【恋する歌舞伎】第2回:田舎少女VS都会のお嬢様!イケメンをめぐる三角関係

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日本の伝統芸能・歌舞伎。興味はあるけどちょっと難しそう、わかりづらそう…なんて思ってない? 実は歌舞伎は恋愛要素も豊富。だから女子が観たらドキドキするような内容もたくさん。そんな歌舞伎の世界に触れてもらおうと、歌舞伎演目を恋愛の観点でみるこの連載。古典ながら現代にも通じるラブストーリーということをわかりやすく伝えるために、イラストは現代風に超訳してお届け。

今回は『野崎村』をピックアップ!◆【1】優しい田舎娘が思い描く、花嫁という淡い夢


恋愛漫画やドラマでは頻出、現実世界でも陥りがちな男女の「三角関係」。実は歌舞伎でも三角関係が軸となる話は多数あるのだ。1人のいい男を、タイプの違う2人の女性が取り合うパターンは定番で、この『野崎村』もその1つ。

舞台はのどかな村の、とある家。主役であるお光(みつ)はこの村に住む、決して派手ではないけど心優しく、病気の母に代わり家事もこなす家族想いの優しい女の子。今日はそんなお光が待ちに待っていた、許嫁と祝言をあげる日! お相手の久松(ひさまつ)は、もともと武士の子だが、訳あってお光の家で一緒に育ってきた、兄妹のような、でもやっぱり異性として大切な存在。彼は10歳で丁稚奉公に出されたので、成長した久松とは久々の対面となる。大好きな人の花嫁となる、お光にとって今日は人生最高の日になるはずだった。

◆【2】突如ライバル出現!しかも美女、しかも妊娠


そんな中、突如不穏な空気が流れる。お光がいそいそと支度をしていると、自分と同い年くらいの、どこか垢抜けていて、不覚にも「美しい…」と呟いてしまうほどの美少女が「久松に会わせて」とやってきたのだ。嫉妬むき出しのお光は、どうにかして侵入を阻止するが、謎の美女はお光のいない隙に、久松の膝にすがり、想いの丈を語り出す。この娘、奉公先の油屋のお嬢様・お染(そめ)である。なんとお腹には久松との赤ちゃんがいると衝撃の告白も!

育ての親である久作にも申し訳が立たないし、奉公先にも顔向け出来ないと思い悩む久松。「もしあなたと結婚出来ないならこの剃刀で死ぬ」と思い詰めるお染。「君が死ぬなら僕も死ぬ」と、幼い二人は心中を決意する。

◆【3】説得する父を尻目にお光が出した決断とは


結婚式当日、式場にお腹に子を宿した美女が乗り込んできて冷静で居られる新婦はいないだろう。その家族もしかり。

様子を奥で聞いていたお光の父・久作は「これまでの義理も知らずに」とお夏清十郎の歌祭文(※)に例えながら、強い口調で二人に別れるよう諭す。どうしても可愛い娘を、愛する人と添わせてあげたいのだ。それを聞いて、久松はお光と結婚することを、お染も親が決めた相手と結婚することを宣言する。久作は安堵し、これで心置きなく娘を結婚させられると花嫁衣裳に身を包んだお光を呼び出す。しかしその綿帽子をとると…なんと剃髪をしたお光が! 一緒になれないなら、二人は心中をするに違いないと悟ったお光は、大好きな久松が死を選ばないよう、自分は身を引き、尼になる道を選んだのだ。

※大店の娘・お夏と手代・清十郎が駆け落ちするも捕えられる、という事件を元にした物語。歌祭文とはそれを三味線などの伴奏に、節をつけてうたったもの。

◆【4】幸せからどん底へ。それでも涙の数だけ強くなる


お染を追ってきた母の迎えもあり、お染は舟で、久松は駕籠で油屋へと帰ってゆく。大好きな人の花嫁となる最高の日が、一転して絶望の日に変わってしまった。にも関わらず、尼になったお光はそんな2人の姿が見えなくなるまで気丈にふるまい、送り出す。だが久松の影が見えなくなり、とうとう堪え切れなくなったお光は、久作にすがりつき1人の少女として泣くのだった。

美男美女の大恋愛は美しく、華々しい。だがちょっと視点を変えると、地味だけど、自分の身を呈しても想いつづける純粋な少女の犠牲の上に成り立っているともいえる。
このお話、もとはお染と久松を主軸に描いた長編だが、「野崎村の段」は田舎の乙女・お光にスポットが当たっている。歌舞伎ではこの段のみが繰り返し上演され人気となっていることからも、今も昔も、お光に共感する女性が多いといえるのかもしれない。
(監修・文/関亜弓 イラスト/カマタミワ)