GKを交わした後、カバーに来るDFをものともせずに右足を一閃。相手の股を抜き、リード2点に広げる貴重なゴールを奪った。 写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)

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 75分、GK林卓人がフィードを送った先には、浅野ひとりに対して、清水のCBが2枚待ち構えていた。すると、浅野はポストプレーをすると見せかけて相手DFに身体をぶつけ、すかさずターン。一瞬でフリーとなってフィードを足もとに収める。そして、GK杉山力との1対1も冷静に切り返してかわすと、思い切り右足を振り抜いてゴールネットを揺らした。
 
 2-1と詰め寄られ、清水の猛攻を受けるなかで、相手の戦意を削ぐ価値ある一撃。そして浅野自身の成長も詰まったゴールだった。「(反撃の嫌な)空気を変えるために1点を取ることしか考えていなかった」という浅野はゴールシーンをこう振り返る。
 
「しっかり身体をぶつけて、マイボールにできたのが大きかった。『前線で身体を張る』という意味で、自分が成長している結果がひとつ出たシーンだと思います。GKをかわした後、(相手DFが)カバーに来ているのも分かっていましたけど、コースを狙うよりも気持ちでねじ込んだ感じ。相手に当たっても入るくらいの強いシュートを打ったつもりなので、イメージ通りであった分、自分の自信になりました」
 
 布石はあった。ゴールを決めるまでに2度、ロングボールに抜け出たシーンが見られたが、いずれも対峙した角田誠のショルダーチャージを受け、球際で撥ね返された。さらに言えば、角田が川崎に所属していた第1ステージ10節でも、同様の攻防が展開されている。その“失敗”から「逆に相手に身体をぶつければ、裏を取れる」とイメージを湧かせたのだ。
 
 59分に浅野に出番を譲り、その様子をピッチサイドで見守ったエースの佐藤寿人も、後輩の成長を認める。

「1点差に詰め寄られて、下手したら追い付かれてもおかしくない場面もあったなかで、3点目を取れたことでチーム全体が余裕を持ってプレーできた。チャンスらしいチャンスではなく、GKからのロングボール1本から1対1を作った点、そしてあの時間帯に入ってすぐにゴールを決めた点に、彼の成長が見えたと思います。チームを救う1点だったし、拓磨の存在は本当に頼もしい」
“浅野タイム”は1点目を挙げたわずか5分後に再び訪れる。ドウグラスのパスを絶妙なトラップでペナルティエリア内に流して最終ラインを置き去りにすると、飛び出してくる相手GKの動きを冷静に見極め、鮮やかにチップシュートを決めて見せたのだ。すでに1点挙げていたことによる余裕のほかに、昨季同じアイスタで味わった苦い経験が、2点目の呼び水になったという。
 
「2点目の時、昨季このピッチで1対1を決め切れずに悔しい想いをしたことが頭をよぎりました。でも、その試合では『ドリブルでシュートまで持ち込む』プレーが通用すると分かった試合でもある。GKとの1対1で冷静さを保てたのは、去年の経験があったから。リベンジしたいと言っていたので、それが実現できて良かったです」(浅野)
 
 清水戦の2点は、これまでの浅野だったら外していたシチュエーションだ。だからこそ、ゴールを決めたことに価値があると森保監督は話す。
 
「GKとの1対1、DFとの競り合いでの駆け引きが上手くなりましたね。これまでも何度も1対1や抜け出せそうな局面で駆け引きに負けて決定機を逃していたところが、今日はモノにできていた。状況に合わせた冷静さ、判断力が身に付き始めたのは拓磨の成長でしょう。常に向上心を持っている彼は、経験を重ねれば重ねるほど、それを自分の血肉に変えている。貪欲さがある限り、これからもどんどん伸びていくでしょう。もちろん、これで満足してもらっては困りますけど(笑)」
 
 森保監督の言葉に呼応するように、記者陣に「ハットトリックも行けたのでは?」と問われた浅野は、その可能性が十分にあったことを認め、反省を口にしている。
 
「正直3点目は取れたと思います。中盤でボールを受けてターンしたにもかかわらず、(ゴールに向かうのを)躊躇して奪われたシーンがあったんですが、2点取っていたとしても、あそこはもっと自信を持って貪欲にゴールに向かうべき。そこが自分にはまだまだ足らないと改めて感じました。今日の試合には全然満足していません」
 
 この日の2点で、今季のゴール数を8まで伸ばしたが、浅野はふた桁の10ゴールをひとつの目標にしている。それは同時に、「途中出場でシーズン10得点」というJ1記録を打ち立てることにもなる。だが、本人は記録を多少は意識していることを認めつつも、「目指すところはそこではなく、スタメンで出てチームの勝利のために貢献することが一番大事」と話す。

 笑顔でピッチに送り出してくれるエースのため、そして第2ステージと年間のダブル優勝を目指すチームのために――。背番号29はさらにギアを上げていくつもりだ。
 
取材・文:小田智史(サッカーダイジェスト編集部)