多量摂取で健康増進どころか疾患の可能性も。写真はイメージ

写真拡大

不足しがちな栄養素を補うためにサプリメントを飲んでいる人は多い。しかし、あるミネラルの過剰摂取が原因で疾患を発症している例が少なくないと、英グラスゴー王立病院の研究者らが2015年6月17日、英国病理学会誌「Journal of Clinical Pathology」オンライン版で発表した。そのミネラルとは亜鉛だ。

じつはそれほど不足していない?

亜鉛は健康維持やアンチエイジングに重要な必須ミネラルのひとつだ。骨や歯、皮膚、筋肉など全身に分布し、ホルモンの合成や分泌の調節、DNA合成、たんぱく質合成に欠かせない。不足すると味覚障害や皮膚炎、脱毛、食欲不振などが起こり、極端に欠乏すると免疫系が弱くなり、傷の治癒が遅くなる、男性の場合は精子の生産量が減少するといった症状が出る。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準2015年版」では1日の亜鉛摂取推奨量は、成人男性で10ミリグラム、女性で8ミリグラムとされている。これに対し、摂取状況は「国民健康・栄養調査2013」によると、男性が平均8.8ミリグラム、女性が7.8ミリグラムとなっており、少し足りていない程度。これは、亜鉛が米や小麦などの主食から肉類、豆類、海藻類まで幅広い食材に含まれているためだ。肝臓疾患や糖尿病に罹患していたり、特定の薬剤を使用していると、亜鉛の吸収が阻害され、不足気味になる可能性もあるが、健康な人が3食バランスよく食事をしていれば、極端に欠乏することはない。

研究がおこなわれた英国の場合、1日の亜鉛摂取推奨量は、男性5.5〜9.5ミリグラム、女性4〜7ミリグラムだ。しかし、グラスゴーにある複数の病院で、亜鉛欠乏症や皮膚病の治療のため、亜鉛サプリメントが処方されていた患者70人の診療記録を分析したところ、45人に1日90〜180ミリグラムの亜鉛が処方されており、9人が処方後に貧血や神経症状(痛みやしびれ、麻痺)を発症していた。

実は、長期間亜鉛を過剰摂取すると銅や鉄の吸収が阻害されて貧血を起こしたり、神経症状、下痢の発症、HDL(善玉)コレステロールの低下が起きることが知られている。今回の研究では発症した時期や亜鉛の正確な服用期間がわからず、亜鉛サプリが原因かはわからなかったものの、その可能性は十分にあると研究者はコメントしている。

医師の監督下で処方されていたのに、過剰摂取が発生した理由について、研究者は「担当した医師が患者の詳細な栄養状態を把握していない、もしくは亜鉛の過剰摂取のリスクに注意していなかった」と推測しているが、そんなことがありえるのだろうか。

アンチエイジング医療を専門におこなうAACクリニック銀座の浜中聡子医師は、「患者が日常的に摂取しているサプリや薬などの情報を医師が把握していれば、本来は起こりえないこと。医師の注意は必要ですが、患者側もきちんと申告することを忘れないでほしい」と言う。

日本で過剰摂取の心配は

栄養療法の専門医である新宿溝口クリニック院長、溝口徹医師も、「亜鉛は、本来は毒性が低く極めて安全なミネラルですが、長期間の摂取によって過剰症を起こすことがあります。摂取量をチェックする必要があります」と警鐘を鳴らす。

「量だけでなく、ミネラルの吸収を阻害してしまう性質を考慮すると、亜鉛サプリを飲むときは、食間などの食材が腸にないときの摂取が望ましいでしょう」

日本では厚労省が亜鉛の耐容上限量(健康に影響がない最大の摂取量)を発表しており、成人男性で1日40〜45ミリグラム、女性で35ミリグラムとなっている。また、栄養機能食品の亜鉛含有量にも上限値が1日分15ミリグラムまでと定められ、薬局で国内大手メーカーの亜鉛サプリを確認すると、確かに含有量は10〜15ミリグラムの範囲だ。仮に食品から毎日7〜8ミリグラムの亜鉛を摂取していて、さらにサプリを飲んだとしても、用量を守っている限り、耐用上限量以下に収まる計算になる。

ただし、治療用のサプリや日本の上限値が適用されない輸入品は事情が異なる。治療用サプリは一般的な摂取推奨量を大幅に上回る量が含有されている場合があるのだ。また、インターネット上で購入できる米国や英国製の亜鉛サプリメントを見てみると、1錠あたり40〜50ミリグラム含有しており、多いものでは100ミリグラムという製品もある。

「亜鉛は皮膚や爪、髪の毛のトラブルなどにも深く関係します。栄養素の消化吸収、代謝などに精通した専門家の指導のもとで、最適な量を摂取するように指導いただくのがよいでしょう」(溝口医師)[監修:溝口徹 新宿溝口クリニック院長、浜中聡子 AACクリニック銀座院長]

参考論文
The risk of copper deficiency in patients prescribed zinc supplements.
DOI:10.1136/jclinpath-2014-202837 PMID: 26085547

(Aging Style)