33、33、32、23――。

 この数字は、去る9月13日に閉幕した今季最後のグランドスラム「全米オープン」における、女子ベスト4進出者の年齢である。

 最終的に同大会を制したのは、33歳で、過去にグランドスラムの優勝はおろか決勝進出の経験もなかったフラビア・ペンネッタ(イタリア)。そのペンネッタと頂点を競ったのは、ペンネッタの幼なじみとも言える32歳のロベルタ・ビンチ(イタリア)だ。ビンチの世界ランク最高位は11位で、決勝進出時のランキングは43位。本人も「ミラクル」と認めるほどに、彼女の決勝進出は誰も予想しえなかった事件であった。

 もっともミラクルは、決勝進出そのものよりも、ビンチが準決勝で世界1位のセリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)を破ったことにあったろう。33歳のセリーナは、昨年の全米オープンから今年7月のウインブルドンに至るまで、グランドスラム4大会連続で優勝を果たしていた。そして今回の全米オープンでは、テニス界でもっとも栄誉ある偉業――1年間に4つすべての四大大会を制する「真のグランドスラム」を狙っていたが、その手前でイタリアの思わぬ伏兵の前に、まさかのつまずきを見せることになった。

 そしてベスト4のなかで唯一の20代が、世界2位のシモナ・ハレプ(ルーマニア)。昨年の全仏オープンで準優勝した23歳も、全米オープンでベスト8以上に進んだのは初めてだった。

 今回の全米オープンベスト4の顔ぶれを見たところで、昨今の女子テニス界の構図を見極め、今後の展望を占うのは非常に難しい。何しろ絶対女王と目されたセリーナを破ったのは、若き女王候補でもなければ、長年のライバルですらない。頂点に立ったペンネッタは全米オープン史上最年長の優勝者となり、しかもその優勝スピーチで今季限りでの現役引退を表明した。残酷な言い方をしてしまうと、今回の全米オープン決勝に「女子テニスの未来」はない。

 実はこのような傾向は、過去2年間のグランドスラムを紐解いても同様だ。2013年全豪オープンから今年の全米オープンまでの12大会の優勝者を見てみると、セリーナが6回と半数を占め、残り6回を6人の異なる選手が優勝している。そのうち、2013年ウインブルドン優勝者のマリオン・バルトリ(フランス)、2014年全豪オープン優勝者の李娜(リー・ナ/中国)は、すでに現役を退いた。ちなみに李娜は全豪オープンを優勝したとき、31歳11ヶ月で同大会の最年長優勝記録を樹立。その翌年にはセリーナが抜いたが、いずれにしても最近のグランドスラムでは、大会ごとに最年長優勝者を排出する傾向にある。

 では、若手たちはどこにいるのか?

 昨年の全仏オープンでは当時22歳のハレプが、同年のウインブルドンでは20歳のウージニー・ブシャール(カナダ)が、そして今年のウインブルドンでも21歳のガルビネ・ムグルサ(スペイン)が決勝まで勝ち上がり、初の戴冠に限りなく近づいた。彼女たちこそが「女子テニスの未来」と目された。

 しかし、ブシャールは今季、全仏オープンとウインブルドンで初戦敗退を喫し、5位まで上がったランキングも現在は26位まで下降。ムグルサもウインブルドン以降は、今年の全米オープン初戦が唯一の勝ち星というスランプに見舞われている。ただひとり、ハレプが孤軍奮闘しているものの、グランドスラムに限っていえば、彼女も今季の全仏オープンで2回戦、ウインブルドンでは初戦敗退と、やはり苦戦を強いられている。

 これら若手勢の揃っての不調は、決して偶然ではないだろう。未来のスター発掘に躍起になるマスメディアや女子テニス界は、少しでも可能性の光を放つ選手に一気に飛びつく。結果、多大な注視とプレッシャーのなかで、若い精神と肉体は急激にすり減ってしまう。

 もっとも現在の傾向は、なにも悲嘆することではない。若い選手が勢いだけで一気に頂点まで駆け上がれないのは、時間をかけてフィジカルと技術に研さんをかけ、それらを経験によって統合してコート上で発揮できるより完成度の高い選手が上位を占めている証左でもある。そして、幾重にも交錯する選手たちの足跡で織り上げた物語は、重層な深みを持つ。

 現在のトップ10には、2008年に全仏オープンを制して世界1位に座しながら、その後50位以下までランキングを急降下させ、苦しい時期も経験した27歳のアナ・イバノビッチ(セルビア)がいる。2009年に19歳で全米オープン準優勝し、「次期女王」と期されながらもいまだグランドスラムに手が届かず、しかし必死に手を伸ばし続けている25歳のキャロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)もいる。彼女たちはペンネッタやビンチの姿に、挑戦し続けることの意義を見出したはずだ。

 わけても身長163センチのビンチの活躍は、日本人選手たちに光を見せたことだろう。逆回転を掛けた緩いボールやネットプレーを操り、あのセリーナのパワーすらも巧みにいなした32歳のイタリア人選手は、体格やパワー面でハンデを背負ってきた多くの日本人選手に上位進出への道を示した。

 現在の日本女子の中核を担う奈良くるみ、土居美咲、そして今年の全米オープンで予選を突破した日比万葉や、東レ パン・パシフィック・オープンに主催者推薦枠で出場する大坂なおみらも、その光を見たはずだ。わけても奈良と土居は、ペンネッタとビンチのように10代前半からお互いを知り、ジュニア時代からダブルスを組んできた友人にしてライバルだ。「いつかはペンネッタ選手とビンチ選手のように、大きな舞台で対戦できるようになりたい」。奈良はそう言い、笑顔を見せた。

 23、24、19、17――。

 これが、先ほど名前を列挙した、日本人選手たちの年齢である。彼女たちには、まだ十分に時間がある。「ミラクル」を起こす時間が......。

内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki