水の惑星アクアを舞台にした静かな優しい物語で人気を集めたヒーリング系アニメーション「ARIA」が、完結から約7年ぶりに「みらくる」な復活。原作者の天野こずえ描き下ろしによるオリジナルストーリーも含んだ完全新作「ARIA The AVVENIRE」が9月26日(土)から劇場上映されている。
TVシリーズ第1期から制作を指揮する佐藤順一監督と、声優になるきっかけとなった作品「ARIA」に新キャラクターのアーニャとして初めて出演した人気声優の茅野愛衣。2度目の対談後編では、アフレコでのエピソードについても、より深く話を聞いた。
(前編はこちら)


──佐藤監督、久々の「ARIA」のアフレコについての感想を教えてください。
佐藤 久しぶりという感覚はなくて、この間もやったような気がするくらい。キャラクターについては、今さらキャストに指示を出すなんてことはほとんどないですから。逆に、(主人公の)灯里、藍華、アリスの3人は絵柄が若干成長しているので、「(芝居も)成長した感じにするんですか?」って、僕の方がキャストに聞くという(笑)。
──そこまでですか!
佐藤 そうしたら、(藍華役の)斎藤千和さんが「出たとこ勝負!」と言うので「分かりました」って(笑)。
茅野 キャラクターが何歳なのかを考えるのはやめようって話になってましたよね。
佐藤 そうそう。アイちゃんがアクアに来てから何年経ってとかって計算をすると、年齢は出てくるんですけど。それだと「アリシアさんが大台で……」とか、そういう話になっちゃうんですよね。そんな話をしてたら、(アリシア役の)大原さやかさんが「考えるのやめましょうか」って言うので、やめました(笑)。
──アリシアさんが止めろというなら、止めるしかないですね。茅野さんは、初めての「ARIA」のアフレコはどうでしたか? キャスト陣は「たまゆら」で共演されている人も多いと思うのですが。
茅野 まずは現場に入ったとき、先輩方に「良かったね、良かったね」って声をかけていただいて。「ありがとうございます」みたいな。
佐藤 就職が決まった子みたいですね。
茅野 あとは、今までファンとして観ていたときは「アリスちゃん」と思っていたのに、自分がアーニャちゃんを演じることで「アリス先輩」って呼び名が変わったりして。ちょっと不思議な空間でした。「たまゆら」でもお会いしている方が多かったこともあってか、「たまゆら」の現場にもあるフワッとした空気は感じました。そういうものは、やはり受け継がれていたものなんですかね?
佐藤 そうですね。作品の空気感には共通したものがありますしね。


また後輩ちゃんたちの話もやったら良いじゃないかって気になる


──では、佐藤監督は、茅野さんの演じるアーニャについて、どのような印象を?
佐藤 どのキャラクターでも基本そうなんですけど、僕らの中で「アーニャという子はこういうキャラクターです!」というものが最初からあるわけではないんですよね。セリフとしてこういうことを言っているというのは文字の上で作ってはいますけど、それをどんな風に言うのかというイメージは、ほとんどない状態。むしろ、どんな風になるのか楽しみにしてアフレコに来ているんです。アーニャは「あ〜! そっか!」という感じでしたよ。中原さんのあずさもそうだったんですけど、「そういうラインなのか〜」と思いました。
茅野 想像とは違いましたか?
佐藤 (少し考えて)そうですね。たしかに想像とは違うんです。自分の中にあった茅野さんの芝居のキャパシティというか、今までのお芝居を材料として組み合わせても、ここまでは届かない。もっと癒し系というか、柔らかく包み込むような口調だろうと思っていたんです。でも、それだけではなくて。「オレンジぷらねっと」にいて、(先輩の)アテナやアリスのことをこういう風に見てたんだね、ってことも何となく感じるんですよ。
茅野 あはは。
──セリフに書かれていること以上に、アーニャの内面が伝わってきた?
佐藤 そうですね。それでいて、ちゃんとアテナさんやアリスとは違うものをもっているキャラクターなんだなと感じました。
──茅野さんは、どんなイメージでアーニャを演じたのですか?
茅野 事前にはキャラ表(キャラクターの設定画)もいただいてなくて。スタジオにあったポスターを見て初めて、「こういう色なんだ」って思った感じだったんです。だから、(芝居の方向性を)決めてはいませんでした。アフレコの最初に監督が「オレンジぷらねっと」はこういう雰囲気の会社で、「姫屋」はこういう感じという説明をしてくださったんですね。それを聞いて、ずっとアリス先輩を見てきて、アテナさんとアリス先輩の関係も知っている子なら、こういう感じかなって。
佐藤 アーニャらしさが出ていて良いなと思いました。
──監督の考えていた「アーニャらしさ」が出ていた?
佐藤 僕の考えていたものが(小さな円を描いて)ざっくりこれくらいだとすると、(その円を含んだ大きな円を描いて)こんな感じでしたね。なるほどって思いました。
茅野 良かったです。麻衣さんと一緒に「こんな感じですかね?」「年齢感はこのくらいで良いんですかね?」とか言いながらやっていたので。(スタジオで)監督からも「そんな感じで良いです」とは言っていただいていたんですけど。
佐藤 僕は、おふたりに預ける気満々でしたから。どちらも良い感じのキャラになっていますよ。そうなると、今回だけではもったいないので、また後輩ちゃんたちの話もやったら良いじゃないかって気になるんですよ(笑)。
茅野 だったら、さらにアーニャちゃんたちの後輩ちゃんも作らなきゃいけないですね(笑)。
佐藤 そうやって、無限ループしていく。
──天野先生に聞いたら、「アフレコの後に新しいネタ、思いついちゃって」とおっしゃるかも?
佐藤 あるかもしれませんね(笑)。
──アフレコの時点では映像は未完成だったと思うのですが、茅野さんは特に完成が楽しみなところなどはありますか?
茅野 アイちゃん世代の3人(アイ、あずさ、アーニャ)がどんな風に出会って、ネオ・ヴェネツィアの町でどういう風に絆を深めていくのか。もちろん、お話としては知っているのですが、それを動いている絵で早く観たいです。今日の絵でも雰囲気は伝わるのですが、きっと背景や色味がしっかりつくと全然違うと思うので。そこにまた、素敵な音楽がつくんですもんね。それを想像しただけで、すごく楽しみです。水の音とかのちょっとした生活音も、「ARIA」の中で素敵だなって思うところの1つ。しかも、映画館だったら、もっと鮮明な音で聴けるってことですよね。そう考えると、もう普通に今から早く観に行きたいです(笑)。
──まだ普通のファンのようですね(笑)。佐藤監督は、今作ではどのような点に特に力を入れているのでしょうか?
佐藤 劇場で見てもらうものなので、映画らしい絵作りは意識はしていますし、今回は音響を5.1チャンネルでやってるので、音の広がりも生かしたいですね。「ARIA」ファンにとってはおなじみ、新人たちがサンマルコ広場のカフェでお茶してるシーンも、より広がりを感じて、手触り感のある風景になると良いなと思っています。
──それはぜひ、劇場の音響と大きなスクリーンで観たいですね。
佐藤 今、4部作を作っている「たまゆら〜卒業写真〜」もそうですけど。劇場上映で良いのは、好きな人たちが集まって一緒に観れることなんですよね。特に「ARIA」は、そういう環境で観て欲しいという気持ちはありますね。家で一人で観て泣くのもいいですけど、みんなで集まって泣くのも良いと思いますよ(笑)。
茅野 ティッシュ、ハンカチは絶対に必要ですね!


「ARIA」の世界の皆さんとお喋りができたことが不思議


──今さらですけど……。僕も原作からの「ARIA」ファンですが、まさか「ARIA」の新作が映画館で観られることになるとは思いませんでした。「ARIA」らしい「みらくる」だなあと。
佐藤 今回、アフレコにキャストが揃ったことも奇跡なんですけど、音楽に関しても奇跡があったんですよね。もう録ることのできない河井(英里)さんの歌で、まだアニメに使ってなかった曲が仮歌として残っていたので、それを使っているんです。
──「ARIA」シリーズの挿入歌などを歌っていた河井さん(2008年に肝臓癌で逝去)の曲ですか!
佐藤 もう、この奇跡っぷりは何っていう。
──描かれてない物語があったと思えば、使われていない歌もあったんですね。
佐藤 いろんなところで言っていますが、「ARIA」を作っていると、毎回、そういうことが起きるんです。TVシリーズを第3期までやって、もう「素敵」の出がらし状態なところもあるんですね。
茅野 「ARIA」で出がらしとか、やめてください〜(笑)。
佐藤 作り始める前は、もういくら絞っても「素敵」は出ませんって状態なんですけど。やっていると出るんですよね。「ARIA」なので、最後は(主人公の)灯里のナレーションで締めたいじゃないですか。それも、我々スタッフやキャストにも、ファンの人たちにも響いて、もちろん登場人物たちにも響くような。みんなが「自分にも言ってもらえているんだな」と思えるようなナレーションが良いなとは思うんです。でも、そんなものは全部やり尽くしてるんですよ。もう何も残ってない(笑)。だから、それは欲張りすぎだろうなって思いながらコンテを描きはじめるんですけど、最後のところにくると、「あ、ある! 言える!」って。
茅野 すごい!
佐藤 「ARIA」って毎回そうなんです。奇跡っぷりがすごいんですよ。最後の3話目のコンテを描いたのは自分なんですけど(1話目、2話目はチェック時に加筆)、また「ARIA」に描かされたって感じがありますね。
──では最後に、改めて「ARIA The AVVENIRE」への思いをうかがえますか?
茅野 今回、私の夢がかなってしまった……というか、正直こうやって「ARIA」に参加できるなんてことは、まったく考えていませんでした。とにかく、私もいちファンとして、大好きな作品なんです。だから、天野さんが描いて下さった新しいキャラクターにめぐり逢えて、アーニャちゃんとして「ARIA」の世界の中で息づくことができたのがなによりも幸せです。「ARIA」の世界の皆さんとお喋りができたことが不思議で不思議で仕方がありません。そういう素敵な不思議が「ARIA」では起こるんだなって。私も「ARIA」の素敵な不思議を呼び寄せる何かと糸でつながっていたのかなとか、夢見がちなことを思ってしまっています。藍華先輩には、「恥ずかしいセリフ禁止!」って言われそうですけど(笑)。
佐藤 確実に言われますね(笑)。
茅野 でも、そんな言葉しか出てこないんですよね。そういう奇跡を感じてしまうような、素敵な日になりました。今日は私にとってのARIA記念日ですね(笑)。
佐藤 Blu-ray化して欲しいという声は、数年前から強くあって。メーカーの方たちも、それだけ望まれているのなら、しっかりしたものを作ろうという気持ちにもなりましたし、それを許してくれるだけの作品の力もありました。だとしても、こういう形で皆さんのもとに届けられることになるのは、考えられないことなんですよね。でも、我々がこうしたいなと思ったことはほぼ実現しています。例えば、(アテナ役の)川上とも子さん(2011年に逝去)をクレジットに入れたいと言っても、基本的には難しい話じゃないですか。でも、やっていくと実現するんですよね。そういうことを含めて「ARIA」は特別な作品。ファンの人にとっても特別な作品であることは分かっているので、すごく丁寧に作っています。ぜひ劇場でみんなで泣いて、デトックスして帰りましょう!
茅野 いいですね。みんなで綺麗になって帰りましょう。
(丸本大輔)