○加速する英語化

シルバーウィーク空けの週刊文春に「英語が出来ないサラリーマンは本当に出世できないのか?」と題した記事が掲載されていました。

トヨタ自動車は係長昇格の条件にTOEIC600点を掲げ、国内企業の英語化の流れが加速していると続けます。

カルロス・ゴーン率いる日産自動車はともかく、ホンダまでも2020年を目標に英語を社内公用語化すると発表し、ブリヂストンは2年前から準備を始めているようです。

記事では「英語化の流れは不可避」と事例を紹介する一方で、英語ができなくても現場を知る、いわゆる「叩き上げ」がいなくなることにも触れています。

元ソニー、というより、破綻した「ライブドア」の敗戦処理を務めた平松 庚三氏(現小僧com株式会社代表)は、中卒程度の英語力でも、内容に中身があれば大丈夫と、ソニー創業者の一人、盛田 昭夫氏の「ジャングリッシュ」な英語力を例に説明します。

確かに、英語化を進めるブリヂストンと関係の深い元首相の鳩山 由紀夫氏は留学経験からか、英語でスピーチもできます。しかし、首相時代にオバマ米国大統領とのワーキングディナーでの意見交換の結果「ルーピー(バカ)」と揶揄されたことを思い出す方も多いでしょう。

なお、中学1年生で英語に挫折した私ですが、今では「社長」です。何故なら、自分で会社を作ったので。

○ダンバーの解釈

伝統工芸を扱う狭い業界の例ですが、ここでは仮に「着物」の業界としましょう。S社長は、いわゆるインバウンド消費に乗り遅れまいと、訪日外国人向けのサイトの「英語化」を目論みます。

「ビジットジャパン」「クールジャパン」と政府が騒いでいますが、S社長の店がある場末の街角にまでやってくる外国人は、伝統工芸品より100円ショップを好みます。だからこそ、Webサイトの英語化によって観光客に足を運ばせる狙いです。

彼は業者を呼んで見積もりを取ります。業者は一通り話を聞いた後、こう質問します。

「身内に英語が堪能な方はいますか?」

翻訳家に発注すれば、それなりの「英語」には仕上げてくれます。体裁を整えるだけなら、グーグルなどを使った機械翻訳でもできます。

問題は、できあがった「英語」が英語圏のお客に伝わるかであり、それを確認する人物が、社員や家族にいるかという問いかけです。

「Damper(ダンパー)」とはネットの英和辞典「weblio」によれば、「勢いをくじくもの」ですが、ピアノは「消音装置」、バイオリンでは「弱音器」、自動車では「ショックアブソーバー」と英英翻訳されているのはご愛敬としても、適切な翻訳がなされているかを確認できるのは、その業界と英語に詳しい人物だということです。

○イエスしかない答え

こうした事情を考慮せず、文字情報だけを「英語化」するWeb制作業者は実在します。それでは「英語化0.2」になるので、皆さんもご注意ください。

そもそもWebサイトにおいて、魅力的なコンテンツがあれば、英語化は必ずしも必要ではありません。

客の立場になればわかることで、内容がスカスカの母国語で綴られたサイトと、現地語ながらみっちりと情報が詰まったコンテンツなら、どちらにアクセスしたいでしょうか?

しかも、機械翻訳を使うことで大体の意味は理解できます。グーグル翻訳には、南アフリカのズールー族の言葉まであり、和訳ができるなら、その反対もできることでしょう。なお試してみましたが、ズールー語への翻訳結果の正しさは、私には確認できませんでした。

英語化の議論において、しばしば問われる「英語はできた方が良いのか?」という質問。これが間違っています。英語ができないことのデメリットはあっても、できることによるデメリットは考えにくく、つまり「イエス」しか答えがないのです。その一方で、英語を用いて何をするのか、何を語るのかの議論は置き去りにされます。

○楽天とSBの狙い

ビジネスシーンにおいては、英語を使い、何を成すかが大切であるはず。にも関わらず、テストの点数が出世の条件になるとは実に日本的な「手段の目的化」です。これも「英語化0.2」でしょう。

英語化といえば、その先陣を切った楽天やソフトバンク。

しかし、三木谷氏と孫正義氏を重ねてみると、英語化による目指す地平が見えてきます。

楽天の「Kobo」、ソフトバンクによる「スプリント」を挙げるまでもなく、ご両人とも「企業買収」が大好きで、買収した企業名を並べるだけで字数が尽きるほどです。

つまり、海外との取引ではなく、海外でのお買い物のための英語化。なるほどこれは分かりやすい。何故なら、中学1年レベルにも満たない私の英語力でも「ディスカウントプリーズ」の重要性は分かるからです。

○エンタープライズ1.0への箴言

英語化は目的ではなく手段

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治〜ネット世論と幼児化と山本太郎〜」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

(宮脇睦)