フジテレビ『みんなのニュース』番組サイトより

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 先週9月9日、フジテレビの『みんなのニュース』にSEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)の中心メンバー・奥田愛基氏が生出演し、大きな話題を呼んだ。だが、放送後は彼の足を引っ張ろうとするネトウヨたちが「奥田が論破された!」と拡散、ネットメディアも「SEALDsメンバー、慣れないTV出演で苦戦? ベテラン政治記者の「切り返し」にたじたじ」(J-CASTニュース)など、それに追随するような報道を行った。

 しかし、社のトップが安倍首相のゴルフ仲間だという"御用メディア"のフジテレビに堂々と出演する点だけでも、本サイトは奥田氏の度胸と勇気を買いたい。いや、そればかりか、奥田氏はフジテレビに"嵌められた"とさえ言っていい。

 というのも、番組出演後に奥田氏は個人のTwitterで、このようにつぶやいていたからだ。

〈田崎さんに解説してほしいけど、1人だと偏ってるように見えるから、奥田くん呼びましたとのこと笑。力不足ですみません。〉

 この「田崎さん」とは、その日、奥田氏とともにゲスト出演していた時事通信社特別解説委員の田崎史郎氏のこと。フジテレビは田崎氏の単独出演で考えていたが、それだと偏るからと奥田氏に出演をもちかけた、というわけだ。

 いくら反対デモの中心メンバーとはいえ、奥田氏はまだ学生である。その学生に対して「特別解説委員」などと大層な肩書きを掲げた人物と対抗させようとは、フジの底意地の悪さが透けて見えるようだ。だいたい、この田崎氏にしても、安倍首相としょっちゅう料亭やら高級寿司店などで会食を繰り返す"御用ジャーナリスト"。フジは田崎氏と結託して、学生デモの首謀者に赤っ恥をかかせてやろう、そんなふうに目論んでいたのではないかとさえ思えてくる。

 だが、じつは奥田氏は、「たじたじ」したどころか、田崎氏の不見識、御用っぷりを見事にあぶり出していた。

 まず、奥田氏は、与党が行う集団的自衛権の説明が「個別的自衛権で対応可能」な話でしかないことを突き、国会がはじまる以前に安倍首相が米議会で演説し、勝手に約束してきたこと、さらに自衛隊トップ・河野克俊統合幕僚長が昨年末に米軍へ安保法制の成立を「来年夏までに」と伝えていたとする内部資料にも踏み込み、自衛隊と米軍がすでに合同演習をはじめている点などを挙げて「きちんと(国民に)説明できていない」「この法案にもプロセスにも反対している」と述べた。じつに真っ当な反対意見である。

 これを受けて司会の伊藤利尋アナウンサーは「与党サイド、政府サイド、当然反論があるかと思いますよね」と言い、田崎氏に振る。すると、田崎氏はこんな話をはじめた。

「たしかに米議会の演説のなかで安倍首相は触れられているんですけれども、その前からずっと言われていることなんです。議会演説だけを聞くと目立ちますけど、決してそうではない」

 いや、奥田氏が問題にしているのは、国民の同意もなく勝手に安倍首相が米議会で明言してきたことであって、田崎氏の反論はたんに話を矮小化しているだけだ。くわえて、国民に向けてもまともに説明もできず、それに納得ができないから、いま、世論調査でも60%を超える国民がこの法案に「反対」しているのだが。さらに田崎氏は「集団的自衛権を行使しないと、日本は守れないという局面もあるというのが政府の解釈なんですね」と述べたが、これは奥田氏の「個別的自衛権で対応可能」の反論に何もなっていない。

 しかも、安保法制は11法案からなるが、それがわかりづらい、という話題になると、田崎氏は「非常にわかりづらいですねえ。ぼくも一生懸命勉強したほうなんですけど、説明も聞いたんですけど、それでもわからない。存立危機事態と重要要求事態の区別がいまだにつかない」(発言ママ)と言う。すなわち、このジャーナリストはわかってもいないものを賛成しているのである。

 一方、奥田氏は具体的に安保法制の不備を挙げ、「たとえば新3要件のうち2要件と3要件について、法案上に明記されていない」と指摘。「法案自体のクオリティの低さが目立ってきている」と問題点を提示したが、これを伊藤アナはスルーして次の話題へ移った。

 しかし、問題はこのあと。伊藤アナは過去にも安保の議論のたびにデモが起こってきたことを紹介し、こう話しはじめたのだ。

「こういう法案にこういうこと(デモ)が起きるというところ、田崎さんはこういう指摘です。(フリップボードの紙をめくり)"安全保障"がテーマになると、これに違和感をもつ国民が多いんではないかという」

 そして、フリップボードには田崎氏の指摘だという「"安全保障"に違和感」という文言が現れ、田崎氏はスラスラと持論を展開した。これが何を意味するかというと、事前に番組側は田崎氏と打ち合わせを行い、その意見を進行用のフリップボードに落としこんでいた、ということだ。

 たしかにテレビ番組の制作では、そういうことはよくある。だが問題は、対する奥田氏は、その内容を知らされていなかったという事実だろう。彼のTwitterにはこんな投稿がある。

〈ていうかフリップの中身知らなかったのが痛かった。なんかおかしいと思ったけど。あーいうものなんかな。〉

 田崎氏とはフリップをつくるくらいにたっぷり打ち合わせをする一方で、奥田氏には中身を一切教えずぶっつけ本番で反論させる。これではまったくフェアじゃないし、端的に言ってズルすぎる。

 そんなアンフェアな状況で、それでも奥田氏は孤軍奮闘する。なかでも、伊藤アナが"デモより国政選挙による意思表示のほうがより直接的では?"と投げかけ、過去3回の選挙で自民党が圧勝していると強調、そこに田崎氏が乗っかって「とりわけ重要なのは昨年暮れの衆院選挙で、(自民党は)比例代表で1765万票とっているんですね。これ、集団的自衛権の行使にかんする憲法解釈の変更の閣議決定は、去年の7月1日に行っているんです。それを前提にして、みなさん投票しているわけですね」と畳みかけてきた際には、奥田氏は毅然とこう反駁した。

「前回の選挙はアベノミクス選挙と言われて、アベノミクスが争点だと首相自身が言っていたと。で、そういったなかで最低の投票率だったわけじゃないですか。ほんとうに、なんで前回の選挙のときに集団的自衛権や......集団的自衛権だけじゃないですよね、今回の11法案、すべての内容にかんして、(選挙の)争点になっていましたか? こんなことみなさん、っていうかテレビでも取り上げていましたか? 選挙のときに」

 これは多くの国民が不信感を抱いている大きな問題であり、ごく当然の反論だ。だが、奥田氏がそう話すと、すかさず田崎氏が「相当、取り上げていましたよ」と口を挟んだ。

 この田崎氏の反応は、昨年末の総選挙開票時の安倍首相を見ているかのようだ。安倍首相も、テレビ東京の『池上彰の総選挙ライブ』に中継で出演した際、池上彰氏に「今回の選挙でアベノミクスのことはずいぶんお訴えになったんですけど、集団的自衛権の憲法解釈、こういうことをあまりおっしゃっていなかったと思うんですけど」とツッコまれるや否や、「そんなことありません!」とキレていた。だいたい、奥田氏が指摘したように、安倍首相はアベノミクス選挙を掲げていたくせに、選挙中に出演した『NEWS23』(TBS系)ではアベノミクスの景気回復を実感するかと尋ねた街頭インタビューにブチ切れ、キー局各社に文書で報道圧力をかけた。それゆえ、アベノミクスさえ論点にあげることをテレビ局は気を遣っていたのに、集団的自衛権の話なんてできるわけがない。実際、選挙時にほとんどのテレビ番組は安全保障問題を取り上げていなかった。

 田崎氏はよくも「相当、取り上げていましたよ」なんて言えたものだと呆気にとられるが、それにしても恥ずかしすぎるのは、フジテレビだ。

 じつはこの放送と同じ日、BSフジの『BSフジLIVE プライムニュース』にも、SEALDsのメンバーで大学院生の諏訪原健氏が、「安保関連法案に反対するママの会」の発起人である西郷南海子氏とともに生出演。こちらは自民党安全保障調査会副会長の武見敬三参議院議員が賛成派として出演したが、反町理・フジテレビ報道局政治部編集委員は諏訪原氏と西郷氏の話にがんがん割り込み、「特定政党とのつながりは?」「資金源は?」と馴れ馴れしい口調でしつこく訊く一方、武見議員の長い話は遮らず黙って拝聴するという見苦しい司会ぶりだった。ちなみに、この生放送の前日、国会で派遣法改正案の審議打ち切りになった際、泣き出した傍聴人に対して「早く出せ」と暴言を吐いたひとりが、この武見議員といわれている。学生デモに難癖をつける前に、その暴言を問いただすほうが先ではないだろうか。

 このように、ジャーナリストや政治家としての資質を疑われる人物を相手に、かつ不平等な環境で対決させられたにもかかわらず、きちんと安保法制の穴を生放送で突きつけた奥田氏と諏訪原氏には拍手を送りたい。奥田氏は15日に国会で開かれる中央公聴会にも野党選出で公述人として招致されているが、ぜひテレビ出演時のように堂々と、安保法制のありえなさを訴えてほしいと思う。
(水井多賀子)