うつに自分を追い込みがちなひとは悪人の行動を目指せ。手を抜け、愚痴をこぼせ

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秋の5連休も終わりました。ゆうべはよく眠れましたか?
それとも「あしたからまた仕事(学校)か……」なんて考えてしまって、寝つけなかった?


睡眠のトラブルにもいろいろある。寝つけない人も多いだろう。
僕は逆に、寝つきは非常にいいけれど、むかしから眠りが浅く、夢を見ているような気もする。小さな物音で目が覚め、夢の内容はよく覚えていない。

夢はレム睡眠中のほうによく見るとされ、ノンレム睡眠中には夢を見てもあまりよく覚えていないという。では僕の夜中の目覚めは後者なのだろうか。
そういえば10年ほど以前、鬱症状が出たときには、毎日がいわゆる「早朝覚醒」だった。
(以下、「鬱状態・鬱症状」と「鬱病」とは、別の概念としてお読みください。あと引用を除き、「鬱」という漢字を使わせてね)

「眠り猫」はノンレム睡眠中


清水徹男(日本睡眠学会理事)の『不眠と うつ病』(岩波新書)を読んで、睡眠障害と鬱病(および非定型鬱病や躁鬱病の鬱症状)の関係について教わった。
これによると、急速眼球運動(rapid eye movement = REM)をともなうタイプの睡眠(レム睡眠)のあいだは、抗重力筋が緩んでいる。いっぽうノンレム睡眠時には、抗重力筋が活動している。

そこで著者は日光東照宮の、左甚五郎作とされる「眠り猫」の眠りはノンレム睡眠中だと言うのだ。
〈前足を踏ん張って顎が浮いている〉この姿勢は〈スフィンクスの姿位と呼ばれ、重力に抗して頭部が持ち上がっていることが重要です〉。


スフィンクスの姿位! カッコイイ呼び名だ。猫は睡眠中でもちやほやされてるなあ。
そして〈レム睡眠の時には、猫は〔…〕抗重力筋(猫の場合は頭を支える項筋)の活動がないので、もはや頭は地面にくっついてしまうのです〉。

ということは、長谷川りん二郎の「猫」(モデル名はタロー)はレム睡眠中だということになる。(りん=隣のこざとへんをさんずいにした字)

不眠は鬱のサインであり、結果でもある


著者によれば、「そもそも動物はなぜ眠るのか」という基本中の基本の問い自体には、まだクリアな答えがみつかっていないという。
じゃあわかっているのはなにか、というと、睡眠に障害があるときにはどういう問題が起こっているか、という諸事例である。

医師は──たとえ精神科・心療内科医でなくとも──、患者が不眠を訴えたら、鬱症状の可能性も念頭に置くようになってきているそうだ。

だから、「最近どうも眠りの質が悪くて……」という人やその周囲の人は、
「自分(この人)はじつは落ち込んでいないだろうか」
「心配事があるんじゃないだろうか」
という可能性をいちおうチェックしたほうがいいのかもしれない。

睡眠不足は根性では乗り切れない


この本に出てくる実験事例で、研修医の3人交替制を4人交替制にしてみたら、医療事故リスクが半減した、という話が印象的だった。
著者は秋田大学病院の精神科長であり、本書でも、医療ドラマ「ER」を引き合いに出しつつ、病院での交替制勤務(とりわけ医師不足が伝えられる東北の)の過酷さに、軽くではあるが触れている。


〈「そんなぬるいことをやっていては一人前の臨床医は育たない」という意見がオールド・プロフェッサーの間ではまだ根強く残っています〉。
けれど、〈「眠気は根性で克服できる」とおっしゃるオールド・プロフェッサーの根性論は幻想です〉。

たしかにそうだ。
業務上過失や過労死、鬱などの発生条件のひとつが、この手の日本式根性論だということに、改めて気づいた。

悪人になればだいじょうぶ


日本の職場や学校で、こういった根性論の犠牲になりやすい人は、どうやら鬱症状へと自分を追いこみやすいようだ。
著者は、鬱に親和性のある性格の人は、悪人の行動を目指せという。具体的には、

・断り上手になる
・仕事を人に手伝わせる
・プライヴェートな時間を充実させる
・今日できることも、疲れたら明日に回す
・手を抜く
・愚痴をこぼす

などによって、患者の完全主義、過度の他者配慮、自罰傾向を見直そうというのだ。一種の認知行動療法と考えることもできる。
鬱状態のあなたの体は、あなたが「悪」に覚醒するのを待ちかねて、悲鳴を上げているのだ。

眠れないときは、正面突破の「快眠法」


眠れない日が続くときは、どうしたらいいか。
本書で紹介されている著者の「快眠法」は、以下のようなものだ。

・朝は決まった時間に起きる。
・昼間は戸外や明るい窓辺で過ごす。日光を浴びると覚醒作用があると同時に、あとで夜になるとメラトニン(生体リズム調整物質)の分泌も増える。
・昼寝は20分程度にする。
・楽しいことをする。とくに体を動かす。
・15時以降はカフェインを控える。
・入浴は昼ではなく夜に。深部体温上昇によって放熱が促されると眠りのスイッチが入る。
・夜は室内の照明を暗くする。
・床につくのは眠くなってから。眠くないうちに寝床に入ると逆効果。

奇抜なところのない、正面突破の方策といえるだろう。

でもじつのところ、夜になってもスマートフォンやPCをいじって、睡眠の質を下げるブルーライトを目に入れてしまうような生活をしてると、上記の真っ当な「快眠法」すら、実行が難しい。
健康に王道なし、という厳しいオチですみません……。
(千野帽子)