◇「体育からスポーツへ」


土屋:白紙になった新国立競技場、何をテーマに作ったらいいとお考えですか?

玉木: ずばり「体育からスポーツへ」ですね。みんなが「好きでスポーツをやる」ってこと。

仕事だって、上司に言われて何が何でもやるんじゃなくて、プロジェクトチームがおもしろいと思うことを追求していく時代。

スポーツも同じで、強い競技は体罰スポ根の部活からは生まれない、ってこと。そうすれば、新国立競技場や駒沢をどうするべきか自ずとわかるはず。今一番なのは「サブトラック」という考え方かな。

土屋:僕もよく知らなかったんですけど。

玉木:「サブトラック」というのは、トラックの周りに観客席がちょこっとあるくらいなんですよ。

そこで高校生が大会をやったり、町内会で運動会をやったりする。みんながクラブとして使える場所として、すごくいいと思うんです。

だから、決して世界陸上のためにあるわけでじゃなく、誰もが使える場所としてそういうスペースはあったほうがいいんじゃないか。
それが神宮外苑にあったほうがいいのか、それとも神宮外苑にはメインの球技場(ラグビー・サッカー)を作って周りにも球技場が広がっているほうがいいのか。

僕はどっちでもいいと思う。

ただ「スタジアムを作ろう」というのではなく、これから先のスポーツをどうしようか、というのが大切なんです。

スポーツとは何か、みんな誤解してる。何かって聞かれて答えられる?

土屋:ちょっと…できないですね。

玉木:スポーツは体育と違う。体育は青少年の体を鍛えるために重要。ところがスポーツは体育よりも大きな存在で、知育や徳育の教育もできる。

土屋さんは、ドッヂボールってどういう意味かわかる?

土屋:ドッヂ?

玉木: 英語で「よける」って意味なんだけど。

土屋:よける!

玉木: 「当てる」ゲームだと思ってるでしょ? MLBの「ドジャース」と同じ語源なんだよね。

土屋:ほお!

玉木: ブルックリンの子供は車が多い道で遊んでて危ないから、お母さんから「よけろ、よけろ」「ドッヂ、ドッヂ」って言われてて、それでブルックリンの子供は「ドジャース」って言われるようになった。

土屋:えええ! 勉強になりました! 

玉木:じゃあ、サッカーはどうして「サッカー」っていうか?

土屋:イギリスでは「フットボール」ですもんね。

玉木:あれは、「アソシエーション・フットボール」が転じて「アソックフットボール」になり「アソッカー」になり、「サッカー」になった。フットボールは昔、動物の内臓を足で蹴っていたもの。

そこから足で蹴るゲームが「フットボール」になり、手も使うものが「ラグビー・フットボール」に、棒を使うものが「ホッケー」になったわけ。

そういうことを知るとフットボールはヨーロッパの歴史の勉強にもなる、これが知育としてのスポーツ。

徳育としてのスポーツは簡単で、スポーツマンシップ、道徳を学べばいい。「体育」は体を鍛えるということ。この3つを合わせたものが「スポーツ」なんです。

土屋:なるほど。

玉木:例えば、図書館を作る時には「本を置く」という役割があって建物を作るでしょ? 競技場もそれと同じで、球技をするのか陸上をするのか、それを一番最初に話し合うべきですよね。

土屋:僕も、サッカーを見に行く時に、サッカー専用競技場のほうが興奮の度合いが違います。

玉木:そう考えると日産スタジアムはひどいよね。

サッカースタジアムなのに陸上トラックがあって、席によってコート見えないところがたくさんあって、中にはゴールが見えない場所もあるもんね。

土屋:あれは、ワールドカップ用に作ったものですが、これまでの話を聞いていると、同じ問題のような気がしてきました。

玉木:いま国務大臣で公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック組織委員会理事をやってる遠藤利明さんはすごく分かってる人。

土屋:どんな競技場を作ろうとしてるんですか、大臣は?

玉木:遠藤さんの考えだと、たぶん球技場にするでしょう。

サブトラックも仮設で、メインのトラックも仮設にするかも。

オリンピックが終わったらトラックは取り外して観客席にして、サブトラックつきの陸上競技場は駒沢に置くって、ちらっと言ってたね。

というのも、日本人がまだ陸上にそこまで熱狂してないのを感じているようで。