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 これを暴挙と言わずに何と表現すればいいのだろう。──昨日の参院特別委員会では、締めくくり総括質疑も行わず、いきなり与党がスクラムを組んで勝手に安保法案を可決してしまった。

 しかも、与党はスクラムの中で、「平和安全法制整備法」「国際平和支援法」といった安保法案だけでなく、質疑を打ち切る動議や付帯決議、審議経過の取りまとめを委員長に一任するということまで全部決めた、ということにしている。5回も採決が行われていた、というのだ。だが、あの瞬間を映像で観ればおわかりの通り、そんなことは誰の耳にも届いていないし、委員長の姿さえ見えない。手続きを完全無視し国会運営を馬鹿にした、まったく許されない「強行採決」だったのだ。

 だが、この"権力の暴走"を真正面から批判したテレビ番組は、ごくわずか。むしろ、ほとんどの番組は与党の暴挙を取り上げないばかりか、抵抗した野党が混乱を引き起こしたかのような報道を展開したのだ。

 たとえば、昨日夜に放送されたNHK『NEWS WEB』では、政治部の田中泰臣記者が「生放送で採決の解説をしていましたが、私自身のいま何が行われているのか、正直ちょっとわからない状況でした」と振り返り、何が何だかわからないあいだに5つの採決が行われていたということまで解説しておきながら、「与党とすれば、きょうの採決というラインは譲れなかった」と説明。"与党の伝書鳩"状態だった。

 しかし、さらにひどかったのは今朝から午後にかけて放送された各局のワイドショーだ。

 まず、フジテレビの『とくダネ!』は、またしても一昨日夜の女性議員たちの抵抗を"セクハラトラップ作戦"と前日の放送同様に紹介。委員会の再開を、与党が告知していた会場とは違う部屋に"看板かけ替え"でだまし討ちしたことはそこそこに、少数派の正当な抵抗手段として認められているフィリバスター(長時間演説のこと。牛タン戦術とも呼ばれる)を「通常の5倍、およそ50分を費やした」と、まるで野党が姑息な手段に打って出ているかのように伝えた。

 しかもスタジオゲストは、安倍晋三首相としょっちゅうお食事に繰り出している"寿司友"ジャーナリストの田崎史郎。司会の小倉智昭が「牛歩戦術より牛タン戦術のほうがスマートな気がしますよ」と評すると、すかさず「(1992年の牛歩では)議場の端っこで用を足す人もいた」などと茶々を入れ、本日の本会議で行われるかもしれない牛歩を牽制するかのように、田崎は視聴者の嫌悪感を引き出すネガティブ情報を流した。

 それだけではない。田崎はこの『とくダネ!』のあと、『ひるおび!』(TBS)や『直撃LIVE グッディ!』(フジテレビ)とワイドショーを行脚。安倍首相の代弁者でしかない田崎がジャーナリストを名乗るのは厚かましいにも程があるが、そういう人物をありがたがってゲストに呼ぶ番組も程度が知れるというものだ。

 また、既報の通り、昨日も田崎は『ひるおび!』で、作家の室井佑月が多くの国民が反対しているなかで強行採決したことを批判すると、「『国民』て誰のことですか? どこにいるんですか?」と嘲笑いながら言いのけたが、今日も同様。『ひるおび!』で田崎は"国会の混乱はすべて野党のせい"だとし、『グッディ!』では司会の安藤優子が委員会強行採決について「速記録が残っていなくても正式に可決されたことになるんですか?」と尋ねると、「委員長が絶大な権限をもっているんですね。委員長が認めれば(可決は)認められることになる」と断言。まるで"勝手に採決して何が悪い?"と言わんばかりの口ぶりだった。

 さらに、先日、安倍首相が生出演した『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)では、昨日の強行採決時の混乱を紹介するも、一方的に与党がスクラムを組んで人の山をつくったことをツッコむことなく、あたかも野党が大暴れしたかのように紹介。与党のやり方を阻止すべく民主党・小西洋之議員がスクラムにダイブした場面もそうした文脈で伝え、ナレーションは「佐藤(正久)議員に押し返されてしまった」と言った。......しかし、その場面は小西議員にヒゲの隊長が「パンチを繰り出している」ようにしか見えない。それでも「押し返す」という表現を使うのである。

 挙げ句、司会の宮根誠司は「この混乱はちょっと引きますよね」と、混乱の原因をつくった与党には言及しないまま感想を口にする。このバイアスがかかった空気に対し、コメンテーターの青木理が「たしかに引くけど、相対化するのはよくない」「国民の半数以上が反対している上、憲法違反だと指摘されているなかで、根本的な問題を与党はどう受け取るのか」とごく当然の反論を行った。だが、この青木の言葉に日本テレビ解説委員の青山和弘は「そういう段階はもう過ぎちゃってる」「妥協点を見つけるのが国会」などと言い、見事なまでに与党側に立った解説を披露。「与党としては今週末には絶対通したい」と強調し、安倍首相のスポークスマンぶりを見せつけた。

 与党は悪くないのに野党が荒ぶっているだけ──。こうしたメディアの伝え方と同調するように、ネット上でも議会運営を掻き乱しているのは野党だとする主張は多い。しかし、議会上は多数派の与党に対して野党が抵抗することは許されているものであり、だまし討ちや力でもって妨害する与党こそが卑怯であり姑息なのだ。だいたい「今週末までに採決したい」という与党の事情など、国民にはまったく関係ない。文句を言われたくなければ堂々と解散総選挙をすればいいし、野党や国民を納得させるだけの説明を行えばいいだけの話ではないか。だが、このごくごく普通の意見さえ、ワイドショーは掻き消してゆく。

 しかも呆れたのは、与党への批判を行わないだけでなく、反対デモにもケチをつけていたことだ。

 たとえば、『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日)では、コメンテーターを務める実業家の経沢香保子氏が、子どもを連れてデモに参加する人に「ネットでも非難された。みなさん気をつかってらっしゃるかと思うんですけども」とこの期に及んで苦言を呈した。少しでも想像力を働かせば、子どもを預けられず、でも黙っていられないから駆けつけているのだとわかると思うが、そういうことも勘案しようとしない。おまけに経沢は、「『子どもを戦争に行かせたくないから反対』という感情的な議論が中心になっていて、みんな中身を知ろうとされているのかもしれないですけど」とコメント。......よくこれで経沢は「女性が輝くサービスを提供」「女性を輝かせる為に、ベビーシッターという新しい育児支援スタイルをひろめ、日本の文化にしましょう」などと謳う会社のCEOをやっていられるものだ。

 現在、衆議院では内閣不信任案が提出され、野党がフィリバスターに挑んでいる。フィリバスターのあとは牛歩が行われる可能性もある。そうなれば、メディアは格好の材料として野党を批判するだろう。しかし、視聴者は騙されないでほしいし、忘れないでいてほしい。何度も繰り返すが、これはきちんと認められた正当な抵抗手段であり、与党が実行した委員会強行採決こそ議会妨害で、異常な採決だったということを。

 そして、そんな当然のことさえ伝えないメディアは、即刻、報道を名乗ることをやめていただきたい。それはもはや報道ではない。ただの"政権チャンネル"だ。
(水井多賀子)