「私はこれから先、生きていく間、もうそんなに食べなくてもいいかなと思っています」

こう語るのは大阪の八尾市で鍼灸院を開業する森美智代さん(52)。「不食」の世界ではこの人ありといわれるカリスマ鍼灸師だ。昨年11月、三重の古民家へ転居した。

森さんにとって命の源である旬の葉物野菜、ケールや小松菜、セロリなどは知人が届けてくれるが、庭でも栽培している。これを青汁にして1日1杯いただく。驚くべきことに、食事はそれだけ!ほかにはビール酵母の整腸剤やビタミンCなどのサプリメントと柿の葉茶と水を1.5〜2リットル飲む。

こうした生活のきっかけは、短大を卒業後、養護教諭をしていた21歳のとき、脊髄小脳変性症という難病に罹患したこと。めまいがして、よく転ぶようになり、いくつもの病院をはしごして、ようやく診断が下った。

この病気は徐々に平衡感覚を失い、歩行ができなくなり言語にも障害が出るなど、進行すると死に至るケースもあるという。効果的な治療法の見当たらなかった森さんがたどり着いたのが、故・甲田光雄医師が院長を務める甲田医院だった。甲田院長は、玄米生菜食を基本とする養生法を提唱、末期がんなどの重い病いに苦しむ多くの患者に施してきた。

「私の場合、玄米粥からです。五分粥と豆腐というように1日1,000キロカロリーを目安にして、それに慣れたら三分粥というように、徐々に超少食にしようということになりました」

しかし、少食をやめて学校勤務へ戻ると、症状は逆戻り。そこで’86年12月、仕事を辞め本格的に甲田医院へ長期入院することに。まず、こんぶと干ししいたけでだしを取るすまし汁だけで24日間の断食を決行。すまし汁を朝・夕の2回、ほかには生水と柿の葉茶だけ飲むというもの。断食直後、大量の宿便が出て病状は大きく好転した。歩くこともままならない重篤な症状が改善し、歩けるようになったのだという。

その後も冷え性で胃腸の弱い森さんは、運動療法も併用して体質を改善していき、この2年後、ようやく生菜食生活に入ったという。そして1日900キロカロリーの生菜食生活が軌道に乗ったころから、体重がゆるやかに増加したことを受け、「まだ摂取カロリーが多い」と感じ、現在の1日1食、50キロカロリーに落ち着いたという。身長154センチで、体重は60キロをキープし続けている。

1日1食50キロカロリーで、骨と皮だけにならず、なぜ生きていけるのか?現代医学ではまったく説明できないことだ。しかし、いま難病の症状はすっかり消えた。不食や断食で、人間は“本来の自分”が現れると森さんは語る。

「すぐ疲れたりしてしまう自分ではなく、本来の自分が現れるというか、本来の自分の才能が研ぎ澄まされて、潜在意識から出てくるということもあると思います。いつもおなかをふくらませて、本来の自分に出会えないのは残念な話ではないでしょうか」