広島の若きストライカー浅野拓磨【写真:Getty Images】

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途中出場から2ゴール。才能を存分に放った浅野

 26日に行われたJ1セカンドステージ第12節、サンフレッチェ広島はアウェイで清水エスパルスと対戦した。2-0からチョン・テセのゴールで1点を返し、勢い付く清水を突き放したのは、途中出場の浅野拓磨だった。巧みなループシュートを含む2ゴールを決め、広島の勝利に貢献した。この若きストライカーは、謙虚な姿勢を貫きながらも確かな成長を見せている。

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 時が止まったかのようなチップキックでのループシュート。日本のリオデジャネイロ五輪出場へカギとなる存在の一人、広島の若きストライカー浅野拓磨がゴールを奪う才能という選ばれた者が持つ光を、存分に輝き放つ時が来たと予感させた。

 J1セカンドステージ第12節、清水エスパルス対サンフレッチェ広島。残留に執念を見せる清水がチョン・テセの2試合連続となる豪快なヘディングゴールで2-1と1点差に迫ると、サイドから猛攻を繰り返した。広島の左サイド、柏のスペースで自由を許した時間帯は、王国の灯を絶やさないと食い掛かるオレンジの勢いが紫を飲み込む寸前でもあった。

 しかし、この日も佐藤寿人に代わって登場した浅野拓磨は後半35分、GK林卓人からの一本のロングパスに、清水のセンターバック平岡と、広島・森保監督が試合後「スピードだけでなく駆け引き、(ボディ)コンタクト」で成長を見せた駆け引きに競り勝つと、GKをこの日大胆なカウンターから先制を奪っていたドウグラスと同じような交わし方で置き去り、無人のゴールに追加点をねじ込んだ。

 171cmながら体重はベストが70kg前後。浅野も「サイズだけはダニエウ・アウベスと一緒です」とオフに屈託なく話していた浅野だがなんのその、ボディコンタクトの強さも見せて今シーズン、リーグでは途中出場での7ゴール目となった。勝ち点3へあきらめない清水が重ねた猛攻からのまさかの、追加点を許した日本平のスタジアム。

 再び静寂に包みこんだのは、後半35分だった。ドウグラスのパスに、トラップでディフェンスラインからのゼロスタートで一気に振り切ると、GKとの1対1を、今度は冷静にチップキック。紫の歓喜と、オレンジの静寂をBGMに、ボールは小さな弧を描いてゴール中央に吸い込まれた。

プロ初のリーグ戦1試合2ゴールも謙虚さ忘れず

 プロ初のリーグ戦1試合2ゴールに浅野は「2点目は、今までになかった形。自信になった」と、いつも自分はまだまだだと謙虚な発言が多い二十歳の青年が手ごたえを口にした。

 本媒体のマネージング・エディターのチェーザレ・ポレンギも「イリーガルだ!」と感嘆の声を連呼した。我々が子どもの時にスポーツのゲームをすると、少し大人がやってきては試合をかっさらっていくときの「反則だ!」とでも言うような呆れるほどの個の違いを見せつけた、一瞬の裏へ抜ける獰猛さと獲物をしとめる冷徹さが織り交ざった浅野の今シーズン8点目であった。プロ初ゴールを挙げたシーズンに、一気に二ケタ得点もこれで視界に入れた。

 浅野の視界を広げているのは、ゴールの圧巻さだけではない。ファウルを受けても、すぐに立ち上がり、ファーストポジションへ向かう切り替えの早さである。謙虚に、かつ野心的にゴールを欲する両面を持ち合わせているからこそ、その仕切り直しは早い。

同郷の先輩・水本の支え

 指揮官、森保一のイズムともいえるフェアプレーを通じた勝利への執着、そこにある冷静さである。この謙虚さを支えるのは時にプロの厳しさを身をもって伝えながら、温かいまなざしを送るA代表経験を持つチームの先輩でもある。

 この日、一瞬のヘディングで決勝点を叩き込んだディフェンダー水本裕貴は同郷・三重県の後輩を日ごろから見守ってきた。セカンドステージ9節の名古屋戦、自ら得たPKに浅野はキッカーを志願した。蹴る気満々の野心を放つ浅野に、水本は近づくと「笑え」と一言伝えたという。浅野は落ち着いた一振りで、このPKを沈めた。

「先輩たちにはピッチだけでなく、オフザピッチでもコミュニケーションをとれている。近い距離にいて、励ましの言葉が多い。失敗してもチャレンジしていけと掛けてくれる」という若きストライカーを育てる術を称える選手が広島の主軸である。

 水本自身も今シーズン初ゴール(これでこの日のGK以外の先発選手全員が今季のゴールを記録したことになる。水本も「(一人残され)正直焦りはあった」という納得のヘディングゴール)を挙げて「二人で喜べる結果が出てうれしい」と郷土愛もにじませた。

まだまだと語る浅野の飽くなき向上心

 もう一人、深いコミュニケーションで後輩を強くけん引しながら、若手が醸し出すピッチの厳しさも実感するのは塩谷司。寮生を中心に誘う食事会では「呼ばない選手がもしいれば不公平になる」からと若手全員にごちそうをふるまう豪気の男である。「頑張っているのは拓磨だけじゃない。みんなそう」と2ゴールを奪い、記者に囲まれる後輩に目を細めながら落ち着いた語りで始めた。

「2部練を続けながら、次の相手を想定したチームの役割として紅白戦を戦ってくれている。サブ組との紅白戦のほうがキツいときもある」

 試合に出てない選手が高いモチベーションで挑む日常ゆえの「チームがまとまっている。練習が厳しい」と2013年シーズンとの違いを塩谷は語りつつ、「(今日の2ゴールは)頼もしいといえば頼もしいですけどね」と筆者のやや誘導的な質問を肯定してくれた。

 浅野は常日頃から決勝点、すなわちチームを救うゴールにひと際意味を置く。途中出場でのゴールは決勝点であり、この日のように劣勢を跳ね返す貴重な追加点でありと、一層の歓喜を導く一振りが多い。セカンドステージ、年間と優勝争いをするチームを十二分に助けている。

 しかし、毎試合後まだまだだと言葉を重ねる浅野。常に課題と高みを要求するのは、J1歴代最多得点に王手をかけるエースに全てが学ぶところとその背中を追いつづけ、失敗に落ち込みがちな7人兄弟妹の3男にチャレンジを説き続ける、優勝を知る選手たちと毎試合に向けた準備を過ごすからでもあろう。身に染みるつつある探究の心が、浅野のモチベーションの高い日々を支えている。

text by 竹島史雄