浦和レッズ 
◆武藤雄樹インタビュー(後編)

 サッカー部員が約200人いるという名門・流通経済大で1年生のときからトップチームの一員となり、JFLで15ゴールという結果を残した。だが、得意とするドリブルからのシュートだけで生き抜けるほど、大学サッカーは甘くない。2年生になると、ゴールが奪えなくなった。

 はたして自分は、何で勝負すべきなのか――。悩む武藤雄樹にヒントを与えてくれたのが、佐藤寿人(サンフレッチェ広島)だった。

「試合映像を見て、寿人さんの動き方やポジショニングを勉強したんです」

 11年連続ふた桁得点という偉業を続ける偉大なストライカーから、駆け引きやポジショニングを学んだ武藤は、大学4年生になるとキャプテンとして、エースストライカーとしてチームを引っ張るようになり、関東大学リーグ得点ランキング2位、ベストイレブン、ベストヒーロー賞の勲章を胸に、プロの世界に飛び込んだ。

―― 流通経済大からベガルタ仙台入りを果たしたとき、「何年後には日本代表に入るぞ」といった青写真を、描いていたりしたんですか?

「やっぱり、プロに入るときは、夢と希望にあふれていましたからね。『1、2年目でスタメンを獲って、3年目に代表入りだ!』っていう強い思いがあったんですけど、そんなに甘くはなかったですね。仙台でも試合に出られない選手が日本代表に選ばれるわけがないって思っていましたから、その青写真は、もろくも崩れ去りました」

―― 「3年目に日本代表だ!」と意気込んでプロの世界に飛び込んだにもかかわらず、ゴール数は1年目が1点、2年目も1点、3年目に至ってはノーゴール。焦りは、なかったですか?

「焦りは......ありましたね。それに、これだけ結果を出せないと、『俺はもう、点が取れないんじゃないか』ってネガティブな思考に陥ることもあって......。日本代表以前に、大卒選手なのにこれだけ試合に出られないってことは、年齢を考えても、生き残るのが難しいかもしれないなって」

―― レギュラーとして試合に出られないことに悩み、出場してもFWとしてプレーできないことに苦しみ......。

「そうですね。3年目に期限付き移籍することを考えたんですけど、真剣にチームを変えることを考えるようになったのは、4年目が終わったとき。それで、こうしてレッズに来たわけですけど、それ以外にも選択肢があったので、当時は本当に悩みましたね」

―― いくつかあった選択肢の中から、レッズを選んだのは、当初の青写真どおり、日本代表という夢から逆算してのことですか?

「いや、そこはもう、日本代表からの逆算じゃなくて、本当に、シンプルに、ただただ最後、自分自身に期待しただけです。(レッズの他に)試合に出られそうなチームからのオファーもあって、正直に言うと『そのチームに行こうかな』って思った時期もあったんです。でも、レッズというビッグクラブが声をかけてくれて、もしそこで活躍できれば、自分のサッカー人生がもう一度、グッと輝くんじゃないかって考えたら......。もう26歳だし、これが最後のチャンスかもしれない。だったら、悔いのないように、自分に期待してみようって」

―― 悔いを残したくないからこそ、簡単な決断ではなかったと思いますが、決断するうえで、最も背中を押されたというか、挑戦しようと思えたアドバイスって、ありました?

「いろいろな方からアドバイスをいただいて、それこそ『出られるチームに行ったほうがいい』っていう意見もあったんですけど、やっぱり一番は、妻の言葉ですね。あまりにも悩み過ぎて、ちょっとイライラしちゃったんですけど(笑)、そんなとき妻から『レッズに行っても試合に出られないかもしれないって思ってるの? 行ってみなきゃわからないじゃない。勝負してみたら』って言われて。その言葉は、大きかったです。もうひとつは、大学の先輩でもあるウガさん(宇賀神友弥/レッズ)。『もし(試合に)出られなかったとしても、ミシャ(ミハイロ・ペトロヴィッチ監督)のサッカーを経験すれば、成長することは間違いないから』って言ってくれて。それも大きかったです」

―― いい奥さんと先輩を持ちましたね。

「そうですね。そのふたりにはすごく背中を押してもらったと思います」

―― では改めて、東アジアカップが武藤選手に与えてくれたものとは、何でしょうか?

「日本代表というものが、手の届く存在だっていうことがわかったので、意識はかなり高まったと思いますし、またあの場に行きたいっていうふうに思えるようにもなって」

―― 欲が出てきました?

「はい。やっぱり今までは、『日本代表の自分』を思い描くのが難しくて、少し離れたところでやっているもの、っていう感覚があったんですけど、今は自分が結果を出しさえすれば選んでもらえるはずだって思えるので、代表に対しての欲が、ものすごく出てきた。もっと結果を出して選ばれたい、代表でも活躍したいっていう気持ちが今、本当に強いです」

―― 本田圭佑選手、香川真司選手、宇佐美貴史選手、武藤嘉紀選手、原口元気選手......。日本代表の2列目を争う彼らに負けない自分の武器って、何だと思いますか?

「そうですね......、負けないかどうかはわからないですけど、DFと駆け引きしてゴール前に飛び込んでいくことに関しては、絶対に負けたくない、って思いますね。みんな、ドリブルやテクニックは、僕よりもはるかに上手いので、そこではなく、泥臭くても何度でも飛び込むところで勝負したいと思っています」

―― こちらから2列目の選手たちの名前を挙げておいて何ですが、話を聞いていて思ったのは、武藤選手が目指すべきは、彼らではなく岡崎慎司選手、という感じですね。

「そうなんです。僕も、どちらかと言ったら、岡崎さんを目指すべきなんじゃないかな、って思っています。あれぐらい動けて、あれぐらい貪欲にゴールを狙っていきたい、っていう気持ちがすごくあります。そのためにも、もっと決定力を磨かなければならないし、最後まで足が止まらないようにしないといけない。それには、レッズでもっともっとがんばらないといけないって思っています」

          ◆          ◆          ◆

 日本代表の、9月3日のカンボジア戦(3−0)と、8日のアフガニスタン戦(6−0)は、これまでと同じようにテレビで観戦した。

 だが、画面に向ける視線と意識は、これまでとは大きく変わった。

「今まではファンとして、漠然と見ていたんですけど、今回は『もし、ここに自分がいたらどうしていたかな』とか、『今の(シーン)、俺だったら決められていたかな』っていうふうに見ていました。現実感が湧いてきたというか」

 武藤雄樹は、わかっている。何が足りなかったから、そのピッチに立てなくて、どうすれば、そのピッチに立てるようになるのかを。

 Jリーグの舞台で自らも認識する課題を克服したとき、その得点力を、日本代表でも生かせる日が来るはずだ。

飯尾篤史●取材・文 text by Iio Atsushi