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【石原壮一郎の名言に訊け】〜ニーチェの巻

Q:不幸って、まとめてやってくるんですね。学生時代からの付き合いの友達が、会社をいきなりリストラされました。それだけでも気の毒なのに、ほぼ同時に奥さんが不倫していることが発覚。ゴタゴタした末に、結局は離婚してしまいました。当然、激しく落ち込んでいて、かわいそうで見ちゃいられません。そんな友達を強烈に励ますことができる名言はないでしょうか。(山形県・32歳・自営業)

A:あらら、それはお気の毒ですね。って、ご本人を存じ上げない私がそんなこと言うのも何ですけど。今日もヒマな喫茶「いしはら」のカウンターにいるのは、謎めいた雰囲気で町内の殿方の好奇心を刺激しているマキさん。いつものように、難しそうな本を読んでらっしゃいます。スマートで体重が軽そうで、通称カルメのマキ。いつもながらのアンニュイな雰囲気ですけど、この相談、どう思いますか?

 時には、しょーふの♪ あっ、間違えた。こっちじゃなかったわね。さて、オチャメな一面も見せたところで、いきなりキツイ言い方していいかしら。友達を励ましたいと思うのはけっこうだけど、名言に頼ろうとするのはどうなのかな。いいこと言って、友達が感激して、あなたの手を取って「お前はやっぱり本当の友達だ」とか言ってほしいわけ?

 そりゃ、たくさんあるわよ。励ますときに使えそうな名言。「失敗したからって何なのだ?失敗から学びを得て、また挑戦すればいいじゃないか」(ウォルト・ディズニー)とか、「下を向いていたら、虹を見つけることは出来ないよ」(チャールズ・チャップリン)とかね。だけどさあ、自分が落ち込んでいるときに、友達からこんな言葉を言われて嬉しい? たぶん不愉快だと思うんだよね。人の不幸をネタに自分に酔ってるのが見え見えでさ。

 ごめんなさいね。あなたが本気で友達のことを心配して「何とかしてあげたい!」と思っているのは、よくわかるの。だからこそ、うっかり善意の押し付けをしちゃうんじゃなくて、まずは友達のことを考えてあげてほしいの。あなたには、ニーチェのこの言葉を贈るわ。

「あなたの友が、同情を欲しているかどうかをまずわかっていなければならない。友があなたにおいて愛しているのは、非常の眼と、永遠に澄んだまなざしかもしれない」

 ニーチェは「同情を表示するのは軽蔑のしるしと感じられる」とも言ってるわ。どん底の状態にある友達は、あなたに何を望んでいると思う? きっと同情じゃないわね。かといって励ましでもない。そうねえ、しても嫌がられないのは、共感かしら。

 そうそう、ニーチェの言葉にはこんなのもあるわよ。「笑いとは、地球上でいちばん苦しんでいる動物が発明したものである」。いちばん苦しんでいる動物っていうのは、言うまでもないけど人間のことね。焦りや無理は禁物だけど、その友達が少しでも笑えるように、自分に何ができるかを考えてみるのもいいんじゃない。名言なんかに頼らなくても、あなたがこうして気にかけていることは、きっと本人にとってたのもしい支えになると思うわ。

◆【今回の大人メソッド】励ましや慰めは、自分のためにやってしまいがち

 友達にせよ家族にせよ、心配するというのは尊くて正しい行為です。しかし、そういうときほど、独善的な発想や押しつけがましい態度が顔を出してしまいがち。誰かを励ましたり慰めたりするときは、自分のためにやっていないかを厳しく疑うのが大人の用心深さです。ま、どんな動機だったにせよ、相手にとって励ましや慰めが必要な場合はよくありますが。

【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。

いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)