新たな治療法の幹細胞治療だが......luchschen/PIXTA(ピクスタ)

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 さまざまな組織や臓器の細胞に成長させたり、増殖させたりすることができる「幹細胞」。iPS細胞(人工多能性幹細胞)をはじめ、再生医療における幹細胞への期待は大きい。経済産業省の推計では、2050年の再生医療の世界市場規模は38兆円、周辺産業は15兆円まで拡大する見通しだ。

 当サイトの記事「事故による脊髄損傷の再生医療――世界中のバイオテク企業や研究機関の挑戦が続く」でも紹介したように、これまで効果的な治療法がなかった人への光明となる可能性をもつ。

未承認の治療を行うクリニックが数千も存在!?

 だが一方で、アメリカでは、薄毛からアルツハイマー病まで、さまざまな疾患に対して未承認の「幹細胞治療」を行うクリニックが多数存在することが報告された。

 『New England Journal of Medicine』(9月10日号)に掲載された今回の報告によると、幹細胞治療の分野は一般の人が考えているほどには進歩していないという。未承認の治療を行うクリニックは、控えめにみても数百、実際には数千も存在する可能性があるという。

 研究の筆頭著者である米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のHermes Taylor-Weiner氏は、「このような営利目的のクリニックは、患者を守るための規制の枠組みから外れた治療を行い、安全性や有効性が明らかでない幹細胞治療を"売っている"」と警告する。

 「米国食品医薬品局(FDA)」が承認している幹細胞治療は数種類にとどまり、その治療は骨髄から採取した細胞を用いるものだ。しかし、今回報告されたクリニックの多くは、脂肪吸引で採取した脂肪細胞から幹細胞を分離する方法を用いていた(間質血管細胞群;SVF)。

 幹細胞治療は、あらゆる細胞になる能力をもつ細胞が必要な部位に到達して損傷を修復することを期待するものだが、「SVF細胞は必要のない場所へ移動して健康な臓器を傷つける可能性もある」と、Taylor-Weiner氏は説明している。

 ヒトへの移植を目的とする、あらゆる細胞・組織製剤はFDAの規制対象であり、規制の内容はいくつかの要素によって決まるという。幹細胞を含めたヒト細胞・組織製剤の開発者は、市販前承認が必要かどうかをFDAに確認する必要がある。

 未承認のSVF治療は保険が適用されないため、5000〜5万ドルの費用がかかることもある。Taylor-Weiner氏によれば、そのようなサービスを受けることで、承認された治療を受ける機会を失ってしまう危険もある。

 米イェール大学予防研究センターのDavid Katz氏は、「クリニックの規制が進むまでは消費者が気をつけるしかない」とアドバイス。さらに、「幹細胞治療には無限の可能性があり、期待されるのも当然だが、科学の限界を超えた大げさなうたい文句が常にみられる」と指摘している。

幹細胞治療の訴訟で損害賠償も

 今年5月、幹細胞を使った再生医療を受けた女性が、「不十分な説明による治療で精神的苦痛を受けた」などとして、クリニック(東京都渋谷区)の担当医師と院長に損害賠償を求めた訴訟の判決が東京地裁であった。

 女性は別の治療で受診した際に体のしびれを訴えたところ、「幹細胞治療で改善する可能性がある」と告げられた。2012年7月、他人の脂肪幹細胞を培養して作った製剤の点滴を受けたところ症状が悪化。判決では、「医療水準として未確立の治療なのに、危険性や利害を十分説明していない」として、医師らに約184万円の支払いを命じた。

日本で実用化が進む可能性が高まっている

 国内の再生医療においては2014年11月、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(以下、再生医療等安全性確保法)が施行された。この法律施行以前にも、ヒト幹細胞を用いた臨床研究には厚生労働省が指針を定めていた。だが、細胞医療の範囲が広がり、多くの民間の医療機関で自由診療によって行われるようになった。そこで、一元に管理し、安全性を高めるために同法が導入された。

 この法改正によって、再生医療の臨床応用は、世界のなかでも日本で実用化が進む可能性が高まっている。迅速に再生医療を受けられることは、患者にとって大きなメリットとなる。再生医療が進展し、安全性を担保して、その恩恵が受けられるようになることを期待したい。
(文=編集部)