遥かなるツール・ド・フランス 〜片山右京とTeamUKYOの挑戦〜
【連載・第74回】

 シマノレーシングのエースとしてチームを牽引してきた畑中雄介は今オフ、新天地としてTeamUKYOを選んだ。その移籍のキッカケのひとつとなったのが、2歳年上の土井雪広の存在だ。チームメイトとなった今シーズン、畑中は土井に対してどのような思いを抱いているのか。

 畑中勇介は、この6月に30歳になった。この「30」という年齢について、「年は取りたくないんですよね」と、笑いながら話す。だが、その理由は、体力が衰えていくからではない。

「やっぱりそれだけ、ヨーロッパに行くチャンスがどんどん減っていくから」なのだという。

 自転車ロードレースは、純粋に体力や筋力の強さや速さを競う競技ではない。レース戦略の駆け引き、体力のピークを調整するコンディショニングの知識など、精神の強さや経験が大きく結果を左右するという側面が強い。もちろん選手のタイプにもよるが、心身ともに充実した状態で競技活動の頂点を迎えるのは、20代半ば以降から30歳過ぎあたりまで、という印象もある。

「ピーキングの調整や、いらないストレスの捨て方、何かのバランスが崩れたときのフォローや回復も、年齢とともにうまく対応できるようになってきたと思います」と畑中はいう。

 さらに、選手活動を続けるうえで精神的な支えになっていることのひとつが、高校を卒業してすぐに欧州でレースを戦ってきたという経験だ。

「僕は土井さんたちと違って、最初からプロとしてヨーロッパに行ったわけじゃない。あくまで、アマチュアだったんです。自分の周りにいた同じような若手選手たちが、それこそ10人にひとりもいないけれども、何人かがプロになっていく姿を目の前で見てきた。それは、今の自分にとって非常に大きい経験になったと思います。

 18歳のころに一緒に走って戦っていた選手たちがツール・ド・フランスでステージ優勝をしたり、活躍している姿をテレビで見ると、もちろん悔しく感じることもあります。でもその反面では、自分もまだ走れていると思うし、彼らの活躍は、『ヨーロッパのレースをいつかもう一度走りたい』という自分に対する刺激にもなります。30歳を超えてステージ優勝しているワールドツアーの選手もたくさんいるんだから、最高峰を自分が走れるかどうかはともかくとしても、まだまだ現役として上を目指して走り続けることはできると思う」

 畑中は年齢面でも、チームの司令塔である土井雪広と若手選手のちょうど中間的な立場に位置している。自転車ロードレースの本場欧州で長年戦ってきた土井は、若い選手たちがたくさんのことを学ぶべき存在だが、それは畑中にとっても同様だ。

「土井さんの存在は、いろんな意味で大きい」と素直に認める。

「どの世界にも、ああいう先輩がいますよね。選手として強いのはもちろん、たくさんの経験もある。ただそれだけに、土井さんが先に行ってしまって、それを皆が後ろから必死になって追いかけていくような感じになることもある。だから、そこは僕が両方の間に入って橋渡しをしたり、土井さんがあまり説明をしないようなことでも、僕がかみ砕いて若手にわかりやすく説明してあげる、という役割はうまく果たせているかな。僕自身、シマノ時代には長くキャプテンを務めてきたので、ちょうどいいバランスをとれていると思います」

 その畑中が若手選手たちに望むのは、もう少しプロフェッショナルとして自らの成長に貪欲になってほしい、ということだ。

「自分が若かった当時を思い出すと、僕は(自転車競技の強豪校である)鹿屋体育大学の選手に負けたくなかったんです。彼らに負けちゃいけないと思ったから、高校を卒業して4日後にはフランスに行ったし、『オレはフランスに行ったぞ』みたいな、訳のわからないガムシャラな自負心もあった。

 あの時代はインターネットもまだそれほど普及してなくて、情報もあまりないころだったので、『行かなきゃダメだぞ』と言われたら、『行かなきゃダメなんだ!?』と思って素直に行っちゃいました。それが正解だったか間違いだったかはわからないけど、でも、後悔はしていない。あの感覚って、今の若い選手たちも持っているんだろうか......。あの当時とは環境も変わって、選択肢も広がっている反面、(ガムシャラさは)ちょっと減っているかもしれないですね。

 でも、今後の自分というものに対して本当に目標を持っているのならば、それを口に出してそこに向かって努力をしなきゃいけない。だって、プロなんだから。そのモチベーションに、まだ甘い部分があるかもしれませんね」

 自分自身の目標については、今季のJプロツアーの個人タイトルを獲ること、と明言する。

「簡単ではないし、厳しいけれども、もちろん個人総合は狙っていきます」

 9月6日のJプロツアー第16戦を終えて、畑中は第2位の増田成幸(宇都宮ブリッツェン)に719ポイント差をつけ、ランキング首位の座を維持している。

(次回に続く)

西村章●構成・文 text by Nishimura Akira