和歌山県にて開催中の「2015紀の国わかやま国体」。もしチャンスがあるのなら、バスケットボール少年男子の宮城県代表、八村塁(はちむら・るい/明成高)のプレーを会場で見てほしい。なぜならば今後、彼のプレーを日本国内で観戦することができる機会は、さほど多くないからだ。八村は高校卒業後、アメリカの大学に進学することが濃厚で、さらにその後は世界最高峰の舞台――NBAでプレーする可能性も十分にある。

 ベナン人の父を持ち、199センチの身長と長い手足、そして抜群の身体能力、さらに稀有な球技センスを持つ17歳の少年は、現在日本人選手でNBAにもっとも近い位置にいる。

 小学校時代、八村は陸上と野球をやっていた。陸上では5年生のとき、富山県大会で100メートルを13秒81で走って優勝し、全国大会に出場した経歴を持つ。野球では速球派の投手で、打者としては長打力もあり、将来を嘱望される選手だった。

 そんな八村がバスケットボールと出会ったのは、中学1年のとき。友人に誘われ、バスケ部に入部することになる。そして中学3年時の全中(全国中学校体育大会)でチームを全国準優勝に導き、自身は大会ベスト5に選出された。

 競技歴わずか3年で大会ベスト5に選出されたのは、もちろん恵まれた体躯のおかげもあるだろう。しかし、それだけではない。中学時代、八村は朝練が始まるさらに前に体育館に忍び込み、ひとりで練習を繰り返していたという。向上心の塊のような少年は以前、「練習はきつくないか?」と聞かれ、「楽しさしかない。バスケで苦しいと思ったことはない」と語っている。

 高校はバスケの名門、明成高校に進学。高校1年で早くもチームのエースとなり、その年の12月に行なわれたウィンターカップ(全国高校選抜)で全国制覇を達成する。個人では大会得点ランキングで2位となり、1年生ながら大会ベスト5にも選ばれた。

 さらに、U−16日本代表の中心選手としても活躍し、チームのアジア予選3位に貢献。日本のジュニア代表を15年ぶりとなる世界選手権出場に導いている。

 そして昨夏、高校2年で迎えたU−17世界選手権では、16チーム中14位に終わるも、八村は1試合平均22.6得点で大会得点王に輝く。のちに優勝することとなるアメリカとの一戦は38−122の完敗だったが、八村は25得点を挙げて、その存在を世界に知らしめた。

 解説を加えるなら、八村やU−17日本代表の面々は、インターハイ(高校総体)の準決勝を終えた直後に開催地のドバイに向かう強行スケジュール。もちろん、アメリカとの戦力差は計り知れないが、準備時間があれば、もう少しやりようがあったはずと悔やまれる。ただ、八村はアメリカ戦後のインタビューで、「悔しかったけど、楽しかった」と下を向かなかった。

 その後、U−17世界選手権・得点王の看板を背負い、八村は今年4月にニューヨークで開催された『ジョーダン・ブランド・クラシック』に日本人として初めて選出され、世界選抜チームの一員として出場。このイベントは、過去にカーメロ・アンソニー(ニューヨーク・ニックス)やクリス・ポール(ロサンゼルス・クリッパーズ)も出場したことがある、若手注目の大会だ。その試合で八村は、18分の出場で9得点5リバウンド1ブロックを記録した。世界選抜についての感想を聞かれた八村は、「敵わないと思う選手はいなかった」と語っている。

 U−17世界選手権、ジョーダン・ブランド・クラシックでの活躍を目にしたアメリカの複数の大学は、すでに八村に進学のオファーをしたと言われている。さらにその中のいくつかは、NCAAディビジョンIの名門大学とのこと。毎年のようにNBAへ選手を送り込んでいる大学も、そこに含まれているらしい。はたして八村は、アメリカで活躍できるのだろうか? 日本人初のWNBA選手である萩原美樹子氏はこう語る。

「サイズ・身体能力は日本で規格外でも、アメリカに行けば並になるでしょう。しかし、彼の一番の良さは、クレバーさにあると思います。今年のインターハイを見ていると、セネガル人留学生など自分より大きな選手とマッチアップする際は、外に引っ張り出してドライブで抜いて点を獲り、自分より背が低い相手ならばポストアップして点を獲る。状況に合わせて点が獲れること、得点パターンが増えているのはクレバーな証拠です。あとは、『自分はこういうプレーがしたい』と自己主張できる英語力があるかないか。現在、かなりの時間を割いて英語の勉強をしていると聞くので、それも心配はないと思います」

 八村は今夏、高校生としてひとりだけ日本代表に招集され、ジョーンズカップに出場した。出場時間はさほど多くなかったが、アメリカ戦ではオフェンスリバウンドをもぎ取るなど、才能の片鱗を披露している。日本代表でチームメイトとしてプレーした日本人初のNBAプレーヤーの田臥勇太は、「あんなに能力があるのはうらやましい。日本にはいないサイズだし、将来性を感じる。一緒にやっていて楽しい」と絶賛している。

 恵まれた体躯と、身体能力。しかし、八村の最大の武器は、その志(こころざし)ではないかと思う。U−17世界選手権でアメリカ代表に敗れて以降、将来の目標を聞かれると、彼は必ずふたつのことを答えている。

「NBAでプレーすること。東京五輪でアメリカを倒すこと」

 八村塁、17歳――。競技歴はまだ6年弱、伸びしろは無限大。一切の誇張抜きで日本バスケットボール界の至宝であり、未来であり、光だ。

【profile】
八村塁(はちむら・るい)
1998年2月8日生まれ、富山県富山市出身。中学に入ってからバスケットボールを始め、2年後の中学3年時に全中で準優勝。宮城県の明成高校に入学し、1年時と2年時でウィンターカップ優勝、そして今夏の3年時にはインターハイを制覇。家族は両親、弟、妹ふたり。199センチ・95キロ。ポジションはパワーフォワード、センター。

水野光博●構成・文 text by Mizuno Mitsuhiro