保守的でおとなしい──。そう評されることの多い山口県民が珍しくビンビンに弾けている。熱狂のもとはサッカーJ3を舞台に戦うレノファ山口だ。

 9月23日現在、21勝1分6敗の勝ち点64で、堂々のJ3首位。残り8試合で2位の町田ゼルビアに勝ち点6の差をつけている。このまま白星を重ねていけば、来季のJ2昇格も夢ではない(実際に昇格するにはJ2ライセンスが必要)。

 レノファが中国リーグからJFLに昇格したのは昨年のこと。そのJFL初シーズンで4位(16勝3分7敗)に食い込み、今季からJ3へ。すると、J3でも予想外の快進撃で首位を独走し、J2へと駆け上がろうとしている。まさにトントン拍子の上昇ぶりだ。

 山口県は長い間、プロスポーツ空白県で、県民は他県のチームを応援するほかなかった。例えば、プロ野球だと、広島県に近い県東部はカープファン、県中央部は巨人ファン、関門海峡を渡れば九州の県西部はホークスファンといった具合だ。レノファのサポーターが声をうわずらせながら事情を話す。

「Jリーグも同じでした。これまで県民は近県にホームがあるサンフレッチェ広島やアビスパ福岡、大分トリニータなどを応援してきました。でもね、しょせんは外様。なんだか虚しかったんですよ。それが、レノファがめきめきと強くなって、やっと山口県民が一丸になって応援できるプロスポーツチームができた。こんなうれしいことはありません」

 レノファの快進撃を支えているのは、その爆発的な得点力だ。今季J3第30節までに叩き出した得点は76。得失点差は48にもなる。2位の町田ゼルビアが得点40で得失点差25、3位の長野パルセイロが得点30で得失点差12なのと比べると、レノファの攻撃力がいかに突出しているか、よくわかるだろう。

 J3得点ランキングでも、1位=岸田和人、2位=島屋八徳(しまや やつのり)、3位=福満隆貴(ふくみつ たかき)、5位=鳥養祐矢(とりかい ゆうや)と、レノファ勢が上位5名のうち4名を占める。今季、2点ビハインドの試合を3度も逆転するなど、試合展開もスリリング。レノファの柴田勇樹広報部長が苦笑しつつ言う。

「FW岸田をはじめ、うちの選手はとにかくアグレッシブ。チャンスと見ると、どんどんゴールに向かって相手DFの裏に走り込む。勝っていても引かず、むしろ追加点を狙うようなチームですね。失点は、あまり気にしていないみたいです」

 この圧倒的な攻撃力のほかに、もうひとつ、サポーターが熱心にクラブを応援する理由がある。それは選手がみんな若くて無名だということ。J1、J2経験を持つ選手はごくわずかで、海外で実績を積んだ外国人選手もいない。ほとんどがフレッシュな選手なのだ。

「AKBが会いに行けるアイドルなら、レノファの選手は会いに行けるJリーガー。無名の選手を一から応援し、育てるという感覚がたまらないんです。ビッグクラブの応援ではこうはいきません」(前出のレノファサポーター)

 ただ、レノファにも課題はある。それは財政だ。山口県サッカー協会の小林訓二専務理事が説明する。

「J2昇格に備えて、今年6月にライセンスの申請をしました。取材ブースやトイレの増設など、ホームとなるスタジアムの改修も必要ですが、それ以前にクリアしなければいけないのが財政問題です。残念ながら、レノファは2期連続の赤字。3期連続赤字になると、ライセンスは失効となる。何としてでも、今季はクラブの経営を黒字にしないといけません」

 そこで立ち上がったのが、サポーターをはじめとする山口県民だった。レノファのホームタウンのひとつ、山陽小野田市の小野田青年会議所が中心となって、「オレンジ8682」なるプロジェクトを立ち上げたのだ。これは、今年8月15日、山口維新百年記念公園陸上競技場であったレノファ山口vsFC琉球戦をチームカラーのオレンジ色で埋め尽くし、J3の観客動員記録8682人を塗り替えようというもの。プロジェクトリーダーの岡山怜二同会議所副理事長がこう話す。

「当日の観客は8474人で、記録更新はできませんでしたが、入場券の売上げ増などで、レノファの財政を支援できたと思っています。チケットを1000枚以上、宇部市が発祥のユニクロさんから安く譲ってもらったオレンジ色のTシャツを800枚以上売ることができました。こだわったのは入場券を1枚1枚、手売りしたこと。招待券をバラまいて動員記録をつくっても、一過性に終わるだけ。息の長いレノファサポーターになってもらうためには、身銭でチケットを買ってもらい、スタジアムに足を運んでもらうことが大切なんです」

 地元の大学生らもレノファ支援に乗り出した。山口レノファ学生団体「RISU」の奥田真成代表(山口大3年)が声を弾ませる。

「レノファの職員は10人ほどで、手が足りない。そこでゲームのたびに会場設営などをボランティアで手伝っています。8月15日のゲームには心を動かされました。競技場のスタンドがオレンジ一色に染まって、うねりのような応援の声が上がった。これまではゴール裏のサポーターが声を出すくらい。以前とはまったく違う光景を見て、レノファを通じて多くの県民が集まっているんだと実感しました」

 レノファ人気が盛り上がるにつれ、試合開催日になると、山口市内の国道9号がサポーターの車列で渋滞するという現象も起きている。

「おらが県の、おらがチームを県民一丸となって応援する。それが地域をつくり、地場の経済を活性化するということを、やっと山口県民は体験しようとしているんです。プロスポーツ空白県だった山口にとって、レノファは本当にありがたい存在なんです」 (小林訓二専務理事)

 本州最西端のちっぽけなクラブが挑むJ2、そしてJ1への夢。山口県民の熱狂はやみそうにない。

姜誠●文 text by Kan Son