男二人が観て感動する「劇場版弱虫ペダル」 スポ根ものとして傑作だ

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女性人気も高いことで知られる自転車マンガが原作の「劇場版 弱虫ペダル」。ライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが、同作の魅力を語り合います。

原作で描いていなかったところを掘り下げてくれて、ありがとう!!!


藤田 『弱虫ペダル』は自転車のチーム戦を題材にした、スポ根ものです。主人公の小野田はオタクなんだけど総北高校の自転車部に入り、だんだんと努力して実力をつけていく。

飯田 今回の劇場版は導入部のあらすじを言うだけでTVアニメも原作も見てないひとにはネタバレになっちゃうのでネタバレ避けたいひとは読まないほうがいいかもしれませんが……というかあるていどのネタバレ前提で話します。
 主人公の小野田くんたちが1年のときのインターハイが終わった直後の話が今回の劇場版ですね。
 総北高校3年の主将・金城さん、ガタイのでかいスプリンター田所さん、「ッショ」っていう口癖が特徴で小野田くんが尊敬する緑髪のクライマー巻ちゃんが引退。で、巻ちゃんはある事情で一足先に日本からいなくなっちゃう。
 原作ではそのへんの別れ、3年引退のくだりはけっこうあっさりしていて、1、2年で次のインターハイに向けてやっていくぜ! というふうになる。そこのあいだ(原作で言うと27巻、28巻あたり)に実はもうひとつレースがあった、という設定にしてガッツリ描いてくれたのが映画版です。堂々の巻ちゃん回!
 総北とライバル高校である箱学の3年クライマーの巻ちゃんと東堂が、それぞれの1年クライマーである小野田くんと真波くんに背中を見せてあとを託しつつ、戦う。というのも、原作だともうちょっと描いてほしかったなあ……って思っていたら、しっかり描いてくれた。本当よかった。
 冒頭20分くらいの、巻ちゃんと小野田くんが学校の近くの山で最後にいっしょに練習するくだりでもう泣けた。

藤田 ぼくは、『ラブライブ』一期のことりちゃんみたいに、巻ちゃんも海外行くのをやめて、「やっぱり自転車やる!」ってなるのかと思ったら、そうならなかったw

飯田 イギリス行っても自転車やるんだけどねw 巻ちゃんめっちゃ人気なのに、それでも(それだからこそ?)別れを早めてチームを去らせた、という展開は、すごい。なかなかできないんじゃないかと思います。

まさかの初見で観たのに絶賛!!


藤田 断っておくと、ぼくは原作もアニメシリーズも一切観ないで、この劇場版だけいきなり飛び込んで観ました。でも、めっちゃ面白かった。親切にわかりやすく作られていましたね。

飯田 え、そうなの? 原作27巻でやっと決着がつく小野田くん一年次のインターハイの結果がいきなりわかっちゃうじゃん! だめだよ、それ!w

藤田 これからTVシリーズ全部観ますよw 想像以上に面白かったので。

飯田 じゃあ「真波くんなんで羽根生えないんすかwww」とか「ここでヒーメ! ヒメ!」って歌うか!!! とか、巻ちゃんがケツから追い上げてついに! ってインハイの小野田くんと同じじゃん熱すぎる! とか全部わかんないってこと?

藤田 全部わからないw でも、充分面白かったんですよ。「ヒーメ! ヒメ!」って、アニメソングを自転車のレース中に歌うのとかも。

飯田 あれはインハイで田所さんがあきらめそうになっていたときに小野田くんといっしょに歌いながら走ったことで前を走ってる金城さんたちに追いついて「総北が6人そろった!」っていう前提があるから感動するのに!!!

藤田 そもそも論ですが、自転車のチーム戦というのが意味わからないんですよね。リレー方式じゃなくて、一斉に5〜6人が走るっていうルールに「えっ??」ってなりましたよ。

飯田 そこからっすかwww

藤田 でもルールや駆け引きのポイントがちゃんと初見でもわかるんですよ。自転車のチーム戦なので、総北高校の中でもキャラの関係性が多い。そして、複数のチームがある。それらのキャラの描き分けや関係性も、初見のぼくでもある程度わかった。これは凄い。30人ぐらいキャラがいるのに。これをわかりやすくドラマにする力量は相当なものだと思いましたよ。

飯田 ひたすら「アブ!アブ!」って言ってる筋肉バカの泉田とか、常にモノ食ってる新開さんとか(笑)、「このキャラはこういうやつです」っていう描写も強調されていたしね。
『弱ペダ』は、先輩と後輩、同じチーム内での仲間でありライバルであるという関係、他校の選手との因縁やレース中の共闘という、使える要素はすべて使い倒してドラマを重層化しているのが特徴で、それは今回もしっかりやってくれていたし。

藤田 ああいうスポーツだからこそ、個性と関係性が濃密に描けるのだなぁ、って感じましたねぇ。自転車のチーム戦を描くってのは、すごい発明だと思いますよ。絵も疾走感があったし、ランナーズハイのあとの自然の美しさ……雲の描写とか、真っ青な空とか。堂々とあの青だけのカットを出してきたのは、見事だと思いました。

腐女子向け? いやいや男が観ても最高でしょ!


藤田 色々な評判を耳にするに、腐女子向けという先入観があったのですよ。実際、劇場に行ったら女性ばかりでしたが…… 確かに、そういう関係性を読み取る作品としても面白いかもしれません。しかし、普通に、「友情・努力・勝利」のスポ根ものとして、ぼくが見ても気持ちよく感動できる快作でしたよ。

飯田 男が見てもめちゃくちゃおもしろいよ!

藤田 これを見たときに、「最近の若者が好きな作品は俺TUEEEEばかりで……とか言われて、オタクは変わったとか言われているが、昔のように、努力して成長して勝負する物語も、堂々とあるじゃないか! 変わっていないじゃないか!」って一瞬思ったんですよ。

飯田 ほんときれいに「友情・努力・勝利」だと思う。掲載誌は「チャンピオン」だけど。

藤田 そういう物語もちゃんと成功するというのは、安心させられました。けど、男子じゃなくて、女子が見ているっていう違いはあるなぁ……と少し考え直しましたねぇ。

飯田 いや、男も読んでるって!w

藤田 いや、現実にはこういう熱血がいなくなって草食系になっているから、女子たちは、フィクションの中にそういう男を求めてるんですよ……(?)
 もうひとつ作品構造の話をすれば、『魔法少女まどか☆マギカ』とか『デスノート』とか、一時期、ルールの裏をいかにかくかに焦点を当てた作品が流行りましたよね。でも、本作は、ちゃんとルールの中で勝負している。その健全さがひとつのポイントですよね。
 現実は既にルールがあってないような時代になっているじゃないですか。そんな中で、ルールがきちんとしていて、それを守って戦うという物語を見るのは、それだけでほっとしますよね。

飯田 それは広島の待宮と京都の御堂筋くんの存在感が今回ちょっと薄いってこともあるよ。その二人はエグいからw

初見でもおもしろいかもしれない。が!


飯田 僕、この作品、ほぼ不満ないです。京伏・御堂筋くんが好きなので今回出番がほぼなかったのは残念ですが、あいつを入れると話がややこしくなるのとその後の展開と整合性がつかなくなりそうなので、そこはまあいいです。
 あとはせっかく熊本でレースするわけだから、車道にくまモンが突然倒れ込んで来るけどそれを蹴散らして直進するスプリンター田所さんと鳴子! ってのが見たかった、くらいですね。リクエストは。

藤田 くまモンはよくわからんですがw よくできた映画だったと思いますよ。正攻法の勝負をしてくれた。
 アニメーションとしても、「勝負」のときの時間感覚や世界認識の変化や、自転車のメカニカルな動きや、漕ぐ身体、CGで描かれている疾走する空間の描写なども気持ちよくて。アニメーションの爽快感が目いっぱい楽しめる作品でしたね。総合的に成功している一作だと思います。

飯田 とにかく藤田くんは原作27巻まで読むかアニメのTVシリーズ観てからもう一回観てよ! もったいないから!!!

藤田 観終わったら、ぼくも男同士の関係性に萌えるようになっているかもしれませんよ?w 知りませんよw