谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

■9月特集 優勝か? 失速か? 阪神タイガースの秋(6)■

「強いのか、弱いのか、よくわからないですよ。今年は......」

 苦笑まじりの一言から古巣の戦いぶりを切り出したのは福間納氏だ。阪神が最も輝いた1985年は、ランディ・バース、掛布雅之、岡田彰布を軸とした強力打線が強烈な印象として残っているが、中継ぎで58試合(当時は130試合制)に登板し、接戦で数々の勝利を手繰り寄せてきたサウスポーが福間氏だった。30年前の歓喜を知る男は、今シーズンの阪神をどう見ているのだろうか。

「チーム打率も防御率もリーグ5位だけど、首位争いをしている。これ自体が不思議なことなんですけど、要は、勝てる試合は勝っているということ。単純に藤浪晋太郎が先発した時、呉昇桓(オ・スンファン)につないだ時はかなりの確率で勝っている。当然、ここからも彼らが投げる時は落とせないですよね」

 66勝のうち13勝は藤浪が挙げたもので、呉昇桓も40セーブをマークしている。つまり、チーム勝利数の多くにふたりが貢献しているのだ。

 近年の阪神はシーズン終盤の失速が定番になりつつあるが、今年は秋になっても4チームが優勝を争っており、これまでとは少し状況が違う。ただ、呉昇桓、福原忍、安藤優也といったリリーフ陣の状態は気になるところだ。

「近年の阪神は、シーズン序盤から1点を守るような戦いが多いから、その影響はどうしても出てしまう。当然、終盤になれば体もきついけど、それよりもずっとそういう試合をやってきたから精神的な疲れが出る。それが、シーズン終盤に失速する大きな原因でした。ただ今年は、ここまできたんだから、なんとか踏ん張ってほしいですよね」

 福間氏自身、1982年から63試合、69試合、77試合と登板を重ね、85年も58試合に投げた。日本一のシーズンを振り返り、自身も含めて投手陣のコンディションはどうだったのか。

「あの年はね、攻撃陣ばかり言われるけど、後半戦のチーム防御率はたしか阪神がリーグ1位か2位でした。でも、それは打撃陣が育ててくれたんです。試合序盤で2、3点取られても、打線が取り返してくれるだろうという気持ちの余裕がありました。それがシーズン後半戦の余力にもなった。投打の信頼関係があったし、そこは今と違うところでしょうね」

 残り試合もわずかとなってきたが、チームとしてここから何をすべきだろうか。

「まずは選手ひとりひとりがしっかり自分の役割を果たすこと。85年はバースや掛布を筆頭に強力打線の印象が強いけど、実は弘田澄男さん、平田勝男、北村照文など......あのチームはとにかくバントがうまかった。たしか、シーズン最多犠打の記録をつくったはずですよ(141犠打は当時のセ・リーグ新記録)。しっかりチャンスをお膳立てして、クリーンアップがランナーを還した。その点、今年はバントミスが多い。やはり、各自がやることをやらないと結果もついてきません」

 さらに話は続き、ベンチにいる選手にも及んだ。

「たまにベンチがテレビで映し出されますけど、元気がない。この時期に優勝争いしているのに、盛り上がりを感じない。僕らの時は、打たれてベンチに戻ってガックリしていたら川藤(幸三)さんに『お前に今できることは声を出すことやろ!』って怒られてね(笑)。川藤さんをはじめ、平田や木戸克彦、それに外国人も明るかったし、元気のいい選手がいっぱいいました。ここまで来て、何が結果を分けるかといえば、『優勝したい』という気持ちの強さ。ベンチが盛り上げて、選手たちの気持ちを出してやることも大事なことです」

 そして福間氏は、「今の状況は85年よりも92年ですよね」と指摘する。92年は10月に入っても阪神、ヤクルト、巨人が1ゲーム差の中にひしめき合う大混戦だった。阪神はシーズン途中から亀山努、新庄剛志の"亀新コンビ"がチームに勢いをつけ、9月半ばに首位に立った。9月19日には2位に3ゲーム差をつけ、残り15試合。5割でも優勝とみられていたが、13試合の長期ロードで3勝10敗とまさかの大失速。最後は甲子園でヤクルトとの2連戦があり、連勝すればプレーオフに持ち込めたが、初戦であっけなく敗れ、阪神のシーズンは終わった。

 今年も18日から12連戦が始まったが、当時の苦い記憶を拭い去る戦いを見せたいところだろう。

「92年の時、僕は解説をしていたんですけど、中村(勝広)監督がロードに出る前に『大きなお土産を持って帰ってきます』って言っていたのですが、それがあんな結果になってしまって......。だけど、最大の失敗は優勝目前で戦い方を変えたこと。先発だった湯舟敏郎らをリリーフに回したんです。気持ちはわからないでもないですけど、それをやってしまうとリリーフ陣は『今までやってきたオレたちは何なんだ』となる。そういう空気が戦いに影響したりするんです。今年はそういうことはないでしょうけど、ベンチは今まで通りの戦いをすること。ここに来て違うことをやってもいい結果は出ません」

 最後に、残り試合を戦う上でのポイントを聞いた。

「藤浪とメッセンジャーが先発した試合、そして呉昇桓が出てくる展開の時は落とさないこと。そこを落とすと優勝は相当厳しいし、それどころか4位になる可能性もある。そうならないためにも、勝てる試合は確実に取ること。でも、最終戦まで順位が決まらず、もつれる可能性は十分にあるでしょう」

 現時点で最終戦の予定は10月5日。本拠地・甲子園で広島と戦う。また、東京ドームでは巨人とヤクルトが最終戦を行なう。その日、はたしてどんな結末が待っているのだろうか。優勝を目指すのはもちろんだが、最低でも3位以内を確保すること。そうすれば、85年以来となる日本一の夢もつながる。