かつてマルセイユでプレーした現リヨンのマテュー・バルブエナ【写真:Getty Images】

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名門マルセイユ、突然のビエルサ辞任で低迷

 フランス・リーグ1優勝8回を誇る名門マルセイユが今、大きな危機に陥っている。マルセロ・ビエルサ監督の突然の辞任により急激に失速したチームは14位まで順位を下げ、格下相手への不覚が続いている。その状況にさらに追い打ちをかけたのは、かつての英雄マテュー・バルブエナに対する行為であった。宿敵リヨンに移籍したバルブエナは、直接対決となった一戦で古巣のサポーターから心無いブーイングを浴びてしまった。

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 いったいどこまで落ちて行くんだ…と不安な状況なのが、現在のマルセイユだ。

 8節を終えて、2勝4敗2引き分けの14位。宿敵(ということになっている)パリ・サンジェルマン(PSG)は首位を独走し、開幕2ヶ月目にしてすでにリーグ1残留確定ラインと言われる勝ち点42の約半分の20を稼いでいる。いまだ8ポイントのマルセイユが、彼らを苦しめる存在になることは、まずないだろう。

 開幕戦の直後の会見で指揮官マルセロ・ビエルサが突然辞任を表明したことが影響したことは疑いようがない。彼のもとでプレシーズンの間、補強やチーム作りなど準備を重ねてきたにもかかわらず、わずか一試合で放り投げられてしまった。フロントや選手、スタッフには何の相談もなしに、だ。

 現役時代にはレアル・マドリーで活躍したスペイン人のミチェル氏が後任に選ばれ、初采配をふるった3節のトロワ戦では6-0の大勝。災い転じて福となったか…? と思われたが、その後は好調を持続できていない。

 そして、9月20日に行なわれた第6節、オリンピック・リヨン戦は大荒れとなった。引き金となったのは、マルセイユで8年間プレーし、クラブの魂と崇められたマテュー・バルブエナがライバル、リヨンに復帰したことだった。

 バルブエナは2013/14シーズンを最後にマルセイユを退団すると、翌シーズンはディナモ・モスクワでプレー。わずか1年のロシアリーグ在籍後にリーグ1に舞い戻ったのは良かったが、こともあろうに行き先はPSGと並んでマルセイユがライバル視するリヨンだった。

かつての英雄バルブエナにブーイングの嵐

 激しいブーイングを予想して、試合当日朝のフットボール番組の中でバルブエナはサポーターに訴えた。

「8年間尽くしたクラブに、敵陣の一員として戻るのはハートが痛む。けれど自分はプロ選手として私情は脇へ置いて、ピッチ上で自分の使命を果たすために乗り込む。サポーターのみんなが、僕がベロドロームでシャツを汗まみれにして戦っていたことを、覚えていてくれていると信じている」

 しかし、オベーションで迎えられるなどという心温まるシナリオは用意されてはいなかった。スタンドには、バルブエナのお面をつけた人形が宙づりにされ、『本物のマルセイユ人なら、マルセイユ以外ではプレーしないはずだ!』と書かれた巨大な横断幕が掲げられた。ウォーミングアップに出て来たバルブエナめがけてライターを投げつけた男は、数人の警備員に抱えられてスタンドから連れ出された。

 さらにそこへ油を注いだのが、審判の微妙な判断だった。25分、ゴール前に走り込んだリヨンのエース、ラカゼットがGKマンダンダと接触して倒れ、PKをゲット。これを本人が確実に収めて、リヨンが先制点を決めたのだが、マンダンダのスライディングはラカゼットの足をとらえていたとはいえ、接触直後はいったんしっかりと着地していた。その後倒れ込んだ様子が再生ビデオで流されると、スタンドは激しい不満の声に包まれた。

 おまけに前半終了直前には、MFアレッサンドリーニがバルブエナへの背後からのタックルで一発退場。この緊迫した対戦で、後半45分をマルセイユは10人で戦う状況に追い込まれてしまった。

 後半に入り、数的にも有利になったリヨンの優勢が続くと、サポーターの怒りはますますヒートアップ。罵声にもくじけず、この日マン・オブ・ザ・マッチ級の働きをしていたバルブエナが、彼の十八番である右CKの位置に着いた時には、スタンドから異物が投げ込まれるわ、発煙筒が焚かれるわで、複数の警備員が集合してバルブエナをプロテクトする配置につくまで審判もプレー開始の笛を吹けない有様だった。

 そして62分、ついに主審は騒ぎの悪化を懸念してゲーム中断を決定。選手たちはいったんロッカールームに引き上げ、会場が冷静さを取り戻すまで試合は中断された。

試合は一時中断。試合に水を差したサポーターの愚行

 約25分後に試合が再開されてから終了までの30分は、両軍ともに熱のこもったプレーを展開し、今夏加入した20歳のオランダ人DFレキクが右CKをヘディングで押し込んでホーム側に貴重な同点打を献上すると、1-1のドローで両者が分け合った。

 この状況の中、マルセイユもリヨンも、集中を切らさず最後まで白熱したパフォーマンスを見せたのは立派だった。標的にされたバルブエナも、さすがの強心臓。ゴールチャンスにつながるパスワーク、そして何より、チームを盛り立てるエネルギッシュなプレーでリヨンの面々をメンタル的にも支えた。

 …と、ピッチ上の選手たちが誇らしいパフォーマンスを披露しただけに、サポーターの愚行が残念でならないのだが、16位という彼らにとってありえない順位でリヨン(8位)を迎えるなどということになっていなければ、バルブエナへのバッシングも違ったものになっていただろう。

 この試合のためにクラブ側は、通常の5倍である750人の警備員を配置し、地元警察へ要請してスタジアム周辺のパトロールも強化した。この日の警備だけで、およそ4000万円という莫大な費用を投じたという。

 しかしそれでも間に合わず、試合中も紙くずやビール瓶がピッチに投げ込まれ、発煙筒が焚かれ、その後のビデオを調査で身元が確認された10人が現時点で逮捕されている。クラブ側も責任を問われて、スタンドの一部閉鎖や罰金といったペナルティを課されることになる予定だ。

次節はPSG戦。懸念される再びの暴動

 マルセイユは次の7節も、17位と低迷するトゥールーズに1-1のドロー、続く8節は、今夏16年ぶりにトップリーグに昇格したばかりのアンジェにホームで1-2の敗戦という屈辱を味わわされた。そんなタイミングで迎える次の試合は10月4日のPSGとのクラシコだ。ここでも超厳戒態勢が敷かれることになるだろう。

 マルセイユサポーターの蛮行にピリピリしているのは、リーグ1だけではない。おかんむりなのはスポーツ省だ。リヨン戦の翌日、長官のパトリック・ケネルは「スタジアム内に発煙筒や瓶を持ち込ませるとは、いったい警備は何をしているのか! サポーターの行為を審判のせいにしているラブルーヌ会長もけしからん!」と大怒りのコメントを出したが、彼が憤慨している理由は、2024年のオリンピック開催地にパリが立候補しているからだ。

 ロンドンに奪われた2012年大会から落選を続け、『次の2024年こそは必勝!』を旗印にキャンペーンを進めているフランスにとって、スポーツイベントでの暴力事件は対外的に一番大きなマイナス要素になってしまう。

 現時点では、マルセイユサポーターは500人だけがパルク・デ・プランスでの観戦を認められている。過去に、両者の対戦後ビール瓶の投げ合いが続く中で飛び散る破片の合間を縫うように帰宅した怖い記憶が思い出されるが、今回は穏便に片付く事を祈りつつ、サポーターには違うことにエネルギーを使ってもらいたいものである。

text by 小川由紀子