◆ラグビーワールドカップ2015観戦ガイド(4)

 9月18日からイングランドで開催される「ラグビーワールドカップ(W杯)2015」は、前回覇者のニュージーランド代表や地元イングランド代表が優勝候補の筆頭に挙げられ、フィジカル大国・南アフリカ代表がそれに続いている。

 ただ、W杯開幕前にニュージーランド代表戦と南アフリカ代表戦で勝利し、一気に世界ランキング2位へと調子を上げてきたチームがある。「ワラビーズ」こと、オーストラリア代表だ。ワラビーズがW杯で優勝を遂げたのは、第2回大会の1991年と第4回大会の1999年大会。ひさしく頂点から遠ざかっているが、ともに優勝したのはイギリスを中心に開かれた大会だけに、今大会は縁起の良い場所とも言える。

 そのワラビーズの期待を一身に背負っているのが、「背番号15」のFB(フルバック)イズラエル・フォラウだ。今大会最大の注目選手として、世界中のラグビーファンの熱い視線を集めている。フォラウはトンガ系オーストラリア人で、愛称は「イジー」。身長193センチ・体重103キロの体躯を誇り、長い手足を生かしたプレーが持ち味だ。スピードがあり、ステップも鋭く、オフロードパス(タックルされながらも味方につなぐパス)も抜群にうまい。もちろん、ハイパントなど空中のボールにも滅法強く、現役最高のフットボーラーといっても過言ではない。

 スーパーラグビーでは過去3シーズン44試合で25トライを挙げ、2013年には所属するワラタスの初優勝に大きく貢献。また、オーストラリア代表でも33試合で18トライと、その決定力は群を抜いている。オーストラリアでは2年連続で年間最優秀賞に選出され、いまやワラビーズに欠かせないフルバックだ。ちなみに年間最優秀賞を2度受賞したのはオーストラリア史上3人目で、2年連続は初の快挙である。

 過去のW杯で2度の栄冠を勝ち取ったことがあるのは、オーストラリア代表、南アフリカ代表、ニュージーランド代表の3ヶ国。ワラビーズが前人未踏となる3度目の優勝を成し遂げるためには、このイジーの活躍が欠かせない。なお、フォラウはW杯後、日本のトップリーグのNTTドコモに加入することがすでに決定している。より一層、彼のW杯でのプレーぶりが楽しみでならない。

 フォラウは現在26歳。これほどの選手が、なぜもっと早くスターにならなかったのか? 実は、もともと彼は13人制ラグビー「ラグビーリーグ(※)」のスター選手だったのである。

※ラグビーリーグ=ラグビーという競技は、100年以上前の1895年のイングランドにて、選手の休業補償問題でアマチュア(当時)の15人制ラグビー(ラグビーユニオン)と、プロの13人制ラグビー(ラグビーリーグ)に別れた歴史がある。日本で「ラグビー」と呼ばれているのは、15人制の「ラグビーユニオン」のこと。

 15人制ラグビーとの違いを簡単に説明すると、13人制ラグビーは形式上のスクラムはあるものの、ラックやモールはなく、15人制よりもランとパスからのトライに特化している。また、タックルが6度成立すると、攻守が入れ替わるルールも存在する。そのため、個々のランや突破力、タックル力に優れた選手が多く、日本代表(エディー・ジャパン)の攻撃の戦術である「アタック・シェイプ」も、もともと13人制ラグビーで採用されていたものだ。

 2011年のW杯ニュージーランド大会を制したオールブラックスの優勝メンバーのひとりで、「最もセクシーなラグビー選手」と呼び声の高いCTB(センター)ソニー・ビル・ウィリアムズも、もともとは13人制のプロ選手だった。だが、自国開催のW杯のために15人制でプレーし、見事にオールブラックスの優勝に貢献したのである。その後、彼は日本のパナソニックでプレーし、再び13人制に戻ったあと、また今回のW杯の前にオールブラックスに戻ってきた。そして今回のW杯後は7人制ラグビーに挑戦し、リオデジャネイロ五輪で金メダルを狙うという。フォラウ同様、力強いランと強烈なタックル、そして彼の代名詞となっている「オフロードパス」が武器だ。

 また、今大会のイングランド代表に選ばれたCTBサム・バージェスも、13人制で活躍した後、昨年15人制に転向して今年8月に代表デビューを果たした選手である。所属チームではFL(フランカー)として出場した経験もあるように、強烈なタックルと突破力が武器だ。イングランド代表の優勝のカギを握っているのは、この男なのかもしれない。

 そして実は、日本代表にもラグビーリーグ出身の選手がいる。エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチが「日本代表の生命線」と高く評価をする、イケメンCTBのクレイグ・ウィング(神戸製鋼)だ。

 日本代表のBK陣では最年長となる35歳だが、もともとは13人制ラグビーのオーストラリア代表「カンガルーズ」で活躍したトップ選手だった。身長180センチと高くないものの、鍛え上げられた肉体から繰り出すタックルは強烈。13人制と15人制の両方を知るウィングはこう語る。

「ラグビーリーグでは多くのビッグマッチに出て、どの試合も一発勝負だった。だが、W杯はそれと同じような重みがある」

 フォラウ、ウィリアムズ、バージェス、そしてウィングと、彼らはそれぞれ所属する代表チームで流れを変えることのできる選手たちだ。13人制ラグビーで鍛えられた強烈なタックルと、縦に切り込むような激しいランに注目してもらいたい。

斉藤健仁●取材・文 text by Saito Kenji