レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの2015年シーズンも、残すところあと2戦。室屋義秀にとっては、この2レースで「来年のシーズンに向けて、もうひとつ手応えをつかんでおきたい」というのが、正直な気持ちだった。

 第5戦(イギリス・アスコット)で3位に入り、今季初、通算2度目の表彰台に立ったものの、続く第6戦(オーストリア・スピルバーグ)では、今季3度目のラウンド・オブ・14での敗退。浮き沈みが激しく、成績が安定しない室屋にとっては、残る2戦で結果を残し、来季へつながる確かな手応えをつかんでおく必要があったのだ。

 室屋が残る2戦にこだわったのには理由がある。

 今季第2戦(千葉)で「エッジ540 V3」という最新鋭機を導入したものの、新機体の性能を十二分に発揮させるには調整のための時間が必要だと考えていた室屋は、「今季のラスト3戦が勝負」と踏んでいた。ところが、そのラスト3戦の初戦である前回の第6戦で早期敗退に終わったのだから、室屋にショックがなかったはずはない。

 しかも、室屋が「ビデオで見ても違うんじゃないかと思う」と話す、際どいペナルティの判定によって敗退に追い込まれては、悔しさも倍増しただろう。

 残る2戦を無駄にはできない――。室屋がそう強く感じたのは当然だ。

 しかし、悔しさの一方で、室屋は自戒するようにこうも語っていた。

「誰がどう見ても(ペナルティの)疑惑を持たれないように飛ばなければいけない。それをコントロールするのがパイロットの役割だ」

 9月26、27日にアメリカ・テキサス州のフォートワースで行なわれた今季第7戦。残る2戦にかける室屋のフライトを見ていて、彼が第6戦後に残した、そんな言葉を思い出した。

 26日の予選。各パイロットが苦しんでいたのは誰もが同じポイント、第7ゲートから第8ゲートのターンだった。

 ほぼ横一列に並べられたこのふたつのゲートを、パイロットたちは180度旋回、すなわちUターンするようにして通過しなければならない。だが、第7ゲートを抜けた後、ターンを小回りにして最短距離で第8ゲートに入ろうとすれば、ゲートに入る角度がきつくなり、パイロンヒット(ゲートにぶつかる)やインコレクトレベル(機体を水平にできず、傾けたままゲートを通過する)のペナルティを犯す可能性が高くなってしまう。かと言って大回りにターンして角度に余裕を持たせれば、楽にゲートを通過できるが、距離のロスが生じてしまい、当然、その分タイムは落ちる。

 果たしてパイロットたちは多少の差こそあれ、小回りにターンをしつつ厳しい角度で第8ゲートに向かうことを選択したのだが、その結果、次々にペナルティを取られていった。第8ゲートは、このレースのまさに鬼門となっていた。

 そんななか、室屋のターンは誰よりも"美しかった"。

 室屋は第7ゲートを抜けると、機体を大きく左に傾けてタイトにターンしつつも、第8ゲートに進入する刹那、機体をきれいに水平に戻して滑るようにゲートを抜け、またすぐに機体を傾けて次のゲートに向かっていく。

 水平にするのが少しでも早かったり遅かったり、あるいは機体を水平にし切れず傾いていればペナルティを取られてしまうが、室屋はもちろんノーペナルティだった。

 どう見ても疑惑を持たれることのないターン――。それを誰よりも実践していたのが、室屋だった。

 室屋は第7戦を文字通り、美しく勝ち上がった。

 9月26日の予選を自己最高順位タイの2位で終えると、27日の本戦ではラウンド・オブ・14、ラウンド・オブ・8と余裕を残しながらの快勝。ファイナル4ではポール・ボノム、マット・ホールという現在年間総合ポイントで1、2位を占める2強には及ばなかったものの3位となり、再び表彰台に立った。

 室屋はこれが通算3度目の表彰台だが、1シーズンで2度表彰台に立つのは初めてのこと。またひとつ室屋が強くなったことを証明する記録を打ち立てた。来季へつながる確かな手応えとしては十分なものだ。

 とはいえ、実のところ、ファイナル4でのフライトでは、室屋は鬼門の第8ゲートでパイロンヒットを犯している。それまで完璧なまでの美しいターンを披露していた室屋の機体が、このときだけは水平になった瞬間わずかに右へ流れ、翼がパイロンを切り裂いたのだ。

 しかし、そこにすら手応えがあったと室屋は言う。

「第5戦の(ファイナル4で犯した)ペナルティは無駄に攻め過ぎた結果だが、今回はパイロンヒットする可能性も分かっていながらチャレンジした。少し風に流されたこともあってぶつかってしまったが、いいチャレンジだった。フライト全体がコントロール下にあったという意味では、前回よりもいい3位だったと思う」

 第6戦での失敗を補うかのように、第7戦で多くの収穫を得た室屋。それでも勝負と見定めたラスト3戦のうち、まだひとつが残っている。室屋はきっぱりと言う。

「最終戦のラスベガスでは勝ちにいきたい。ラスベガスのコースはフォートワースと似ているので、この機体に合っているし、勝つチャンスだと思う。ファイナル4で1位になるのはなかなか難しいが、目一杯プッシュして(攻めて)優勝したい」

 今季最終戦は10月17、18日のラスベガス。来季へつながる手応えをより確かなものにするべく、室屋は2015年ラストレースを美しく勝ち切ろうとしている。

◆レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第7戦(フォートワース)最終順位

1位ポール・ボノム(イギリス)
2位マット・ホール(オーストラリア)
3位室屋義秀(日本)
4位マルティン・ソンカ(チェコ)
5位マティアス・ドルダラー(ドイツ)
6位ナイジェル・ラム(イギリス)
7位ニコラス・イワノフ(フランス)
8位ピート・マクロード(カナダ)
9位マイケル・グーリアン(アメリカ)
10位ハンネス・アルヒ(オーストリア)
11位カービー・チャンブリス(アメリカ)
12位ピーター・ベゼネイ(ハンガリー)
13位フワン・ベラルデ(スペイン)
14位フランソワ・ルボット(フランス)

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki