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ヘルスケア市場に参入するベンチャーが急増している。その先駆者となるのが2012年創業のFiNCだ。栄養士やトレーナーなどダイエットの専門家が、スマホアプリを通じてマンツーマンの指導を行う「FiNC ダイエット家庭教師」など生活者の健康を支援するサービスを提供する。

同社のファーストプロダクトは、DNAや血液、生活習慣などの各種検査サービスだった。これにより、一人ひとりに最適化された情報提供は実現したものの、実際のアクションは生活者の判断に委ねられていた。つまり、検査サービスだけでは、情報提供を超えたサポートを実現できなかったのだ。

「スマホを使って検査結果に合わせたサービスを提供できれば、時間と場所にとらわれずしかも効率的に、多くの方に最適なソリューションを届けられる ―― この気付きが起点となり、およそ2年後の2014年3月、FiNC ダイエット家庭教師をリリースしたんです」と振り返るのは、FiNC 代表取締役社長 CEOの溝口勇児氏だ。

○組織の実行力は、経営者と現場の相互理解が生み出すもの

溝口氏 :複雑な家庭で育ったこともあり、中学生の頃からいろいろな仕事をしてきましたが、高校3年生のときに従事したスポーツクラブでのトレーナーは、これこそが自分の天職だと感じ、その後長らくプロアスリートの体づくりに携わることになりました。

しかし、お客さまの生活習慣まで踏み込んで支援すると、自分一人が担当できる人数は50〜100人が限界なんですよね。多くの方から指導してほしいとお願いされるのに、そのすべてをお受けできないことに対して申し訳なさを感じていました。

だからこそ次のステップに進まなければと思い、高品質なサービスを提供できるトレーナーを育成する指導者、さらには支配人として経験を積んでいきました。24歳のときには業績不振に陥った老舗スポーツクラブの経営を任せてもらう機会をいただき、その会社は今にも潰れてしまいそうな状態でしたが、当時の経営者は藁にもすがる思いだったんでしょう、僕に賭けてくれたんです。

この案件は、周囲にライバル施設が続々と新規参入していたこともあって、業界では経営改善が難しいと言われていましたが、業績回復に成功し、コンサルの依頼が舞い込むようになりました。独立したのは27歳のときです。初期の頃は、業績不振企業の立て直しやコンサルを続けながら、稼いだお金を人件費や開発費に充てていました。

――― コンサルの仕事で結果を残せた要因は何でしょう?

実行力のある組織を作り、正しい施策を打ったことだと思います。業績が低迷している企業は往々にして、経営陣と現場との間に軋轢があります。これは、「経営陣のコミュニケーション能力の乏しさ」と「現場の理解力の無さ」に問題があるためだと考えています。

たとえば、僕もアルバイトだったとき、社員の指示に納得できなかったり、違和感をおぼえたりした記憶があります。しかし、僕が社員になったときは、アルバイトが僕に対して、当時の僕と同じ不満を抱えていた。「ある立場になった途端に、下から同じ不満を持たれる」という構図が続き、双方の摩擦がなかなか解消されずにいたんです。この原因はシンプルで、当時見えていなかったものが、1段上がることで見え始めたからです。

1階にいた経験しかない人は、当然1階からの景色しか見えません。一方で、10階まで上った経験のある人は、10階からの広い視野を持って意思決定できるわけです。僕も社員になって初めて「(当時の社員は)こんなに次元の高いところからものを見ていたんだ。自分が理解できていなかったんだ」と気づきました。

この気付きから、二者間にある隙間を埋めていくための施策を行ってきました。組織が一枚岩になれば実行力が増します。指示を出すのは上の人でも、実際に動くのは現場ですから、お互いの間で信頼関係ができていれば、強い実行力が生まれると考えたわけです。

――― そういった経験を、現在の組織運営にどのように活かしていますか?

どんなに難しい意思決定をするときであっても、伝えるのが億劫なことであっても、社員に対して思考プロセスを丁寧に開示するようになりました。

たとえば「60度」と耳で聞くと、人によって温度や角度など、捉え方はさまざまですよね。自分が温度のつもりで伝えても、相手の受け取り方が違うと、コミュニケーションは成立しなくなりますし、コミュニティもまとまらなくなります。

また、僕たちは「世界で最も戦略の実行スピードが速い組織」を目指しています。アイデアはいくらでも思い浮かびますが、形にするには実行力が必要不可欠ですし、形にできなければ価値を生み出せません。

そのために、やはり、積極的なコミュニケーションが大切になります。スムーズに意思疎通できていれば、変な遠慮が生まれて物事が進まなかったり、ムダな時間を過ごしたりすることはありません。

加えてもう1つ、明確なビジョンを持つことも重要だと考えています。言い換えると、ゴールを曖昧にしないことでしょうか。ゴールがクリアになっていれば、目の前に突き付けられる選択肢を正しく選ぶことができ、迷わず最終地点へと向かっていけますから。

○一流の人間に囲まれているから弱い自分に打ち勝てる

とはいえ、創業後2年はヒト・モノ・カネ、すべてが不足していました。ヒトでいうと約10人の社員のうち、アプリを開発できるエンジニアは0人。次のステージに進むため、自分たちでプロダクト開発をする必要がありましたが、エンジニアを新規で採用するには当然お金が必要です。まとまったお金を手に入れるには、投資をしてもらうのが一番ですが、そのためにはプロダクトを見せる必要があります。結局のところ、当時あったのは "思い" だけでした。

友人たちに「起業している人でも、CTOをしている人でも良いので、◯◯さんが知っている中で一番優秀なエンジニアに会わせてほしい!」とお願いし、いろいろなエンジニアと会い続けました。大きな転換点になったのは、元MEDICA創業者の南野充則(現 取締役CTO)との出会いです。

彼は会社を2つ経営していましたが、彼の下で働いていたエンジニア4人と共に、2013年末にFiNCに参画してくれた。僕の思いに賭けてくれた彼らが3カ月間に渡って、一生懸命作ってくれた高機能なプロダクトのおかげで、大きな資金を得て、優秀な社員を採用し、プロダクトの質を上げ、より大きな資金を得て……と正のサイクルが回るようになったんです。

――― 南野氏以外にも、元LINE代表取締役社長の森川氏や元クックパッド最高財務責任者の成松淳氏など、一流の人々を次々と経営陣に巻き込んでいますよね。

幸運なことに、僕らの事業は市場性・社会的意義・タイミング・ヒトの4つが揃っているんです。マス市場を攻めていますし、社会性も大きいですし、世の中が大きく変わるタイミングでもありますし、そこに素晴らしい人たちがいる。どれだけ崇高なビジョンを掲げていようと、本気で具体的なゴールを目指す集団に見えなければ、誰も手伝ってくれないと思うんです。

この4つが揃った状態で、5年で時価総額1兆円達成という大きなゴールを設定しています。ゴールから逆算すると、その世界を自分の目で見てきた、かつ実績を持っている一流の人が必要になる。僕は真剣に「本気でゴールを目指しているので、◯◯さんのことが必要なんです!」としつこくお願いします。それがたくさんの素晴らしい人たちを巻き込めている要因かも(笑)。

というのも、僕にはゼロから作ったプロダクトを大きくスケールさせた経験はありません。たとえば僕が10階からの景色を見ているとすると、森川氏は100階からの景色を眺めているでしょう。その世界を見てきた人からアドバイスをいただくと、目指すところに行きつく確率は格段に上がると思いますし、道を誤ってしまう確率も減ると思うのです。

――― 元サッカー日本代表監督の岡田武史氏を新たに株主として迎え入れたことも話題になりましたね。

僕は若い頃から「尊敬する人は?」と聞かれるたびに、岡田元監督のお名前を挙げていました。本音を言うと、尊敬という言葉は相手を追い越せない気がして、好きではないんですが(笑)。でも、岡田元監督に対しては、尊敬という言葉を心から使いたいと思ってしまうんです。

日本代表を率いてきたマネジメント力や経営哲学、リーダーとしての姿を長年拝見してきて、多大な影響を受けています。本当に一流の方ですから、組織作りをする上で学びを受けたいと思っています。

僕は決して心が強い人間ではないので、どうしても怠けたくなるときがあります。哲学書と漫画が並んでいれば、つい弱さの方が勝ってしまい、漫画を選んでしまうこともあるので。でも、尊敬する方が僕たちにお金を預けてくれて、思いをぶつけてくれているとなると、弱い自分を律することができるんです。自分を追い込む環境を意図的に作っています。

僕はよく社員に「you are what you choose (あなたは選択で作られている)」といった話をします。人生は選択の積み重ねでできています。ゴールさえ見えていれば選択そのものは簡単ですが、己に勝ち続けることはとても難しい。己に負けない人だけが、最終的にゴールに到達できると思うんです。

――― 代表取締役を3人体制にしたのにも、自らを追い込む環境作りを行う意図があったのでしょうか?

そうですね。小泉も乗松もトップマネジメントを歴任してきて、経験・実績共に豊富ですから、非常に高い視座を持っています。彼らと仕事を進めることで、僕自身の視座も引き上げられているのを感じます。

また、僕のようにトップの立場になってしまうと、酸いも甘いも噛み分けた年齢でもないのに、指摘してくれる人はいなくなってしまいます。僕の性格や考え方、会社の状況や目指すゴールなどを理解していて、多くの経験を積んでいる2人が両脇を固めてくれるのは、本当にありがたいことです。

また、3人というのはちょうど良い人数でもあるんです。直近2カ月で、僕たちは周りから心配されるくらい激論を交わしてきましたが、3人いると1人が「まぁまぁ」と仲裁に入りやすいんですよ(笑)。2人だと激論の末、仲違いしてしまう……なんてこともあり得ますが、3人だとそうはなりません。

今後の取り組みを少しお話させていただくと、五期目(2015年9月時点は四期目)でアジアへ進出する予定で、現在リサーチを行っています。日本は、他国がまだ直面していないレベルの問題をいくつも抱えた課題先進国だと言われています。だからこそ、課題への対応方法を導き出せれば世界に出ていけるはずなんです。それなりに息の長い戦いになるのは覚悟しています。しかし、海外でも「一生に一度のかけがえのない人生の成功をサポートする」というビジョンを掲げ、今から仕掛けていきたいと思っています。

(池田園子)