無縁社会


今の日本社会は、よく「無縁社会」だと言われている。簡単に言うと、戦後の高度経済成長によって、日本人の多くが地元農村の縁を切って都市部へ集中していって形成された社会だ。農村に残った人にも、大きな流通システムに作物を出荷するようになって、生活がそれなりに変化した。


それまで人と人とが縁で結ばれていたが、会社・国のような組織やシステムとつながる部分が大きくなった。困ったことがあっても終身雇用や保険、年金でカバーするという社会。核家族化し、近所付き合いも減った。親戚に土下座するより、無人キャッシングの方が利用しやすい人の方が多そうな社会。

そういう社会が好きかどうかは今は置いといて、そういう社会の持続に無理が生じてきているといってもいいだろう。非正規雇用の増加、ブラック企業やブラックバイト、年金も不安な点が多い。僕らは無縁社会にシフトして、それを成り立たせている企業や国に、いろいろな危うさを感じている。

半市場経済


『半市場経済』という本を最近読んだ。多くの企業がコストカットやクレーム対策に追われ、強烈な競争をくりかえす一方で、「そういう頑張りだけが全てではない」と思う人たちが多数いる。「そういう人たちが生きる場所も、今この社会に広がっている」ということをレポートし、論じている本だ。

たとえば、ソーシャルビジネスやエシカルビジネス。「強制労働や児童労働の問題がない農園で作られたカカオを使ったチョコレート」を販売する会社など、当事者が「世界がこうなってほしい」と思うことを志で実践しながら、企業としても利益をあげていく経済活動だ。

「1円でも多く稼ぎ、1円でも高い株価を目指す」ような世界観とは、かなり異なる方向性だと感じるだろう。市場経済っぽくないことを目指しつつ、市場経済っぽい部分もある。だから「半市場経済」だというわけだ。

宿屋に飛脚、何でもあり


フェアトレードやオーガニックなどを実践している会社の他にも、田舎に拠点をもってゲストハウスを運営している人や、「1歩1円」で歩いて荷物を届ける飛脚ビジネスをしている変わった人など、個人でもさまざまな活動が紹介されている。

どの会社も人も、何か達成したい社会的な課題があったり、「こういう役に立ちたい」などの「意思」が強く、「お金のためだけに仕事をしていない」ということが共通している。そして、顧客や取引先、同業者などとも、お金以外の物でつながっている部分が大きい。そこに「縁がある」のだ。

豊かな社会とは?


本書は単に「あたたかみがある人間関係をベースにした仕事の方がいいよね」と言っているわけではない。市場経済に偏りすぎて、全員が節約やスキルアップ、時間の安売りに励まなければならない社会よりも、色んな経済がうまく混ざったり共存している社会の方が、安定して多様な豊かさを生み出せるのではないか、と提言している。

そして、非市場経済によってもたらされるような豊かさに共感している人は、すでに現状かなり増えてきている。たとえば内閣府の調査によれば、都市部に住む30%以上の人が「農山漁村に定住してみたい」と考えていて、20代の人ではその数字は38.7%にものぼり、これは近年急上昇している。

『半市場経済 成長だけでない「共創社会」の時代』(内山節著、角川書店)では、著者の他にも、異なる専門をもった3人の共著者によって「これからの社会」「これからの生き方」についてが書かれている。
(香山哲)