期待の効果が得られるのか? Kzenon/PIXTA(ピクスタ)

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 「EMS」とは「Electrical Muscle Stimulation」の頭文字で、筋肉を電気刺激によって収縮させる運動器具だ。一時は、テレビショッピングや雑誌で紹介されてブームとなった。「装着するだけで驚きの筋トレ効果とダイエット効果!」などの誇大な宣伝文句も、人気を集めた理由の一つだろう。

 今も売れ続けている"ロングセラー商品"。元々は病気やケガ、高齢などで体を動かせない人のリハビリ用、スポーツ選手の筋肉強化用として開発されたものだ。

 ヒトは脳から「筋肉を動かす」という命令を発して神経を通じ、電気信号として筋肉に伝わる。そして、筋肉が命令に応じて収縮することで、意識した運動が起きる。

EMSでは高負荷での筋力の収縮は行えない?

 EMSの場合、脳からの「命令」をスキップする。電極を貼り付けた皮膚から、ダイレクトに電流を神経に流すことで筋肉を収縮させるのだ。

 通常の筋力トレーニングでは自分の意志で筋肉を収縮させるので、力の入れ加減や強度を調節できる。最大筋力に近い力を発揮し続けた場合、体は疲労してそれ以上の力を出せなくなる。だから、限界をはるかに超えて筋肉が収縮してしまう危険性はほとんどない。

 ところが、EMSは人工的な電流によって筋肉を収縮させるので、安全性を確保するには、電流の強さを抑える必要がある。そのため、ウエイトトレーニングのような高負荷での筋力の収縮は行えないと考えられるのだ。

 また、皮膚表面に電極を当てるという仕組みの特性上、"運動させる筋肉"は範囲が限られる。さらに、脳から命令を出さないため、脳、神経、筋肉の連携がない。筋肉を強く収縮させたり、抑えたり、筋肉をコントロールする力は身に付かないだろう。

 EMSでは、いわゆる「トレーニングの原理原則」に基づく効果は期待できないと思われる。つまり、筋力トレーニングで獲得できる筋肥大や代謝アップの効果も、さほど期待はできない。

ならばEMS は買って損なのか?

 しかし、逆に考えたらEMSを利用すると、自分の意思ではうまくコントロールしにくい筋肉にも効果的な刺激を与えられるということも考えられる。たとえば、意識して胸の筋肉を収縮させるのが苦手な人は、そこに電極を当てみると筋肉が収縮している感覚を身につけることができるだろう。

 トップアスリートのなかにも、EMSを使った筋肉への刺激をトレーニングの一環として応用している人はいるようだ。使い方に次第では、運動能力(パフォーマンス)向上に寄与できるかもしれない。

筋トレと同じ効果をもたらす万能薬はない

 ほかに喧伝されているのは、EMSの「ダイエット効果」。EMSでも、筋運動をしていることには変わりはない。筋収縮によって、エネルギーはある程度消費されるが、時間あたりの運動量はさほど多くない。それだけで痩せるのは難しい。

 エステサロンなどの「部分痩せ」に用いられることもあるそうだが、"劇的な効果"を実感したという人が、あなたの身近にいるだろうか? 市販されているEMSは価格も性能もピンからキリまである。しかも購入後に使う「消耗品のパッドやクリームなどが高価」という声も聞こえてくる。

 結論としては、いずれにしても、筋力トレーニングと同様の効果をもたらす万能薬はない。コツコツと自己管理を続けながら、継続した運動を心掛けるほかない。EMSを一つのツール、道具として割り切って使うのも決して間違いではないと思う。

村上勇(むらかみ・いさむ)
フィットネスアドバイザー。JT東京男子バレーボール選手を引退後、現・スポーツクラブ「ルネサンス」に勤務。2007年から「メディカルフィットネス+スパ ラ・ヴィータ」のゼネラルマネージャーとして施設運営に携わる一方、トレーナーとして主婦や高齢者、アスリート(サッカーチーム・モンテディオ山形、加藤条冶:スピードスケート、黒田吉隆:レーシングドライバー)、著名人(指揮者・飯森範親など)を幅広く指導。現在は株式会社ドリームゲート代表として、スポーツチーム・アスリート・企業などを指導、運営協力に携わる。