ブレーズ・マテュイディ【写真:Getty Images】

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サンテティエンヌでは松井大輔ともプレー

 数多くの名選手を輩出してきたフランスサッカー界において、現在最も注目を集めているのがパリ・サンジェルマンのブレーズ・マテュイディだ。プラティニやジダンのような“ファンタジスタ”ではないが、驚異的なスタミナでピッチを駆け回るスタイルはチームに大きな影響力を持つ。

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 フランスで今注目ナンバー1の選手といえば間違いなくこの男、ブレーズ・マテュイディだ。

 PSGでは絶対的なレギュラーメンバーであり、今季は開幕後の4試合で2得点2アシストを記録。フランス代表でもデシャン監督の中核メンバーの一角をなし、先日の国際マッチデーでも2-1で勝利したセルビア戦の得点は2点とも彼が挙げたものだ。

 現在フランスメディアは彼の話題で持ち切り。まさに「時の男」である。

 生まれはトゥールーズだが、育成所に通ったのはシャンペンの産地で知られるフランス東部シャンパーニュ地方のトロワ。当時2部リーグにいたクラブで17歳でプロデビューし、翌年はトップリーグに昇格したチームでレギュラーとしてプレーした。

 彼の存在を知ったのは、そのトロワ時代だ。当時松井大輔が所属していたルマンとトロワが対戦したとき、「ダイ」と呼ばれていた松井の「MATSUI DAI」とマテュイディの「MATUIDI」がサウンド的にもソックリで真っ先に目がいったのだが、実際試合が始まるとティーンエイジャーとは思えないマテュイディの存在感、なによりその細めの体躯からは想像できない機動力に圧倒された。

 ビッグクラブがこの将来有望株を放っておくはずがなく、サンテティエンヌに引き抜かれると、奇遇にも1シーズン松井とチームメイトとして共にプレーしている。

 サンテティエンヌでも不動のスタメンの座を築くと2010年8月、フランスA代表デビューのチャンスが訪れた。彼を招集したのは、現在PSGで指揮をとるローラン・ブランだ。

アンチェロッティ監督のもとで大きな成長遂げる

 2012年からはディディエ・デシャンが引き継いだが、そこでもマテュイディはデシャンの懐刀の一員として毎試合重要な役割を担っている。

 PSG入りしたのは、カタール陣営が経営に参画し『ビッグクラブ化計画』がスタートした初年度。つまり彼は、新生PSGの立ち上げメンバーだった。

 海外のビッグネーム獲得を画策していたPSGにおいて、マテュイディは自国フランス人選手の象徴であり、未来のスター候補である彼を手元に置くことは、フランスクラブの面子を保つ上でもとても重要な意味があった。

 当時を振り返って、先日のレキップ紙とのインタビューでマテュイディはこんな風に語っている。

「トレーニング場にいったら、ビッグな選手ばかりで少しビビった。でも自分がここにいるのなら、それは意味があるからだと思うようにした。そして自分に与えられたこのチャンスを最大に活かさなくちゃいけない、と誓った」

 マテュイディの成長に大きく影響を与えた人物といえば、2011-12シーズンの冬に監督に就任したカルロ・アンチェロッティだろう。

 彼は就任直後から自分の求めるチーム構築においてマテュイディは不可欠なメンバーであると語り、相手からのボール奪取からの攻撃展開というプレーロールを徹底して仕込んだ。

 アンチェロッティがフルで指揮をとった翌シーズン、マテュイディは全コンペティションあわせてこれまでにはありえなかった8ゴールという得点を挙げているが、オフェンス時には思い切って前線にあがり、ときにはゴール前まで詰めるといったプレーの幅を与えられたことが大きな要因だ。

フランス代表においても重要な選手に

 そして、代表でのデシャン監督の存在も大きい。PSGと同様、中盤にソリッドな3人のMFを置くシステムを好むデシャン監督の戦略において、攻守の切替えを担うのがマテュイディであり、その後の攻撃展開に勢いをつける重要な役割を与えられている。

 代表での彼のプレーで印象的なのは、2012年10月のW杯予選の対スペイン戦だ。敵地のマドリードで戦ったこの一戦、前半の25分に得点を挙げたスペインは後半には力をコントロールしながら“クルーズ”していた。

 しかしその後半戦、ひときわギアを上げて馬車馬のようにピッチを走り回っていたのがマテュイディだった。彼のエネルギッシュなプレーは、チームメイトの戦気をも盛り上げた。バックラインから相手ゴールのゴールライン付近まで、マテュイディの姿はピッチ上のあらゆるエリアを駆け巡った。

 そうして諦めずにチーム一丸となってゴールを追い求めた結果、アディショナルタイムにジルーの得点が生まれ、フランスは貴重な敵地でのドローという結果を引き出したのだが、デシャン監督が試合後の会見でマテュイディを称賛したのは当然といえる傑出したパフォーマンスだった。

 現在のPSGでもアンカー役のモッタ、起点のパスを出せるパッサー、ベラッティ、そして駆動系のマテュイディが形成する中盤の三角形はチームの心臓部と言っていい。

 1試合平均のパスの数はモッタ、ベラッティの100本超に比べてマテュイディは60本程度と差があるが、その分動きのエリアが格段に広い。

決して諦めることなく挑み続ける「戦士」のスピリッツ

 今季、序盤から好調である理由についてマテュイディ本人は「センターライン付近に留まってプレーすることを意識していた昨シーズンまでよりも、もっとサイドや敵陣に思い切って踏み込むプレーをしている」と語っている。

 90分間まったく落ちないスタミナを武器にするマテュイディだからこそ可能なユビキタスなプレーだ。

 指揮官にとって、劣勢の場面であっても「こいつがいてくれれば何とかなる」と思わせる選手というのが必ずチームに1人か2人いるものだが、アンチェロッティ、デシャン、ブランにとってマテュイディはそんな選手だ。

 トロワの育成所に通っていた10代の頃に知り合ったガールフレンドとの間に3人に子供をもつ父親でもあるマテュイディは、現在リーグ1所属のフランス人選手ではナンバー1、NBAのスター、トニー・パーカーら他競技を含めたフランス人アスリート年収番付でも10傑に入る高給とりだが、それは彼自身の力が可能にした報酬だ。

 ピッチ上でのパフォーマンスだけでなく、決して諦めることなく挑み続ける「戦士」のスピリッツをもつマテュイディは、チームの士気をマインドリーダーでもある。

 28歳と、キャリアのピークにある。今季、マテュイディは観る者を驚かせるパフォーマンスを見せてくれそうだ。

text by 小川由紀子