「未来のために」があなたを生きる奴隷にする

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 あなたは何のために「今」を生きていますか?
 良い大学に入るために毎日遅くまで受験勉強をしたり、会社で昇進するために必死に働く日々を送ったりしている人は、なぜ辛い我慢をしてまで頑張るのでしょうか。
 おそらく、「今、ガマンして努力をすれば、より良い未来を手に入れることができる」と考えている人が多いと思います。確かに今を犠牲にすることで将来的にある程度の結果を得ることは可能です。しかし、人生はそこで終わりではありません。
 ある時点で結果を得たとしても、再び次の「理想の未来」に向けて走り出すことを余儀なくされます。これではまるで、未来のために苦しみ続ける奴隷のようです。

 『半市場経済 成長だけでない「共創社会」の時代』(内山節/著、KADOKAWA/刊)において、著者の内山氏は、今の日本人は「現在」という時間を未来の不確実性に対応するための「手段」としてしまっていると指摘します。

■「商品化」してしまった人間
 そもそも私たちが未来のために頑張るのは、未来が予測不可能で不確実なものだから。どうなるか分からない未来に備えるため、現在のこの瞬間を準備のために費やします。
 資本主義社会の現代においては、未来に備えるためには多くのお金が必要です。ある程度のお金が無ければ将来に不安を抱えることになってしまうという構造ができ上がっているため、多くの人が今という時間を犠牲にしてお金を稼いでいるのです。

 この状況は、未来に備えるために今という時間を人間が切り売りしているということを意味します。時間の買い取り手は、もちろん企業の経営者であり、資本家たち。会社員たちの時間はもはや自分たちのものではなく、それを買い取った会社の所有物になっているというわけです。
 このことを分かりやすく示しているのが、「有給休暇を取るときに理由を言わなければならない」という雰囲気が日本社会に蔓延しているという事実です。本来、有給休暇は労働者に認められた権利であり、取得する際に理由を告げる必要はありません。しかし、実際には「どうして休むの?」という周囲からのプレッシャーがあります。
 本書の中でも「意味なく休まれちゃ困るんだよね」という言葉を発する人事が登場します。あくまで会社側からすると、有給休暇は仕事の生産性を維持するためのリフレッシュ期間として使ってもらいたいのであり、会社のためにならない有給休暇など「無意味」だというのです。

■お金に頼らずに未来に備える
 また、未来に備えるための手段はお金だけに限りません。お金以外のものに頼ることが可能になれば、私たちは未来のために今を捧げ続ける生活から脱却できると、著者の内山氏は主張します。たとえば、個人が互いに独立するという形での自立ではなく、他者同士で依存し合うという形での自立も可能であるといいます。
 身近な例でいえば、住居を共有するシェアハウスが挙げられます。若者たちの間で人気を集めるシェア(共有)という生き方は、未来のために現在を犠牲にするという価値観に疑問を抱く人が増えている証拠かもしれません。

 本書には、実際に周囲の人々と依存し合って生きている3人の人たちが登場します。3人とも30代前半と若く、豊かな自立生活を送っている様子が書かれています。昨今、ワークライフ・バランスについての議論が活発ですが、その議論も既存の労働概念の枠組みの中でしかなされていないように思われます。本書は真のワークライフ・バランスを提案し、豊かな「今」という時間を取り戻すためのヒントを示している一冊だといえます。
(新刊JP編集部)