『プリンス論 (新潮新書)』西寺郷太 新潮社

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 音楽人として最も憧れてきたのはプリンス――こう語るのは、本書『プリンス論』を上梓したノーナ・リーヴスの西寺郷太さん。小学生のときにまで遡る、プリンスと西寺さんとの出会いですが、当時、プリンスに対する西寺さんの第一印象は「めっちゃくちゃ気持ち悪い」というものだったといいます。

「髭と胸毛のアピール、素肌にトレンチコート、ビキニ姿にハイヒールという出で立ち。低い地声とファルセット・ヴォイスの甲高いハイトーンを、奇想天外なタイミングで行き来させる歌唱法。バンドの女性メンバーと執拗に絡むステージでの身のこなし。
卑猥なイメージに満ちた彼がなぜそんなに人気があるのか。最初は正直に言ってわからなかった。第一印象を告白すると『めっちゃくちゃ気持ち悪い』。それに尽きる」(本書より)

 しかし、その第一印象とは裏腹に、作品を聴き込んでいくうち、次第にプリンスにどっぷりと心酔していったという西寺さん。本書では、多作家として知られるプリンスが生み出してきた、多彩なるアルバム作品を辿りながら、楽曲の数々を分析。また、残された資料から、知られざるその歩みを紐解いていくことによって、その時々でプリンスは何を考えていたのかにまで考察を繰り広げていきます。

 作詞作曲、アレンジはもちろん、ドラム、ベース、キーボード、ギターといったポップ・ミュージックの主要楽器すべてを弾きこなすプリンス。そのオリジナルな存在を、アメリカに知らしめたアルバムが、1979年にリリースされたセカンド・アルバム『愛のペガサス(Prince)』。西寺さんは、このアルバムを「今からプリンスの魅力にハマろうとする人に最適のアルバム」だと評します。

「表ジャケットのプリンスは、胸毛を生やし、アフロヘアをアイロンで伸ばしたようなこの時期独特のロングヘアでこちらを見つめている。裏では、ほぼ全裸で翼の生えた白馬に跨がっている。その珍妙な世界観さえ『かわいい』と思えてくれば、プリンスの世界にハマるのも時間の問題だろう」(本書より)

 また、西寺さんが"人生の一枚"として選ぶアルバムだというのは、1986年リリースの『パレード(Parade)』。プリンス初期のファンク、ダンス路線、そしてジャズ感覚と、ヴァラエティ豊かな、さまざまな音楽的ルーツを感じさせる楽曲から構成された同アルバム。なかでも、全米ナンバーワン・ヒットとなった収録曲「KISS」の注目すべき点として、西寺さんは「ベースが存在しないこと」を挙げます。

「音数も削ぎ落とされ、プリンスによるジェイムス・ブラウン的カッティング・ギターとチープに響くリズム・マシンだけで、曲は劇的に展開してゆく。メロウに聴こえがちなファルセット・ヴォイスが、音数の少なさゆえ、エモーショナルで狂気を帯びた野蛮な響きを保ったまま鼓膜に身体に突き刺さる」(本書より)

 長年に渡る西寺さんの、プリンスへの愛に満ちた一冊。プリンスが天才たる所以、そしてその魅力に迫った"プリンス論"が展開されていきます。