学生の窓口編集部

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皆さんは「漫画誌の編集者」という仕事にどのような印象を持っていらっしゃるでしょうか。漫画編集者にとって最もつらいのは、なんといっても担当漫画家の原稿が上がらないことです。原稿が遅れると印刷所さんはじめ多くの人に迷惑を掛けてしまいますから。

週刊誌の漫画連載担当の編集者だった私は土曜日の21時に嫌な予感に襲われていました。担当の漫画家「M」が電話に出ないのです。本来であればとっくに作画にかかっていなければいけない時間なのですが、ネームも上がっていません。

休みの日ですから当然編集長はいませんし、副編集長は机でいらいらしながらパソコンの画面を見ています。現場のヘッドは副編集長ですから、私の仕事が進まないと彼も家にいられないのです。

こちらから送ったメールはガン無視でスルー。また何回電話しても出ません。連絡があって状況が分かればまだ打つ手もあるのですが、これは最悪なパターンです。週刊誌の場合、印刷工程だけでなく、配本スケジュールも非常にタイト。発売日が火曜日なので、月曜日の午後4時には校了です。

「すみません。家まで行ってきます」と副編集長に言って、逃げるように編集部を出ました。

漫画家の住んでいるマンションに行くと部屋には電気がついていません。隣家の迷惑になりますが、しつこくインターホンを鳴らしました。応答はなし。ドアを何度もたたきますが反応がありません。やっていることは取り立て屋と同じです。

携帯電話から電話をすると、部屋の中から着信音がうっすら聞こえます。漫画家の携帯電話を鳴らすも、やはりガン無視。こうなると張り込みです。土曜日の22時ごろから日曜の早朝4時ごろまで部屋の前にいたのですが人の気配がしません。

「逃げやがったな」と怒り心頭ですが、このままでは連載に穴が……。へとへとになった私は胃に穴が開くような思いでいったん編集部に戻り、机に突っ伏しました。当然、副編集長はすでに帰宅しています

2時間後、目覚めた私は、別の漫画家「Y」からメールが来ていることに気付きました。「Mくんから『新潟に来ているから編集部に言っといて』とメールが来たので、メールしました」という内容です。MとYは仲がいいのです。

「新潟まで逃げやがった!」と、頭に血が上りました。

新潟のどこだ、追っ掛けてやると立ち上がりましたが、ここで編集者の勘が! 待てよ、これは絶対家にいるだろ、と。Yに「新潟へ向かいます!」と返信し、再びMのマンション前で張り込みを続けました。

そして5時間……、マンションのドアを開けて出てきたMを捕まえました。

「逃げやがったなー!」と思わせて自宅にずっといたのです。逃げたと思わせる偽装工作までしていたのです。そんなことをする暇があったら、なぜ少しでも仕事をしないのでしょうか!? 本当に編集者というのは報われない仕事です。
結局、この回は間に合いませんでした。編集長にしっかり怒られ、誌面には「休載のお知らせ」を出すことになりました。

(高橋モータース@dcp)