性脂肪を好み、その摂取量も多い。
 しかし、本来なら罹患率が高くなるはずの動脈硬化の患者は少なく、心臓病による死亡率も低い。そのことから、彼らが常飲している赤ワインに含まれるポリフェノールが、動脈硬化や脳梗塞を抑制していると推察されるようになった。
 これがWHO(世界保健機構)などで「フレンチ・パラドックス」と呼ばれるようになり、各国メディアで取り上げられて有名になったのである。
 そのせいか、'90年代の半ばから、赤ワインの消費量が世界中で上昇し、当時、米国だけでも年間3000万ドル(約30億円)規模の市場に成長した。日本でも、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種「レスベラトロール」という成分が、'11年にNHKの番組で取り上げられ、これが話題となって赤ワインの健康神話が生まれたといわれる。

 そうした中で、'09年に衝撃的ともいえる事態が起きた。ワインの原産国であるフランスで、突如として時の政権が「赤ワインをあまり飲まないように!」という公式見解を打ち出し、あろうことか“禁酒キャンペーン”を張ったのだ。庶民の間に驚きと動揺が走ったことは、言うまでもない。
 その理由は、フランス国立がんセンターが「赤ワインを常飲するとがんの罹患率が168%増になる」ことを発表したからで、フランス政府の調べによると、フランス人男性の死因のトップはがんであり、特に肝臓がんが多かった。赤ワインの常飲は、咽頭がん、食道がん、乳がんなどの罹患率も、飛躍的に高めるという。

 循環器系の医療研究を続け、自ら“ワイン党”で鳴らした医学博士・笹島雅彦氏はこう話す。
 「赤ワインは心臓病の予防はできても、がんの予防はできない。かえって罹患率が高まるといわれては、考えざるを得ません。赤ワインは少なくとも“百薬の長”ではなかったので、飲み方を変えました。まぁ、少な目に…ですかね」