○人工知能という鉱脈

ソフトバンクが発売したロボット「ペッパー」。ユーザーの感情を理解するという触れ込みに、「そんなものは存在しない」と指摘をするのはKDDI総研のリサーチフェロー小林 雅一氏。ネットメディアの連載で、ペッパーを「チャットボット」と分類します。

問いかけた内容に応じて返事をする「ボット」のようなものだというのです。ソフトバンク VS KDDIの代理戦争かと邪推の一つもしたくなりますが、「感情」の定義には哲学的なテーゼが残され、私は小林説を支持します。

一方で、テレビ東京の子供向け番組「おはスタ645」で、お笑いトリオ「ロバート」と上手に絡むペッパーの実力も評価しています。

それぞれ「AI(人工知能)」への解釈や、期待度の違いといっても良いでしょう。人と同等以上の知能を求めるのか、擬似的で良いとするのかです。AI研究における世界の主流は前者で、「ディープラーニング」により研究は加速しています。

しかし今、日本の「AI業界」に暗雲が垂れ込めています。

○中国に持って行かれる

自動運転や介護ロボ、より便利なスマホOSなど、AIへの期待は、多くの産業で高まっています。AIの研究は古く、コンピュータが開発された当初からスタートしていました。

当時のアプローチは、あらかじめ「考え方」を与えておくか、ボットのように多くの「解答例」を用意するものでした。これらは良くも悪くも、人間の想像の枠内に収まり、「知能」と呼べるかという議論もありました。「ディープラーニング」はまったく別の発想です。

語弊を怖れずにひと言で説明するなら、コンピュータ自身が「考え方」を見つけ出すというアプローチです。

認識方法や評価基準といった「考え方」そのものを見つけ出すので、より人間に近づく可能性どころか、平成57年(2045年)には、人工知能は人間の知能を越えると囁かれております。

そして現時点のAI研究において、日本は世界に劣っている訳ではありません。特許の数では米国に負けても、コンピュータ開発におけるノウハウがあり、それを支える人材がいるからです。ただし、現時点です。

○東ロボくんまでが

9月18日の日経新聞2面に見つけた見出しです。

中国も「東大合格ロボ」開発
デッサンの狂ったドラえもんが確認される「石景山遊園地」のように、中国得意のコピー商品かと思いきや、「東大合格ロボ」の開発を手がける教授 新井 紀子氏に誘いがあり、中国との連携を決めたというのです。

2011年より開発が始まった「東ロボくん(愛称)」は、大学入試センター試験の合格を、AIが目指すというもので、発表当時は失笑が漏れるほど荒唐無稽と思われたプロジェクトでした。これが今では8割の私大で合格可能性が80%に越えるまでに成長しています。そして中国との連携。日経新聞は理由の一つに「お金」を挙げます。

新井教授が勤める国立情報学研究所から、割り当てられる研究予算は年間数千万円であるのに対し、中国側の予算は30億円で桁が二つ違います。

○お詫びと訂正

当初、「国立情報学研究所」を「国立情報科学研究所」と誤記していました。また、「中国側の(新井氏らへの)オファーは30億円」としていましたが、ただしくは中国の研究開発費の予算が30億円の誤りでした。お詫びして訂正します。
文部科学省も手をこまねいている訳ではなく、来年度予算の概算要求でAI研究計画を打ち出し、100億円を投じて研究施設を整備すると記事は続けますが、読了後、ある社長を思い出します。

○第二、第三のありまぁす

Web制作の新規事業を立ち上げようとした運送会社のI社長。まず、手がけたのは、新規事業用の部屋の増設。「箱を作れば、中身はあとからついてくる」という発想は、トラックを買えば仕事が入り、仕事を請けてから勉強を始めても、どうにかなったバブル期に創業したI社長の経営哲学。

社内でWeb制作ができる人物は、営業マンとして中途入社してきた新人のただひとり。面接で語った趣味の「Web制作」に白羽の矢を立てたのです。素人同然だという抗弁も「勉強すれば良い」で却下されます。

いわば「研究員」のような立場ながら、営業マンとしての仕事は免除されません。

営業マンとしての業務と両立させるため、「研究員」は寝る間も惜しみますが、営業マンは「裁量労働制」の契約のため、残業や早朝、休日出勤への割増賃金が支払われることはありません。

そしてなんとか一人前のWeb制作者になったとき、研究員はそっと辞表を置いて会社を去りました。より良いオファーがあったからです。彼は言います。

「場を与えられたことには感謝している。しかし、技術は自分の努力で身につけた」

社内に技術は残されず、増設された部屋は物置となります。

文科省の取り組みに同じ影を見つけます。予算要求にある「AI研究の拠点」とは、埼玉県和光市の「理化学研究所」。あの「ありまぁす」といった女性のためだけに、ピンクに塗られた研究室を用意したあの「理研」です。

騒動を経てもなお、日本最高水準の研究機関ではあります。しかし、「2位じゃダメなんでしょうか?」と蓮舫氏が問うたスーパーコンピュータ「京」も理研の施設内にあり、AIの研究に高機能のコンピュータは不可欠。

のはずなんですが、「京」があるのは神戸市の理研「計算科学研究機構」。果たして100億円は研究のためだけに使われるのでしょうか。「ハコモノ0.2」「適材適所 0.2」の匂いがします。先の研究員は、当時をこう締めくくりました。

「誰も助けてくれなかったし、理解もしていなかった。そして結果だけを求められた」

○エンタープライズ1.0への箴言

まず、箱物という発想がダメ

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に「Web2.0が殺すもの」「楽天市場がなくなる日」(ともに洋泉社)がある。最新刊は7月10日に発行された電子書籍「食べログ化する政治〜ネット世論と幼児化と山本太郎〜」

筆者ブログ「ITジャーナリスト宮脇睦の本当のことが言えない世界の片隅で」

(宮脇睦)