【9月特集】 優勝か? 失速か? 阪神タイガースの秋(8)

「選手の頃は大好きやったんやけどなぁ......」という声は多く、選手時代の和田豊を悪く言う阪神ファンはほとんどいない。しぶといバッティングに堅実な守備。藤田平から受け継いだ背番号6は、常にフォア・ザ・チームのプレーで暗黒時代のタイガースを支えた名選手だった。

 ところが、そんな生え抜きレジェンドがタイガースの監督に就任すると、なぜか采配に「?」マークがつけられ、毎年のように「クビだ」「更迭だ」と厳しい意見がファンの間で浮上している。

 よく考えれば、就任1年目の2012年こそ5位に沈んだものの、翌13年はセ・リーグ2位。昨年もシーズン2位からクライマックスシリーズ(CS)で巨人を倒し、日本シリーズに進出した。今年も9月に入って失速気味とはいえ、CS圏内はなんとか確保できている。

 結果だけ見れば、まずまずの実績。「名将」とまでは言えないものの、けっして「迷将」ではない。なのに、なぜか和田監督の手腕を評価する声は少ない。これは一体どういうことだろう。タイガースファンは、和田監督に辞めてほしいのか? 続けてほしいのか? その本音を甲子園球場周辺で聞いてみた。

「和田の采配はいつもセオリー通りで、ソツないかもしれんけど、素人でも先の読める眠たい野球ばっかりや。ワシらが見たいのは、『それはないやろ!』いうアホな起用とか、『そう来たか!』いうファンをうならせるタイガースらしい采配。競馬新聞の本命予想みたいな当たり障りのない野球なんか、面白くもなんともないやろ。勝ち負けだけやったら甲子園にまで来る必要ない。サンテレビで十分や」(うどん店店主・45歳・自称ファン歴45年)

「野球がショボい! 監督の指示なんやろうけど、お利口さんばっかりの小さい野球になってもうた。ちんまりした阪神なんか見たないわ。でもなぁ、和田さんはええ人やからなぁ......。これが岡田やったら『アホ、ボケ、辞めてまぇ!』って大声で言えるんやけどなぁ」(会社員・35歳・元高校球児)

 どうやら、続投に否定的なファンの多くは、和田監督のマジメな人間性を認めつつも、豪快さに欠ける、セオリー通りの地味な野球にストレスがたまっているようだ。また、関西圏の経済にも大きく影響するというタイガースだけに、甲子園界隈のお土産店からも悲鳴に似た声が寄せられた。

「そりゃ監督の影響は大きいよ。実際、星野仙一監督の頃には監督グッズが飛ぶように売れたからね。ボビンドールにぬいぐるみ、キーホルダーにサインボール、各種アパレル......。でも、華のない和田のグッズなんか、ゴーフルと86弁当くらいのもんですわ。ほしがる人、誰もおりませんやろ?(苦笑)。阪神の監督は、もっと喜怒哀楽を表に出す絵になる人であってほしい。そしたらもっとグッズが売れるんやけどなぁ...」(甲子園球場近くのお土産店店主・60歳)

 気の早いファンの間では、既に次期監督の候補選びも始まっている。中でも多数派を占めるのが「掛布雅之待望論」だ。

「和田さんは、暗黒時代に唯一ちゃんと野球やってくれた人なんで好きなんやけど、監督になってからは試合が盛り上がらない。来季はみそぎの終わった掛布さんにやってほしいです」(スポーツバーのマスター・39歳)

「生きてるうちに、掛布監督と江川監督の試合を見たい。江川が打たれて首をかしげるシーンが、お互い監督という立場でもう一度見たいなぁ」(居酒屋経営・65歳)

 一方、和田監督への擁護論もあった。2年連続シーズン2位。今年も「日本一の可能性」を残す和田監督を批判するのはおかしいという気持ちも当然だろう。熱烈な野球ファンで知られる関西の人気タレント岩井万実さんが言う。

「グラウンドに入れなかった女子の私にとって、グラウンド=聖地。そこで野球をし、お金を稼ぐプロの選手や監督は、私にとってはすごくすごく尊敬する人たちです。なので、安易に和田監督を批判するファンを見かけると、正直イライラします。『じゃあ自分はできるんか〜! 文句しか言えんのか?!』と(笑)」

 とはいえ、球界1、2を争う人気球団の監督ともなると、求められるのは勝敗だけでは済まないのかもしれない。阪神タイガース評論家の菅野徹(鳴尾浜トラオ改め)氏が、最後にファンの想いを総括してくれた。

「もちろん優勝してほしいので、チームを全力で応援しています。でも、『和田監督続投ダメ! ゼッタイ』です。とにかく今のチームは気が弱すぎます。それは監督のせいだと思います。

 相手先発の新人投手が1番・鳥谷に四球を出しても、2番・大和には絶対に送りバント。好不調や相性にかかわらず、頑なに右投手には左打者、左投手には右打者。盗塁はナシ、エンドランもスクイズもナシ。長打がないから走者2塁でも相手の外野は極端に前に守り、ヒットが出ても3塁でストップ。相手にとっては、ずいぶんと『やりやすいチーム』になってしまいました。

 気弱さは、選手の起用法にも感じます。伸び盛りの若手には厳しいくせに、外国人やベテランには危機感を煽って競争させようとはせず、どんなに不振でも『やってもらわなきゃ困る』と甘い。結果として、ゴメス、鳥谷、マートン、福留に誇れるほどの成績はなし。トータルではリーグ最少得点です。

 投手についても、先発は藤浪、メッセンジャー、能見、岩田を主戦として回し、足りなくなったらメッセ、藤浪の登板間隔を詰めて対処しました。当然、新たな投手の活躍もなく、どんどん選択肢が狭まりました。ブルペン陣も同様で、安藤、福原、呉昇桓、それと高宮くらいしか信頼感は得られず、他の投手は伸び悩んでいる印象だけが残っています。

 結局、野球がどんどん小さくなって、思い切った采配は影をひそめ、選手起用も狭い幅の中でちょこちょこやるだけ。しかも毎年同じことの繰り返しで、『今年こそは』の期待が裏切られています。

 おそらく、これは和田監督がダメというより、和田采配を良しとする球団経営陣がダメなのだと思います。阪神は電鉄会社なので、予想外の変化よりも『敷かれたレールの上を決められたダイヤで』がいいのでしょう。高い給料の人が、額面通りに働いてくれるのが何よりという企業文化があるように感じます。

 でも、ファンが求めているのは、激しい競争の中から若い選手がドカーンと伸びてくること。活気溢れる、思い切ったプレーがバンバン飛び出すこと。球団は、現状にファンが満足してないことを認識して、それをやってくれそうな人にチーム改革を任せてほしい。来季に向けては、大物監督の外部招聘に期待しています」

 ファンの望むものが「満足感」という抽象的なものであるとすれば、和田監督問題が抱える悩みは深そうだ。

ダカーポ●構成 text by dacapo