アルスエレクトロニカに集結した「未来の都市をサヴァイヴする戦略」

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オーストリア・リンツ市で毎年9月に開催されるアルスエレクトロニカ・フェスティヴァルには、世界中からさまざまな「都市をつくるアイデア」が集結した。脱資本主義、脱中心的で市民主体のコミュニティー、アートとニューメディアを交えた都市の新たなインターフェイス、100年後の環境問題に挑むラディカルな方法論など、そのかたちは多種多様だ。ここから、わたしたちはどんな「都市」の姿を想像することができるだろうか。

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「都市というシステムは、人類史上、人が生き延びるために最も成功した戦略であり、いまなお続く最も偉大な社会実験といえるでしょう。この人類の実験に、デジタル革命が新しい次元を与え、都市というシステムのあり方を変えています」

これは、アルスエレクトロニカ(以下、アルス)が提示した今年のフェスティヴァルテーマ「ポスト・シティ」において、冒頭に掲げられたメッセージだ。

「まちづくり」は行政やディヴェロッパー、はてまた地域に根ざした活動家だけのものではない。都市を壮大な社会実験場と見たとき、従来のルールやインフラをハックし、新たな機能を生み出すことは、いま最も創造的なアクションと言えるかもしれない。そこには、先日の記事(「なぜアルスエレクトロニカは、21世紀に『都市』を問うのか」)でも伝えた通り、アルスが掲げる〈アート&インダストリー〉の思想が垣間見える。このテーマのもと、世界中からさまざまなプロジェクトや作品が、旧郵便局を改装した今年のメイン会場「POST CITY」に集結した。

コミュニケーションを育む、新たな都市のインターフェイス

都市の景色をつくりかえる方法のひとつに「新たなメディア」を用いて、街なかのインターフェイスそのものをハックしてしまう方法もあるだろう。それは、都市と人々をつなぐ新たなコミュニケーションツールであり、国境を超えた体験の交換も可能にする。

アルスエレクトロニカセンターの巨大LEDファサードで実施された「Connecting Cities Facade」プログラム。PHOTOGRAPH BY TOM MESIC

2012年からヨーロッパで始まった「Connecting Cities Network(CCN)」は、アルスをはじめとする各都市のアートセンターや研究機関が集結し、アートとニューメディアを交えた新たなインターフェイスのあり方を探るリサーチプログラムだ。アルスのフェスティヴァル期間中は、リンツ、ウィーン、ベルリン、ニューヨークと連携し、各都市にある巨大ファサードを用いた同時多発的なヴィジュアルプログラムを実施していた。

今年のテーマ「見える/見えない都市の姿(In/Visible City)」に応じて、彼らが試みたのは、水の使用量と排出量や緑がある土地面積など「都市の見えざるデータ」の可視化だ。こうした取り組みは、クリティカルな活用を目指せば、人々の街への関心や参加のきっかけを与えることができるだけでなく、都市間の交流や、都市に眠っていた社会的・文化的なポテンシャルも引き出しうる。


「A tree tweets. A tree reacts.」

都市と市民のインタラクションを促すインターフェイスは、何もデジタルツールに限らない。たとえば、21世紀の都市開発において、人々のコミュニティーを育むグリーンの存在は必要不可欠だ。いまなお壮大なインフラ整備が進む大阪駅周設では、巨大な公園緑地が建設予定だという。都市のインフラのひとつである「グリーン」に着目した電通国際情報サービス・イノラボは、樹木そのものをインターフェイスに変えてしまう作品「A tree tweets. A tree reacts.」を今年のアルスで発表した。

「A tree tweets. A tree reacts.」

この作品はそもそも、MITメディアラボの学生エドウィナ・ポートカレッロとガーション・ダブロンの研究作品「Listen Tree」から着想を得たものだという。どちらもメキシコ出身という背景から、欧米とは異なる自然観をもつ彼らは、増幅や通信機能を司るケーブルを土中に隠し、骨伝導を利用することで、普段は認知されない音響が木の中から響いてくる新たな音体験を可能にした。

電通イノラボはこの木にタッチセンサーを取り付け、さわると体験者の心拍数に合わせて周囲のライトの色が変わる仕掛けを構築。また、大林組とのコラボレーションにより、樹木の健康状態を計測し、必要に応じてミストが発生するシステムを設置した。ミストの気化熱により、周囲温度の冷却効果も得られるなど、有効的な活用を見越したこのインターフェイスは、今後の都市のグリーン開発においてたくさんのヒントがありそうだ。

「都市」は偉大なる社会実験場

今回、「Post City」の名のもとに集められたプロジェクトは4つのカテゴリに分けられている。自動化が促進されるなかで新たな職のあり方を問う「未来の仕事(Future Work)」や、〈移動〉の概念そのものの変革を考察する「未来のモビリティ(Future Mobility)」では、次世代ロボットやメルセデスベンツと研究開発を続ける自動運転カーを展示し、すぐそこまで来ているロボティクスの未来を提示した。

メルセデスベンツとアルスエレクトロニカの共同研究から生まれた完全オートメーションカー「Mercedes-Benz F 015」。フェスティヴァル開始前には実際にリンツ市内の公道を走っていたという。PHOTOGRAPH BY FLORIAN VOGGENDER

また、コミュニティーや公共とプライベートの関係を再定義する「未来の市民(Future Citizen)」、そして、気候変動や監視社会、現在も深刻な状況の続く難民問題など、あらゆる課題における柔軟な解決策を提唱する「未来の回復力(Future Resilience)」が、現在進行形のプロジェクトとともに紹介されていった。

「Future Innovators Summit」の様子。PHOTOGRAPH BY FLORIAN VOGGENDER

アルスの意図は、これらの取り組みを「Post City Kit」と称し、他の都市でも実践できる「キット」として提案することにある。ひとつひとつのプロジェクトは誰かの「作品」ではなく、誰もが使える共有可能なアイデアだ。アルスエレクトロニカと博報堂の共同事業「Future Catalysts」では、世界中からイノヴェイターを召集したワークショップ「Future Innovators Summit」を開催し、都市に活用できるアイデアをその場で生み出す実験を試みていた。


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アジア最大のスラム街、ダラヴィ・ストリート(インド)。

脱中心的・市民主体のコミュニティー

また、「都市」ではなく「市民」のデザインをコンセプトとするアルスにとって、これからのコミュニティーのあり方は最重要ファクターのひとつだ。「Post City」のシンポジウムに参加したインド人活動家ジータ・メフタは、「Social Capital(社会関係資本)」の概念をもとに、ガーナ、インド、ケニアなどの途上国地域で実践的な活動を試みている。

「Social Capital」とは、たとえば公園の掃除をしたり、若者のメンターとなったり、地域事業にスタッフとして参加するなどして稼いだ「社会資本クレジット(Social Capital Credits/SoCCs)」をもとに、子どもや老人のケアなどの福祉サーヴィスを受けられるネットワークだ。ジータは、政府からの公共サーヴィスやインフラが届かないスラム地域において、SoCCsというプラットホームを普及し、人々の中から自発的に生まれてくる自助精神を奨励している。

いわゆる慈善活動のように思えるかもしれないが、このプラットホームは各地で効果的に機能しはじめているという。都市開発者によるトップダウン型のインフラ支援を待つのではなく、自分たちでコミュニティーをつくりあげる「システム/フレームワーク」にこそ、未来の都市を生きる「レジリエンス(しなやかで強靭な回復力)」のヒントがあるとジータは言う。それは、度重なる災害を経験してきたここ日本も例外ではないはずだ。

インターネットヤミ市 in リンツ。PHOTOGRAPH BY TOM MESIC

また、脱中心的なネットワークを構築し、いまや世界中から熱いラヴコールを受けるイヴェントがある。それが、アーティスト・エキソニモを中心とするIDPW(アイパス)のメンバーが始動した「インターネットヤミ市」だ。

「インターネットヤミ市」とは、出店者が“インターネットにまつわるもの”なら何でも売買可能(ただし、違法物はNG)、オフラインでしか買えない“体験”を交換するコミュニティー型のネットワークだ。東京での開催を皮切りに、札幌、ベルリン、ベルギー、台湾、韓国、そしてアルスのあるリンツをめぐり、その翌週にはニューヨークで過去最大規模のイヴェントが展開された。世界各地どこでも、インターネットギーク(のように見える人々)が集い、思い思いの“インターネットっぽいもの”を1ユーロくらいから、時には高額で販売している。その“価値”を決めるのは、出店者と、それを購入する来場者のコミュニケーションだ。

インターネットの登場によって、いまや世界中の誰とでも対話はできるし、ほしいものならすぐに購入できるようになった。しかし、共通の感性をもった人々が同じ場に集い、データではない体験を交換することは、人間が本来もつ欲求であり、コミュニティーを育む価値がある。

重要なことは、こうしたコミュニティーを生む「環境」のデザイン自体が、新たな創造性の萌芽を示唆していることだ。都市をかたちづくる市民の共同体とは、こうしたボトムアップな活動と余白のあるフレームワークから生まれてくるのだろう。都市をつくる未来は、いまわたしたちのなかにある。

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