モナコからマンチェスター・ユナイテッドへ移籍した19歳のアントニー・マルシアル【写真:Getty Images】

写真拡大 (全2枚)

マルシアルの素顔に迫る

 19歳のフランス代表FWアントニー・マルシアルは、総額8000万ユーロ(約108億円)でモナコからマンチェスター・ユナイテッドへ移籍した。その高額な金額に疑問視する見方もあったが、デビュー戦となったリバプール戦でゴールを決めている。フランスのレジェンドであるティエリ・アンリ氏とも比較される若者は、今回の移籍をどう思っているのだろうか。その真相に迫る。
(インタビュー by Mathieu Delattre マテュー・デラートレ)

「自分に8000万ユーロの価値があるかどうかは分からない」

――フランスサッカー史上最も高い移籍金でマンチェスター・ユナイテッドの一員になった感想は?

「周りの人たち、家族や友達はちょっと恐れおののいていたよ。僕の年齢(19歳)の選手には、あまりに度を超した金額だと思う。

 でもこれはクラブ間が決めたことだし、彼らがお互いに同意した以上、僕自身にはどうすることもできない。これがフットボール界のマーケットのあり方だ。それについて僕が何か言う立場でもないし、僕はピッチの上で、自分がするべきことをやるだけだよ」

――とはいえ「フランスで最高額」ということは、君はかのジネディーヌ・ジダンより高額の選手、ということになる…

「自分に8000万ユーロ(約108億円)の価値があるかどうかは分からない。だからこの質問には答えようがないよ。というか、実際あまりそのことについては考えないようにしているんだ。

 僕は純粋に、スポーツ上の理由でマンチェスター・ユナイテッドに行くことになった。だから特にプレッシャーを背負うことになったとも感じていない。今はただ、ピッチ上で自分の価値を証明することだけを考えているよ。

――フランス代表のディディエ・デシャン監督は、これは君にとって「別の惑星に行くようなものだ」と話していたけれど、自分でもそう感じている?

「もちろん、モナコ時代とは別世界だと思うよ! マンチェスターはサポーターの数もものすごいし、どの試合もスタジアムは満員だ。それに、イングランドでは人々はサッカーのために生きている。その新しい環境へいかに順応できるかは僕自身にかかっている。

 でも、心配よりもワクワクのほうが大きいんだ。ただ、英語だけは勉強しなくちゃならないけどね。少しは話せるけどまだまだだ。今は週に2回レッスンを受けているけど、できるだけ早くきちんと話せるよう、もっと集中してやるつもりだ」

「デビュー戦ゴールは夢のよう」「アンリと比較されることは…」

――新しいチームメイトのウェイン・ルーニーは「君のことは知らなかった」と言っていたらしいね。

「当然だよ! 僕は若いし、リーグ1でもまだそんなにプレーの経験がない。フランス代表にだって呼ばれたばっかりだ。そんな僕がユナイテッドの一員になって、ルーニーのチームメイトになれるなんて、本当に光栄だよ。彼は本当に素晴らしい選手だし、彼とプレーすることでものすごく成長できると思う」

――デビュー戦でゴールを決めたのは、最高のお披露目になったんじゃない?

「まるで夢のようだよ! こんな展開はまったく想像すらしていなかった。でも調子はすごく良かったし、良い感触もあった。それはチームメイトやスタッフが僕が最高の状態でプレーできるような状況を作ってくれたおかげでもあるんだけどね。

 ファン・マタと交代してピッチに上がったときも、すれ違い様に彼が激励してくれたんだ。『いつものようにプレーすればいいんだぞ!』ってね」

――実際、そのとおりになったわけだ。あのゴールについて話してくれる?

「左サイドでボールを受け取って、そのままドリブルで切り込んでいった。軽くフェイントをかけて相手の選手を一人かわしたあと、右足の内側で流し込んだ。そしたらうまくネットに収まってくれたんだ」

――まるでティエリ・アンリのゴールみたいだった。実際、彼と君はよく比較されるよね。

「そうなんだ。僕も彼と同じウリス(パリ郊外のアマチュアクラブ)のクラブでサッカーを始めた。だけど、ティエリ・アンリはフランス代表、そしてアーセナルでも史上ベストのスコアラーだ。格が違いすぎるよ! それを考えたら、みんな比較しようなんて思わなくなるはずだよ(笑)。

 僕はマーシャルで、19歳、それに僕は…僕自身だ。僕には僕のスタイルがある。彼と比較されているのを耳にするのは、本当にびっくりするくらいの光栄だけれど、シリアスなものでは決してないと自覚しているよ」

――ルイス・ファン・ハール監督からはどんな言葉を?

「どのポジションでプレーするのが一番得意かと聞かれたから、僕は『真ん中』と答えた。彼は『いくつか複数のポジションでプレーしてもらうことになる』と言ったよ。それについては何の問題もない」

「僕の生活は1日で劇的に変化した」

――今振り返ってみると、モナコを去ることになる予感はあった?

「いや、モナコを出ることになるなんて考えてもいなかった。だけど、バレンシア戦(チャンピオンズリーグ予選)に負けた後で、急スピードで話が進んだんだ。

 CLに参戦しないことになったことが大きく影響したことは間違いない。両クラブ間で同意に至って、僕は世界でもっともビッグなクラブの一員になる、という幸せな状況に置かれていたんだ。

――EURO2016を来年に控えたこのタイミングでの移籍はリスクだとは考えなかった?

「リスク? いや、まったくそんな風には考えなかったよ。自分のプレーをしていれば、物事が悪い方向に進むはずはないと思っているからね。それに、モナコでプレーするよりも、ユナイテッドでの方が確実に露出の機会は増えるだろうし。

――8月31日に、契約のために日帰りでマンチェスターに行き、その後すぐ初招集されたフランス代表合宿に合流した。2015年9月の1週間は、本当にめまぐるしかったんじゃないかい?

「僕自身は特に何も期待していなかったのに、こういうことになった。でもこれがフットボールの世界だ。僕の生活は1日で劇的に変化した。だけど、こういう体験をしたのは僕だけというわけじゃない。この世界では、いつだって物事はものすごく速いスピードで進んでいくからね。

 クレールフォンテーヌに着いたあとは、みんなに『ボンジュール!』と挨拶しただけで、代表のスーツの試着をして、すぐに遠征先(ポルトガル)に出発さ! でも代表のみんなは温かく迎えてくれた。慌ただしい一日だったけど、とても満たされた思いだったよ」

text by 小川由紀子