U18アジアチャンピオンズトロフィーで対戦したPVFと鹿島【写真:宇佐美淳】

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国内屈指のサッカーアカデミーを持つベトテル

 サッカーの発展を目指すベトナムは、徹底したエリート育成に取り組んでいる。欧州ビッグクラブとも提携し、全寮制でトレーニングに励むジュニア世代では、すでにJクラブを圧倒。その育成事情を現地在住記者が追う。

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 今夏もU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジが開催され、まだ幼さの残るベトナムの少年らがJクラブやバルセロナ、エスパニョールといったスペインの名門下部組織を相手に好勝負を演じた。結果は、鹿島や東京V、大宮らJクラブ勢を打ち破ってのベスト4。今大会を通じて最大のサプライズだったに違いない。

 ベトナムサッカー界はこの7、8年、若い人材の育成に注力しており、各クラブのアカデミーが全国から優秀な児童を選抜して英才教育を行っている。今回のU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジに出場したチームもその一つ。今大会では、U-12ベトナム代表という登録名だったが、実際にはベトテル(ベトナム軍隊通信グループ)傘下の下部組織だ。

 ベトテルは、国内屈指のサッカーアカデミーを持つことで知られる。その歴史はいささか複雑だ。前身は、テーコン(軍隊サッカークラブ)という名で親しまれた国民的クラブ。ベトナム北部選手権優勝13回、ベトナムリーグ優勝5回を数える名門だったが、2009年に国防省が同クラブの改称を決定し、通信最大手の国営企業ベトテルの傘下となった。

 それから間もなく、トップチームが買収され、タインホアFC(現FLCタインホア)となり、2010年にはセカンドチームも買収され、現在のハノイT&Tとなった。

 消滅の危機にあったベトテルだったが、アカデミーは地道な活動を続け、ユース年代の国内大会で、次々と好成績を残してクラブを再生させた。ベトテルのトップチームは今季の3部で優勝しており、来季の2部(Vリーグ2)昇格を決めている。

 アカデミー出身者の中で、特に評価が高いのは、「黄金世代(昨年のU-19代表)」で守備の要として活躍したCBブイ・ティエン・ズンだ。今季はVリーグ1のホアン・アイン・ザライ(HAGL)にレンタル移籍してレギュラーを奪取。ベトナム代表の三浦俊也監督からも絶大な信頼を得ており、U-23代表やA代表でも定位置を獲得している。

ベトナム不動産開発最大手が設立するアカデミーも

 強豪アカデミーは、ベトテルだけではない。前述のHAGLの下部組織であるHAGLアーセナルJMGは、その名の通り、英アーセナルおよび仏JMGアカデミーと提携しており、ヨーロッパから指導者を招いて徹底したエリート育成に取り組んでいる。

「ベトナムのメッシ」ことFWグエン・コン・フオンやMFグエン・トゥアン・アインなど、「黄金世代」と称されたU-19代表の実に7割がこの下部組織出身だったことが、同アカデミーの成功を物語っている。同アカデミーは今年、ホーチミン校を開校。ここでは、元名古屋グランパスのフランク・デュリックス氏が総監督として指導にあたっている。

 そして、今後のベトナムサッカー界に新たな風を吹き込むであろうPVF(ベトナムサッカー選手才能開発投資ファンド)の存在も忘れてはいけない。今年のU-19代表には最多の9人を送り込んでいる。このアカデミーは、ベトナムの不動産開発最大手ビングループが設立したもので、国内随一の潤沢な資金力を誇る。

 頻繁に海外遠征を行っており、特に日本とは関係が深い。今年は、JリーグU-16チャレンジリーグと堺ユースサッカーフェスティバルに出場し、Jの下部組織や強豪校と互角の戦いを繰り広げた。最近の報道では、ガンバ大阪との提携も噂されており、ガンバは今年8月にPVFの施設でキャンプを行っている。

課題はフィジカル。英才教育で改善なるか

 このほかにも、「ベトナムの英雄」レ・コン・ビンを筆頭にベトナム代表選手を多数輩出しているサッカー王国ゲアン省を本拠地とするソンラム・ゲアン(SLNA)やSHBダナンも優秀なアカデミーを持ち、アンダー世代の国内大会では常に上位に食い込んでいる。

 全寮制の英才教育により、サッカー漬けになるベトナムのジュニア年代は、アジアの強豪国とも互角以上に戦えるが、やはり課題はフィジカルに差が出てくるユース年代以降だろう。

 PVFがジュニア年代のJクラブと対戦した時は、ボールを支配して圧倒出来たのに対し、ユース年代だと防戦一方になることからも、この数年間でベトナムと日本の力関係が逆転していることが分かる。

 戦術面では、ジュニア年代からユース年代、プロに至るまで基本的にロングボール主体のサッカーをしているクラブが多く、こちらも更なる改善が必要だ。こうした問題を打開すべく、ベトナムの各クラブは、アーセナル、マンチェスター・シティ、ドルトムント、リヨンといった欧州の強豪クラブとの協力関係を築き、若手育成と共に指導者育成にも注力している。

 ベトナムから世界に羽ばたく選手が現れるのも遠い未来のことではないだろう。

text by 宇佐美淳