北海道北見市のアドヴィックス常呂カーリングホールで開催された『全農 2015 パシフィックアジアカーリング選手権(PACC)大会 日本代表決定戦』。本命は、2014年ソチ五輪代表で、今年2月の日本選手権覇者でもある北海道銀行フォルティウスだった。しかし、その前評判を覆(くつがえ)して、ロコ・ソラーレ北見(以下、LS北見)が優勝。チーム結成5年目にして、初の日本代表となった。

 LS北見は、主将であり、チームの精神的な支柱でもあるスキップ本橋麻里が産休中。厳しい戦いが予想されたが、終わってみれば7戦全勝。宿敵・北海道銀行とも予選ラウンドから代表決定戦まで計3試合を戦って全勝。リードを許した試合も、わずかに一度だけだった。LS北見との試合をアイスの外から見守っていた北海道銀行のフィフスで、3度の五輪を経験している船山弓枝も、「LS北見さんのほうが、ショットの精度の高さで(北海道銀行を)上回っていた」と、その強さを認めた。

 特に光っていたのは、本橋に代わってスキップを務めた藤澤五月。今年5月に中部電力から移籍してきたばかりだが、精度の高いショットと、的確なラインコールでチームをけん引した。常呂町の目の肥えたファンが注視し、出場した全選手が「いいアイスだった」と口をそろえる舞台での勝利は、まさに"完勝"と言っていいものだった。

 ただ、今季のLS北見はここまで、決して順風満帆ではなかった。

 藤澤の加入と、本橋の妊娠が発表されたのが5月。本橋をリザーブにして、吉田夕梨花→鈴木夕湖→吉田知那美→藤澤という新布陣を組んで、本格的にトレーニングを始めたのはそれからだ。今季に向けて、アイスでのチームのコミュニケーションは圧倒的に足りていない状態だった。

 その結果、7月に行なわれたシーズンの開幕戦とも言えるアドヴィックスカップ(北海道北見市)では、プレーオフ初戦で敗退し、ベスト4にさえ残ることができなかった。続く8月のどうぎんカーリングクラシック(北海道札幌市)でも、出場10チーム中、9位に終わった。予選リーグでは4戦全敗。カーリング関係者やファンから、「LS北見は大丈夫か?」と心配されるほど、ゲームを作ることができなかった。

 藤澤が「(チームは)どん底まで落ちていた」と言えば、本橋も「あのときのチームは、ボロボロだった」と振り返る。

 おかげで、当時の藤澤はかなり苦しんでいたという。

「私の作戦ではダメなんじゃないか。『私が加入したから、LS北見が勝てなくなった』って言われたらどうしようって、ずっと悩んでいました」

 だが、そんな悩めるスキップを、主将の本橋とチームメイトが救った。

 結果が出ない時期でも、本橋は確かな実績と技術を持つ藤澤を信頼し続け、「サッちゃん(藤澤)のリズムでやっていけばいいんじゃない?」と、声をかけて励ました。

 また、他のチームメイトも、常に藤澤をフォローし続けた。バイス・スキップ(サード)の吉田知那美が語る。

「チームミーティングでしっかりと、サッちゃんとどういうふうにやっていけばうまくいくのか、チーム全員で話し合ってきました」

 さらに、今回のPACC代表決定戦では、「サッちゃんに楽にプレーしてもらおう」というチーム全体の暗黙の了解が遂行できた。すべての試合で高い集中力を維持して、大きなミスをすることもなく、スキップの藤澤につないだ。

「(自分のショットまでに)いい形で回ってきたから、プレッシャーのかかるショットがあまりなかった。楽しく、思い切ってカーリングができました。正直、チームにいさせてもらって、みんなに優勝をもらった感じです」

 日本代表の座を手にしたあと、記者会見でそう語った藤澤。チーム加入からこれまでのことを振り返ったときには、「本番でやっと噛み合って、結果も出せて、本当にホッとしました」と安堵し、涙を浮かべた。

 このあと、日本代表となったLS北見は、11月にカザフスタンのアルマトイで開催される2015PACCに出場する。そこでは、参加5チーム(日本、中国、韓国、カザフスタン、ニュージーランド)中、上位2チームに入れば、来年3月にカナダのスウィフトカレントで行なわれる世界選手権の出場権を得られる。2018年平昌五輪出場に向けては、五輪ポイントが振り分けられるこの世界選手権が非常に重要な大会となる。

 日本の五輪出場へ、いよいよ負けられない戦いが始まる。

 LS北見の"新エース"藤澤は、「気負わずに、でも全力でやってきます」と言って、笑顔を見せた。今大会のような戦いができれば、自ずと道は開けるはずだ。

竹田聡一郎●文 text by Takeda Soichiro