85%が画像所見で異常が見られない(shutterstock.com)

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 腰痛は現代病の一つであり、多くの人が経験している。正しく対処すれば、風邪と同じように治るものなのだが、実際は多くの人が腰痛に苦しんでいる。その理由を考えてみよう。

 腰痛といっても実際は様々な原因、病態がある。脊椎管狭窄症、椎間板ヘルニア、腰椎すべり症......。すべて「腰痛」と呼ばれてるものである。しかしながら、全て原因も治療方法も異なる。そして、さらに厄介なことに、腰痛の85%がこうした原因が明らかにされているものではない。「非特異性腰痛」と呼ばれている"原因不明"といわれているものだ。

 非特異性腰痛とは「画像所見で異常が見られない腰痛」と定義されている。画像所見とはレントゲンやMRIのこと。その画像所見で、特に異常や訴えとの関連性がない腰痛が、85%にも上るのである。つまり、原因不明というのは、画像所見では原因不明、ということでもある。

 しかしながら、ふと疑問に思うことはないだろうか? 85%にものぼる非特異性腰痛だが、「そんな診断名、つけられたことがない」「聞いたことがない」と。

「非特異性腰痛」では"保険点数が取れない"

 そこには、日本特有の「保険制度」が関係してしまっているかもしれない。日本は、診断名によって保険を使えるかどうかが決定する制度だ。保険が適応されない診断名であれば保険は使うことができない。

 非特異性腰痛は比較的新しい概念なので、まだ制度が追いついていない。そのため、「保険点数」が取れる診断名一覧には入っていない。だから「非特異性腰痛」という診断名がつけられることもほとんどないのだ。

 さらに、日本のような国民皆保険制度は、患者が医療機関に簡単にアクセスできる。医療機関の選択が自由な反面、医者が忙しく患者の検査に充分な時間を取れないというデメリットがある。そのことも一つの要因だ。本来であれば、腰痛に対しては、触診や動きの検査などを行いながら診断するのが理想である。だが、日本の医者にはそのような時間的余裕がないのが現実だ。

 そうなると活躍するのが「画像所見」。疾患に関連のある部位をレントゲンやMRIなどで画像を撮ってもらい、その画像をもとに診断することが効率的だ。しかしながら、腰痛は画像だけだと約85%が診断できない。すると必然的に「原因不明」の腰痛ができあがる。

画像診断で腰痛ではない重大な病気が見つかることも

 このように日本の保険制度の特徴が絡み合って、そもそも正確な診断が難しい腰痛を、さらに難しいものにさせてしまっている。では、画像診断は不要なのか、というと決してそういうわけではない。

 画像所見は、深刻な疾患を見つけるのにとても適している。この深刻な疾患とは、悪性腫瘍や骨折、大動脈瘤などである。これらは腰痛ではないにもかかわらず、腰が痛く感じることがある(これを関連痛という)。

 これらに気づかずに運動やマッサージなどを行うと、症状がさらに悪化し、最悪な場合死に至る。大動脈瘤があるのに気づかずにマッサージをして破裂させてしまうことも可能性としては考えらえるのだ。これらの深刻な疾患を除外するのに、画像所見はとても有効なのだ。

 つまり、画像所見で重篤な疾患を除外し、あとは動きや触診などで腰痛の原因を明らかにしていく。これこそが、実は海外で当たり前に行われている診断方法だ。このような検査・診断を行うには、医者だけでなく、理学療法士などの協力が不可欠である。日本人の"腰痛難民"は、医療制度が生み出しているのかもしれない。

三木貴弘(みき たかひろ)
理学療法士。日本で理学療法士として勤務した後、豪・Curtin大学に留学。オーストラリアで最新の理学療法を学ぶ。2014年に帰国。現在はクリニック(東京都)に理学療法士として勤務。一般の人に対して、正しい医療知識をわかりやすく伝えるために執筆活動にも力を入れている。