ガンバ大阪が、四冠(Jリーグ、ナビスコカップ、天皇杯、ACL)奪取に向けて、いよいよ本気モードに突入した。

 Jリーグでは、セカンドステージ首位の鹿島アントラーズと第10節(9月12日)で対戦。宇佐美貴史の2ゴールで2−1と勝利を飾った。これで、リーグ戦は3連勝。鹿島(勝ち点22)に代わって首位に立ったサンフレッチェ広島(勝ち点24)とは、勝ち点6差の5位に浮上した。年間勝ち点でも4位(勝ち点50)と、トップの広島、浦和レッズ(勝ち点58)とは、勝ち点8差で、年間勝ち点1位の座も視野に入ってきた。

 鹿島戦は、ガンバにとっては、リーグ戦の単なる1試合ではなく、極めて重要な一戦だった。MF遠藤保仁が語る。

「昨季も、鹿島(第27節/3−2)に勝って勢いに乗れた。あの試合が、三冠達成へのターニングポイントとなった。今季も、その可能性が十分にある」

 ガンバの選手たちは、誰もがそのことを認識していた。そして、それだけ強い思いを持って挑んだ一戦だった。そこで、「さすがエース」という活躍を見せたのが、宇佐美だった。

 宇佐美はこの鹿島戦まで、ガンバでの試合はもちろん、日本代表の試合も合わせて、実に48日間、出場10試合ゴールがなかった。代表で2列目の左サイドを任されることが多い宇佐美は、ガンバでも左サイドのポジションを務めるようになったが、FWの位置からゴールが遠ざかった分、必然的に得点数が減り、プレーにも迷いが生じていた。

 9月のW杯アジア予選に臨んだ日本代表でも、宇佐美は「点をとってやる!」という気持ちが強過ぎて、空回りした。香川真司をはじめ、本田圭佑、岡崎慎司ら海外組がしっかりとゴールを決める一方で、うまく結果をモノにできない自分に悔しさをにじませた。

「海外組は、しっかり(ゴールを)決めている。その差を埋めて、精度を高めないと(代表で)生き残れない」

 だが、この鹿島戦では、まるで呪縛から解き放たれたように、積極的なプレーを見せた。1点目は、FWパトリックとのワンツーからドリブルで仕掛けて、相手DFのチェックを冷静にかわして、ファインゴールをゲット。2点目は、再びパトリックから受けたボールを右サイドから切れ込んで決めた。

「1点目は、個の力で決められたゴール。2点目は、仕掛け直した末の(相手DFに当たっての)ラッキーな形だった。でも、それがゴールにつながってよかった。(この2得点には)すごく手応えを感じています。自分らしい突破で決められたゴール、アイデアを重ねてきた中で生まれたゴールと、これからにつながるゴールだったと思います」

 サイドのプレーに悩み苦しみ、ミスを繰り返してきた宇佐美。だが、ついに"エース"が長いトンネルから抜け出した。これは、ガンバにとって、極めて大きな意味を持つ。

 一昨年は、宇佐美がドイツのホッフェンハイムからJ2で戦うチームに復帰。後半戦18試合の出場ながら、19得点を記録して、ガンバのJ1昇格に貢献した。昨季も、負傷から復帰した宇佐美の活躍があったからこそ、ガンバは三冠達成を実現できた。今季も、四冠という大きな目標を成し遂げるには、宇佐美の活躍が絶対に不可欠となる。

 その宇佐美が、完全復活をアピール。しかも、サイドにポジションを取りながら、高い個人技と瞬時の判断でゴールまでの道筋をきちんと描き始めている。FWだけでなく、サイドでのプレーを自分のモノにしつつある宇佐美は、プレーヤーとしての"恐さ"が倍増したと言っても過言ではない。ゴール感覚を取り戻し、またひとつ成長した"エース"の復調は、今後あらゆるタイトル獲得に向けて、ガンバに勢いと勇気をもたらすだろう。

 そして鹿島戦後、遠藤はこう語った。

「この勝ちの意味は、大きい」

 昨季も鹿島戦をきっかけにして、ガンバはリーグ戦での奇跡的な逆転優勝を遂げ、ナビスコカップ、天皇杯を含めて三冠を達成。JリーグのMVPに輝いたキャプテンは、今季はそれにもうひとつタイトルをプラスした四冠達成を思い描いているのだ。

 実際にガンバは、Jリーグチャンピオンシップ進出(各ステージ優勝か、年間勝ち点3位以内)をはじめ、ナビスコカップ(準決勝)、天皇杯(4回戦)、そしてACL(準々決勝)と、すべてのタイトル奪取、つまり四冠の可能性を残している。ゆえに、遠藤はこう言い切った。

「昨季、鹿島に勝って勢いに乗り、ナビスコカップ決勝で広島に0−2から逆転勝ち。それから一気に、リーグ戦、天皇杯と獲れた。今回も、そういう雰囲気があるし、チームのムードもいい。しかも昨年、一度すべてを勝ち獲った経験をしているんで、『さぁ、これからだ』という感じで、変な力みがない。(今季もタイトルを)全部、獲るよ」

 確かにチームのムードは、非常にいい。宇佐美がゴールを決めたあと、彼はベンチの長谷川健太監督のもとに走って、喜びを分かち合っていた。信頼してくれる「監督のために」という宇佐美の気持ちの表れでもあるが、ベンチを含めてチーム全体が"ひとつになる"というムードができつつある。

 また、今季のガンバは、宇佐美に加えて、GK東口順昭、DF丹羽大輝、DF米倉恒貴、DF藤春廣輝、MF倉田秋らが、日本代表に招集された。遠藤は言う。

「代表を経験することで意識が高くなり、プレーの質も上がる。代表は選手として成長できるチャンス」

 かつては遠藤と今野泰幸しか知り得なかった代表の"空気"を、今やガンバの多くの選手が実際に味わってきた。その結果、彼ら代表選手の意識は確実に高まり、個々の能力も上がっている。彼らが昨季との"違い"を見せることができれば、それはそのままアドバンテージになる。

 すでに、遠藤はその手応えを感じている。

「今季は失点が多かったけど、(セカンドステージ第8節の)清水エスパルス戦(1−0)で修正することができた。そういうことを、自分たちでやれるようになってきたのは大きい。他人任せではなく、自分たちで考えてやる――(ガンバが)ひとつ、大人のチームになってきた感がある」

 では、遠藤は今後、リーグ戦のヤマをどこととらえているのか。

「10月の浦和戦(セカンドステージ第14節)でしょ。そこまで勝ち続けて浦和と当たれば、相手にプレッシャーを与えることができる。ホームで戦えるし、そこまで負けないでいくことが、自分らが(リーグ戦で)優勝するための条件になる」

 だが、これからのガンバにはハードスケジュールが待ち受けている。ACL、ナビスコカップ、天皇杯と、リーグ戦とともに立て続けにこなしていかなければならない。もちろん、今季最大のターゲットであるACLを勝ち抜いて、最初にファイナルがあるナビスコカップ(決勝は10月31日)を制すれば、昨年同様、その勢いで芋づる式にタイトルを手に入れる可能性もある。

 遠藤とともに、攻守の要を担う今野が言う。

「これからは、本当に強いチームが勝っていくと思うし、本当のチーム力が試される。そういう意味では、自分たちは昨季、すべてを勝った経験がある。さらに、ガンバにはたくさんの代表選手がいて、経験豊富なヤットさん(遠藤)もいる。厳しい戦いになればなるほど、その経験が生きてくる。選手の質では(Jリーグで)一番だと思うし、モチベーションも高い。みんなが力を発揮すれば、四冠獲れると思う」

 難敵・鹿島を打ち破り、主役が立ち直って、脇を固める選手たちの力も上がってきた。昨季に続いて、ガンバ大阪の"大逆転のドラマ"が、これから始まる。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun