「団地住まいのワケアリ家族」を登場人物としたファミリードラマなのに、出てくる連中はほぼ全員"ヒール"という1962年の日本映画『しとやかな獣』。

 とある団地のとある一家の1部屋だけで約9割の物語が進行する密室劇の形を採っている本作。60年代初頭の戦後復興から高度成長期に沸く時代背景、そして団地に住むということが、当時の中流家庭のイメージだったことを認識しておくと、作品世界への理解が進むでしょう。

 冒頭では、勤務する芸能事務所の金を横領した息子に事情確認すべく、上司と美人会計(と所属タレント)が一家の団地の部屋にやってくるということで、父と母は高そうなものを隠して貧乏感を演出。上司一団が来るや「息子に限ってそんなこと」としらばっくれる。
 一方、一家の金づるは娘の愛人である小説家なのだが、。別れ話が出て「アタシ、先生と別れたくない」とぼやく娘に、次の金づるを探せば良いさとドヤ顔発言する父(とかいいながら中盤で搾り取れるだけ搾り取ろうとするんだけども!)。

 子供たちからなじられた父は「あんな生活に戻れるものか。犬や猫だってあんな惨めじゃないよ」と淡々と語る。それに誰も反論しないことで、この家族がカネに執着する、つまりヒールな生活を選択したことがわかる流れ。
 その後も息子の新たな横領が発覚したりと、数々の悪事がブラックな笑いに包まれながら露見して行くのです。

 しかし、上には上がいます。息子君に数多の横領を働かせ、上司や別の男まで手玉に取っていたのが、若尾文子演じる美人会計! 若尾文子が階段を昇りながら野望を語る"白い階段シーン"は成功への欲望、過去への決別を思わせますが、プロレスでいう花道の入場シーンのようなものでもあり、ここから悪女スイッチが全開。後半には"旅館の女将"にギミックチェンジして登場し、一家を上回るヒールっぷりを披露します。

 プロレスの場合、リング上の全員がヒールというのはそうないことですが、観客にとって心地よい言動をするヒールと、単なる暴漢のような共感できない言動のヒールかによって、推しと引きが変わります。

 こういった観点からみると、飄々としながらも貧乏生活に戻るまいとする強固な理念を持つ父は思わず肩入れしたくなるヒールだし、女に騙されて横領しまくった息子は愛すべきヘタレヒールそのもの。美人会計の計略も見越して「(横領は)警察沙汰にはならないわ」と踏む母の不動のヒールっぷりも面白い。

 人物造詣だけでなく、「能」を意識した太鼓の音や所作などの演出も本作の特徴で、悲劇的末路を遂げる男役の船越英二、母役の山岡久乃の能面のような表情は見ものです。

 また、一家の部屋を軸に、外や中だけでなく、上下の視点を駆使した映像は、一部屋だけを舞台にした作品とは思えぬ多様性が楽しめます。いわば一家の生活を覗き見る感覚なんですが、時に家族の誰かと共に傍観者になれる場面など、プロレス中継で試合を見守るような気分になれました。

 古い作品ですが、その内容に加え、ブライアン・デ・パルマにも引けをとらない川島雄三監督の演出の妙など、日本映画の面白さが感じられる作品として強くオススメ出来る一本です。

(文/シングウヤスアキ)