単なるめまいや立ちくらみは「貧血」の典型ではない(shutterstock.com)

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 貧血という病名をきいたとき、みなさんはどのような症状を思い浮かべるでしょう。

 貧血は、血色素(ヘモグロビン=Hb)の値が減ってしまっている状態です。なんらかの原因で赤血球をうまく作れなくなってしまった状態で、一般的には、10〜40代の女性に多い鉄欠乏性貧血がよく知られています。男性でも中高生やアスリートではよく見られる病気ですし、高齢者でも貧血の原因としてがんが見つかるという話はよくあります。材料である鉄分が不足することで起こる貧血は、実は身近な病気なのです。

 しかし、クリニックで内科外来をしていると、立ちくらみやめまいの症状を「貧血」と思っている方が多いことに気づきます。たとえば、「通勤電車の中で貧血を起こした」とか「たちくらみを起こして、血の気がひいて倒れた」と言ってくる方がいます。もちろん体調不良のサインの一つではありますが、これらはいわゆる「脳貧血」と言われる、起立性低血圧などの血圧の調節障害の症状であり、貧血の典型的な症状ではありません。

 では、実際に貧血になったとき、どのような症状が出るのか、ある女性患者さんの場合を見てみましょう。

貧血の原因は子宮筋腫だった

 中肉中背、好き嫌いなくしっかり食べるタイプ、花粉症以外は目立った持病はありません。月経痛が強かったものの鎮痛剤を飲めば仕事をすることはできており、月3回程度の夜勤もこなせる体力はありました。健康診断で異常を指摘されたことはなく、貧血の既往もありませんでした。

 ある年の秋に職場を異動した頃から、毎日が疲れやすいと感じるようになってきました。疲れているのに、夜中に目が覚めたり、早朝に一度目が覚めたりと、眠りが浅くなったと感じるようになりました。最初は、21時までの勤務で生活リズムがずれたせいや、緊張感による疲れもあるのだろうと考えて様子をみていましたが、そのうち、平日の朝は出勤のギリギリまで寝たり昼の休憩時間も仮眠を取ったりしているにもかかわらず、だるさと身体の重さが抜けなくなってきてしまいました。土日も疲れが残っているため、少なくとも週末の1日は家で休んでいるようになり、それまで通っていたジムも、自然と足が遠のいてきました。

 異動から4〜5ヶ月経つ頃には、通勤の移動でも疲れを感じ、地下鉄の階段をあがるのが億劫になってエスカレーターばかり使うようになっていることを自覚しはじめました。手足のむくみ感もあり、長い距離を歩くのが少し億劫になっていました。しばらく運動もしなくなっていたので、年齢的に筋力や体力が落ちるというのはこういうことなのかと思って、食事に気を付けたり、整体にいったりしていました。

 この頃、月経痛がさらにひどくなり出血が多くなってきており、婦人科を受診しましたが、エコー検査では出血原因になりそうな筋腫はないので年齢的な変化かもしれないと言われました。その説明に「それは違う気がする」と半信半疑ながらも様子をみていたところ、さらに尋常でない月経出血があり、それを知った同僚から促されて3ヶ月後に婦人科を再受診し、やはり子宮筋腫による月経過多であることが確認されました。

 ここで、はじめて、ずっと続いていた疲労感が貧血だったのではないかと思い当たり、採血をしたところ、血色素8.5 g/dL(通常は13 g/dL 前後)とかなり進行した鉄欠乏性貧血であるという診断がつきました。

 ここまで約1年の経過があったのですが、たちくらみやめまいといった症状は全くありません。しいて言えば「本調子ではない」「なんとなく疲れている」といった「いかにも病気っぽい状態ではないが、不健康と感じる状態」とでした。

症状の大部分が貧血の影響だった

 実はこれ、私自身の話です。前年の健康診断でも貧血は指摘されておらず、また10代の頃から月経痛や出血が多くても貧血になったことがなかったので、自分が鉄欠乏性貧血になるとは思ってもみませんでした。

 後からふり返れば、やたらと氷を食べていたり、爪が割れやすくなっていたりと、鉄欠乏を疑う特徴はいくつもあったのですが、自分を過信していたのかもしれません。お恥ずかしい話ですが、私が勤務医時代に専門にしていたのは血液内科といって、白血病などの血液の病気を治療する分野であって、貧血と言えばまさに本職であったくせに、自分の貧血についてはみじんも疑っておらず、採血検査をしてみようとはまったく考えませんでした。

 ちなみに、鉄剤を飲み始めてしばらくすると、睡眠の質が圧倒的に改善し、ぐっすり寝られるようになりました。集中力も戻ってきて、気持ち的にも余裕をもてるようになりました。

慢性的に進行する鉄欠乏性貧血は自覚しにくい

 クリニックに受診する鉄欠乏性貧血の患者さんの多くは、健康診断で貧血を指摘されて受診します。しかし、なかには数年前から指摘されていたのに自覚症状がなかったから放置していた、という方もたくさんいます。

 自分の経験をもとに考えてみると、私の場合は急に出血が増えたので自覚症状がはっきり出ていますが、慢性的に進行する鉄欠乏性貧血は、身体が順応してしまって自覚しにくいかもしれません。また自覚症状があっても、私がそうであったように、それを貧血の症状と思っていないこともありえます。

 そんな患者さんでも、鉄剤投与で貧血が改善すると「身体がラクになった。実は今までしんどかったんだということが分かった」と言う方がほとんどなのです。それに、自覚症状がないからといって、身体に対して負担がかかっていないというわけではありません。

 赤血球は身体全体に酸素を運ぶ役割を果たしているので、貧血のときには体中が酸欠となってしまい、ジワジワと身体を苦しめています。身体からSOSサインは出ているはずなのですが「軽い貧血だから」「貧血くらいで病院に行けない」と無視している方が少なくありません。あぁ自分で書いていて胸が痛みます。

 たかが貧血、されど貧血。ということを、身をもって体験した一例についてのお話でした。貧血、あなどるべからず。


濱木珠恵(鉄医会ナビタスクリニック東中野院長)
北海道大学卒業。国際医療センターにて研修後、虎の門病院、国立がんセンター中央病院にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。都立府中病院、都立墨東病院にて血液疾患の治療に従事した後、2012年9月より現職。専門は内科、血液内科。生活動線上にある駅ナカクリニックでは貧血内科や女性内科などで女性の健康をサポート中。

(2015年8月19日 MRICの許可を得て抜粋・転載)
http://medg.jp/mt/?p=6058