◆ラグビーワールドカップ2015観戦ガイド(2)

 エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)率いる日本代表は、「アジアの雄」として8回目のラグビーワールドカップ(W杯)に挑む。しかしながら、過去のW杯通算成績は1勝2分21敗。前回大会は「オールブラックスの伝説的WTB(ウイング)」ジョン・カーワン体制で挑んだが、1勝すら挙げられずに1分3敗で予選プール敗退となってしまった。

 4年後の2019年には、W杯の日本開催が決まっている。そのためにも、次期開催国の日本は世界相手に戦えるだけの実力をW杯で示さなければならない。それを実現すべく白羽の矢が立ったのが、オーストラリア人の名将エディー・ジョーンズだ。

 ジョーンズHCは1996年、東海大でプロのコーチとしてのキャリアをスタートさせた。1997年にはオーストラリアのブランビーズでスーパーラグビー初優勝を成し遂げ、2003年のW杯では母国を率いて準優勝。さらに2007年のW杯では、南アフリカ代表のアドバイザーとして優勝に貢献した。その後、戻ってきた日本ではサントリーサンゴリアスを2冠(トップリーグ&日本選手権)に導いている。

 まさしく、世界も日本も知る名将だ。日本ラグビー界にとっては「切り札」とも言える指揮官だろう。ただ残念ながら今大会前に、W杯限りで日本代表のヘッドコーチを辞任することが発表された。W杯の1年前から、「すべてはW杯のための準備」という言葉を繰り返してきたジョーンズHC。ついに迎える本番を前に、「エディー・ジャパン」の3年5ヶ月を振り返っておきたい。

 まず、エディー・ジャパンの戦績を見てみよう。これまで計53試合を戦い、31勝1分21敗(非テストマッチ9敗も含む)という結果を残している。この31勝のなかには、初めてアウェーで欧州のチームに勝った試合(2012年11月・ルーマニア代表戦)や、初めて勝利したウェールズ代表戦(2013年6月)やイタリア代表戦(2014年6月)も含まれている。また、テストマッチ11連勝や、初の世界ランキング9位など、数々の歴史を塗り替えてきた。

 そんなジョーンズHCの最大の功績といえば、パスとランを組み合わせた「アタッキングラグビー」を信条とし、世界の強豪と対等に戦えるベースを作ったことだろう。

 2012年4月にスタートした「エディー・ジャパン」の最初の練習は、フィットネスとスクラムだった。FL(フランカー)リーチ マイケル主将は前回大会の経験から、「フィットネスは日本が世界で一番と言われていたけど、そうじゃなかった」と語る。だが今では、「今回は大丈夫」ときっぱりと断言し、疲れの溜まっている今大会直前でも、グラウンドを何往復もするフィットネストレーニングを行なっている。

「アタッキングラグビーをするには、スクラムとラインアウトの成功率は9割が必要」
「セットプレーから、3次〜4次攻撃でトライを獲るのが理想」

 もともとHO(フッカー)だったジョーンズHCは、セットプレーを重要視し、就任当初から力を入れてきた。「フランス代表は身体は小さくても強いスクラムを組んでいる」と思うやいなや、2012年の秋からは元フランス代表HOのマルク・ダルマゾをスクラムコーチとして招聘。その結果、今では8人で低く組むスクラムは日本の武器のひとつとなった。

 また、ラインアウトの強化では、2012年5月から元イングランド代表主将のスティーブ・ボーズウィックを招いている(引退後の2014年6月から正式なコーチに就任)。ジョーンズHCは自らを「戦術コーチ」と名乗り、年齢や国籍を問わず、自分より優れた経験や知識を持つ人にはコーチとして他の分野を積極的に任せてきた。

 もちろん、ラグビーの原点である「フィジカル」の強化も怠ってはいない。いくらパスやランを駆使しても、ラグビーという競技の性質上、コンタクトを避けることはできないからだ。

 この分野は、オーストラリア代表やサントリーでジョーンズHCとともに戦ってきた盟友――ジョン・プライヤーが担当した。そして、じっくりと3年5ヶ月をかけて、日本代表選手の筋力アップに努めてきたのである。早朝5〜6時からの練習は当たり前、飛行機で移動する当日に3部練習を行なった日もあったほどだ。さらに今年に入ると、FW陣にはグラウンド練習の前に必ず筋肉トレーニングを行なうように指示している。

 身体を大きくするのと同時に、身体の使い方についての指導には総合格闘家の高阪剛を招いたり、スピードトレーニングの分野で世界的権威のコーチも呼んだ。これらの強化を見るとおり、フィットネスがあり、強く、大きく、速くプレーできれば、最後まで強豪相手でも戦えるようになると考えたからだ。

 ウェールズ代表に勝ったときも、イタリア代表に勝ったときも、そして今年9月5日のジョージア代表戦でも、最後まで走っていたのは日本代表だった。このジョージア戦では、スクラム、モール、フィジカルで互角に張り合うことができた。その結果、後半37分に逆転して13−10で勝利したことは、W杯に向けて大きな弾みとなったことだろう。

 ジョーンズHCが日本代表を変えたのは、体躯だけでない。世界で戦うために、メンタル的にもタフになった。選手が練習や試合をした際にはGPSで動きを測定され、世界のスタンダードと比較され続けてきた。毎秋には欧州に遠征し、アウェーでの戦いを経験した。そして、日本代表選手を積極的に海外へとチャレンジさせたことも、功績として大きい。

 日本人初のスーパーラグビープレーヤーとなったSH(スクラムハーフ)田中史朗とHO堀江翔太は、所属するパナソニックの後押しと自らの熱意で海外に挑戦したが、今回選ばれた31名のW杯メンバーのうち、実に9人がこの4年間でスーパーラグビーのチームに所属した経歴を持つ。また、スーパーラグビーや欧州のクラブに短期留学した選手もいる。世界で戦ってきた選手は周りの選手にも好影響を与えていると、ジョーンズHCは語った。

「選手たちのマインドセット(心構え)が変わりました。世界のスタンダードになり、世界レベルの選手も出てきました。より良くなりたい、学びたいという気持ちを持って練習しています」

 W杯の結果は、どうなるかわからない。ただ4年間、エディー・ジャパンを見続けてきて断言できるのは、大差で負けるような「やわなチーム」ではなくなった――ということだ。間近に迫ったW杯では、「ブレイブ・ブロッサム(勇敢な桜の戦士たち)」がフィジカル、そしてメンタルでも世界の基準に近づき、タフになった姿をぜひ目の当たりにしてほしい。

斉藤健仁●取材・文 text by Saito Kenji