米GEはいかにして生まれ変わったのか──巨大企業を甦らせた「カルチャーとオープンネス」

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1878年にトーマス・エジソンが創業した、アメリカを代表する大企業GE(ゼネラル・エレクトリック)。グローバルに展開するインダストリアル・カンパニーとして20世紀を制した彼らは、21世紀にいかに生まれ変わり、時代に適応しようとしているのか。GEの新兵器となる、産業機械をインターネットにつなげることでデータ分析・活用を行う一大構想「インダストリアル・インターネット」を率いるビル・ルーに訊く、大企業を甦らせた新しいカルチャーのつくり方。

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BILL RUH|ビル・ルー
米GEヴァイス・プレジデント。GEソフトウェアにて、サーヴィスや製品開発を統括する。コンセプトファイヴテクノロジー社やシスコを経て、2011年にGEに移籍。技術分野における25年以上の経験を生かし、「インダストリアル・インターネット」を実現するためのソフトウェア開発を率いている。10月1日より発足するGEのデジタル関連部門をひとつに統括した新組織「GEデジタル」の、チーフ・デジタル・オフィサーに就任する。

──まずはじめに、なぜゼネラル・エレクトリック(GE)に活躍の舞台を移すことを決めたのかを教えてください。ソフトウェアに強い企業からハードウェア企業へのドラスティックな転身に見えますが。

「これからのIoT(Internet of Things)における大きなインパクトは、産業界(インダストリアル・セクター)で起きようとしている」と思ったことがきっかけでした。IoTのこれまでの10年間は消費者のためのものでしたが、これからは企業のお金儲けのためではなく、きれいな水やきれいなエネルギー、よりよい交通、そういった人々の生活を改善するためにIoTが使われるべきだと思ったのです。

商業のIoT化とエコフレンドリーの2つは間違いなく「The Next Big Thing」であり、GEでならばそれらに同時に取り組むことができます。誰がそんな大きなチャンスのために働きたくないと思うでしょう?

──GEは今年4月、利益の約3分の1を占めていた金融事業「GEキャピタル」の売却を発表しました。その決断にはどのような意志が込められていたのでしょうか?

「GEを世界で最も価値のあるインダストリアル・カンパニーにするんだ」という、CEOジェフリー・イメルトの想いからでしょう。そうやって常に自らを変え続けられるところ、立ち止まらずに動き続けられるところがGEという会社のいいところなんです。

われわれはGEキャピタルを手放すことを決め、さらにこれまでハードウェアの会社だったGEがソフトウェアの領域に取り組むことになりましたが、それは「世界で最も価値のあるインダストリアル・カンパニーになる」という目標のためにはごく自然な決断だったのです。その結果として、いまわれわれは「インダストリアル・インターネット」に力を入れることができています。

──そのインダストリアル・インターネットというアイデアは、いかにして生まれたのでしょうか?

わたしがGEに来た2011年ごろに、われわれは産業界に新たな競合が現れ始めていることに気が付きました。アナリティクスを行うソフトウェア企業の存在が目立ち始めていたのです。もういつまでも物理的な機械だけをつくっていてはダメだ、優れたソフトウェアをつくり、それをハードウェアに取り込んでいかないといけないんだ──ソフトウェア企業の台頭は、そんなことをわたしに気づかせてくれました。同時にわれわれの取引先の企業たちが求めるのも、もはや機械だけでなく、データを集めて分析をすることに変わってきていたのです。彼らにとって重要な存在であり続けるためには、自らのプロダクトを考え直す必要があったのです。

そうして取り組むべき戦略を考えたところ、2つのことに気がつきました。それまでわれわれがつくっていた機械を生かせば素晴らしいアプリケーションをつくることができそうだということと、そこには大きなチャンスがあるということです。つまり産業界におけるITプラットフォーム事業というは、まさにグリーンフィールド(未開発地域)だったのです。いま産業界に必要なプラットフォームとアプリケーションをつくれば、産業用ソフトウェア市場でトップの存在になれる。わたしはそんな確信をもつことができました。

──インダストリアル・インターネットで最も成功した事例を教えてください。

ひとつは、「デジタル・ウィンド・ファーム」と呼ばれる風力発電機でしょう。これは発電機に付けられたセンサーを使って集められる天候データを使うことで、より効率的にエネルギーを生み出すことのできるものです。物理学や化学を使ったエンジニアリングではなく、ただアナリティクスを活用するだけで、従来よりも20パーセントも多くのエネルギーを生み出すことができたのです。

そのほかにも、老朽化をいち早く発見できる石油・ガスのパイプラインやクラウド上で医師に診てもらうことのできるヘルスケアシステムなど、われわれはこの2〜3年の間に40もの新たなアプリケーションを生み出し、それは約13億ドルもの売上高を計上しています。このインダストリアル・インターネット事業における急速な展開をスタートアップのようだとたとえられることがありますが、われわれが描くシナリオはただのスタートアップではありません。言うなれば「ビッグカンパニー・スタートアップ」。速く動くことのできる大企業の姿を目指しているのです。

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──GEキャピタルの売却やインダストリアル・インターネットへの舵切りといった大きな変化を可能にするためには、社内カルチャーを変える必要があったと思います。どのようにしてカルチャーを変えることに成功したのでしょうか?

大企業が新たな領域に進むためには、考え方を変える必要がありました。そして考え方を変えるためには、われわれとは異なる種類の経験をもつ人々の力が必要でした。そこでわれわれは、(GE本社のある東海岸コネチカット州を離れて)サンフランシスコのベイエリアに新たにオフィスをつくったのです。新たなビジネスモデル、デジタル企業の豊富な知識とアイデア、素早く動くために必要なマインド。そういったものをもつ人々をこの2年半の間に1,200人雇いました。そんなにたくさんの才能ある人々を見つけ出すのは難しいことですが、ベイエリアというスタートアップのハブとなる地域に移ったことで、カルチャーの変化をドライヴさせるような多くの人々と出会うことができました。

だからこそこの短期間で40もの新たな分野にインダストリアル・インターネットを取り入れることができたのです。大企業の影響力の大きさを生かしながら、同時にスタートアップのメンタリティをもつこと。この2つを両輪で動かすことができているのは、会社の他の部分とは切り離されたところで、よりフレキシブルに動くことができたからでしょう。

──新しい文化を取り入れるというのは大変なことだと思います。文化を取り入れるためにどんな戦略を行ってきたのでしょうか。

最初に行ったのは、社員の考え方を変えるための「教育」です。例えばインダストリアル・インターネットのプロジェクトでは、いまわれわれの周りでは何が起きていて、だからこそインダストリアル・インターネットに取り組むべきなんだと社員に教えるところから始めました。決して彼らを怖がらせたり疑わせたりするのではなく、世界はどう変わっていくのかということをイメージさせながら教えるのです。AirbnbやUberのストーリーは誰もが知っていますから、そういった“ビジネスのコンテキスト”を示しながら、新たな戦略のチャンスや新たな脅威を教えます。最初のステップとして約1年間をかけて、いま起きているディスラプション(変革)について、そして世界がこれからどこに向かっていくのかについて社員に理解をしてもらいました。

次に行ったことは、新たなビジネスをつくるためのチームをつくることです。数多くの優れた企業と手を組み、彼らの知識と専門技術を借りることによって、われわれは自分たちの「思考の箱」を飛び出して動くことができたのです。例えばデジタル・ウィンド・ファームでは、再生可能エネルギーにおいて風力事業を展開している多くの優れた企業と協力しました。彼らのより進んだ知識とチャレンジ精神があったからこそ、デジタル・ウィンド・ファームを成功させられたといえるでしょう。このような他の企業との協力が、インダストリアル・インターネットのプロジェクトを前に前にと進めてきたのです。

──「オープン」というのが、変化のキーポイントだったのですね。

その通りです。われわれが意識して行ったことのひとつが、先ほど挙げたようないまの世界に革新を起こしている企業が何をしているのかをよく観察することでした。彼らは“オープンなテクノロジー”を生み出している。他の企業とパートナーを組んでいる。そしてプラットフォームをつくり、既存の領域をディスラプトしようとしている。ならば、そうした新しい企業がうまくやっていることを盗んでみよう、GEのやり方で取り入れてみようと思ったのです。われわれはこれまでの古いやり方に固執せずに、常に新しいやり方を取り入れようとしてきました。これまでやってきたことにとらわれてしまうことこそが、多くの大企業が陥ってしまう失敗なのではないでしょうか。

──そのほかに、カルチャーを変えるために社内制度を変えた事例があれば教えてください。

いまでも続けていることですが、ひとつには組織構造をより洗練されたものへと変えようとしています。組織構造というのは企業の優先順位を示すものですが、われわれはデジタルの重要性をより強調するような組織構造をつくろうとしています。もうひとつは人事システムを時代に合ったものへと変えようとしています。例えばこのデジタル時代において、従来のような年に一度のフィードバックはもはや機能しません。とくに若い世代は、自分がしたことに対してすぐにフィードバックをもらうことを好むでしょう。そうしたデジタル世代の社員が、より速く物事を判断していけるような評価システムをつくろうとしています。

こうした変化は、何もアメリカだけで求められているものではありません。世界中のすべてのビジネスに求められているものだと考えています。すべてのビジネスというのは、結局のところ“ボトム”があるからこそ成り立っているからです。一度そのことに気づきさえすれば、カルチャーや組織構造、社員のマネジメント方法といったものを時代に合ったものに変えなければいけないということがわかるでしょう。そしてこれらの取り組みを行って気づいた何よりも素晴らしいことは、若い人々がそうした変化を望んでいるということでした。時代に合わせて変化を続けようとする会社には、優秀な人々が集まるものです。なぜなら才能ある人々は、物事が理にかなった環境を求めるものだからです。

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──インダストリアル・インターネット分野における日本のマーケットをどうとらえていますか?

日本は、われわれが最初にインダストリアル・インターネットを取り入れていこうとしているマーケットのひとつです。これほど多くのインダストリアル・カンパニーがある国には、大きなチャンスがあるといえるでしょう。だからこそGEはソフトバンクなどの多くの日本企業とパートナーシップを組んでいるのです。

ただ一方で、インダストリアル・インターネットを取り入れることは大きな変化でもあります。したがって比較的新たなテクノロジーを受け入れるのが遅いこの国のマーケットで、われわれはインダストリアル・インターネットの価値を正しく伝えていかなければいけないという挑戦にも面しています。現在は最先端の技術を取り入れたい、市場を制したいというアーリーアダプターを探している段階です。小さな企業でも大きな企業でも、来るべき変化を理解して受け入れ、どこよりも早くインダストリアル・インターネットの世界に飛び込んできた企業とともに働きたいと思っています。

──優れた企業とパートナーシップを組んでいくこと以外にも、インダストリアル・インターネットを普及させていくためのポイントはあるのでしょうか。

実はここでは、政府というのが重要な役割を果たすことになります。インダストリアル・インターネットの成長を支援できる国が、これからの勝者となりうるからです。例えば中国は大きなインターネットマーケットをつくろうとしていますし、ドイツは「Industry 4.0」を掲げています。産業にインターネットを組み込むということはただ単にテクノロジーに限った話ではなく、ビジネスや経済を変えていくものです。したがって、国がこの分野を成長させるための政策を打ち出すことが重要になります。

未来は間違いなくインダストリアル・インターネットとともにあります。そしてこの分野で成功することができた国がものづくりにおいても成功し、国民の雇用率を上げることもできるでしょう。インダストリアル・インターネットを促進させるような環境を国はいかにつくることができるのかということは、決して無視できない大きな課題だと思います。

──最後に、ビルさんのインダストリアル・インターネットに対する未来ヴィジョンを教えてください。インダストリアル・インターネットが普及したこれからの世界では、ぼくらの生活はどのように変わっていくと考えていますか?

インダストリアル・インターネットが普及することによって、人々の社会と生活の質をよりよくすることができると考えています。インダストリアル・インターネットなしには、われわれはきれいな水やエネルギー、よりよいヘルスケアや交通システムを手に入れることはできないからです。

現在のインダストリアル・インターネットは、まだまだ生まれたばかりの赤ん坊のようなものです。しかしこれから10年・20年が経ったとき、機械に組み込まれたソフトウェアや人工知能がわれわれに、機械とより効率的な方法でコミュニケーションをすることを可能にしてくれる未来がやってくるでしょう。そしてそのような知性は、いずれガスタービンや発電所といったところにも組み込まれていくはずです。機械は人がすべきことを知り、人は機械がすべきことを知り、互いの知識が一緒になることで人と機械が協力できるような世界をわたしは想像することができます。すべての機械がヴィジョンをもつような世界を想像することができます。

インダストリアル・インターネットの普及で可能になるのはそういう世界でしょう。生まれたばかりのインダストリアル・インターネットが、これからどう成長していくのかを見ていくのが楽しみです。

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