8月14日に敵地セントルイスで行われたカージナルス対マーリンズの一戦で、イチローが1回表に日米通算で4192本目となるヒットを放ち、メジャー歴代2位の記録である“球聖”タイ・カッブの4191本を抜いた。
 大リーグではアウェーで戦う場合、球場は敵方のファンで埋め尽くされているので、大記録をマークしても無視されることが多い。拍手の代わりにブーイングを浴びせられることも珍しくないが、イチローは例外だった。場内放送で知らせたわけでもないのに、球場を埋め尽くしたカージナルスファンがスタンディング・オベーションで讃え、それにイチローがヘルメットを取って応えるという感動的なシーンが見られたのだ。

 米国メディアも、これまではレベルの低い日本での記録とメジャーでの記録を合算するのは無意味とし日米通算記録には冷淡だったが、今回はいつになく好意的で、多くのメディアがタイ・カッブの時代は打者有利で4割打者がゴロゴロいたことや、イチローがメジャーに来て10年目まではオリックス時代とあまり変わらないペースでヒットを量産していた点をあげて「タイ・カッブ超え」を素直に賞賛するところが多かった。
 ポジティブに報じるメディアの多くは、イチローが来季中にメジャー通算3000本安打と日米通算でピート・ローズの4256本を抜く可能性があることにも言及。MLBコムは、マーリンズが契約更新に前向きになっていることや、41歳になってもイチローが故障知らずで足にも衰えが見られないこと、依然としてメジャーNo.1の高い野球IQの持ち主であることなどを考えれば、メジャー3000本安打と日米通算4256安打を達成する確率は90%と予測している。

 イチローの今季の成績は8月27日現在、打率2割5分7厘、出塁率3割1分5厘で、どちらもメジャーの平均値に限りなく近い数字だ。衰えたとはいえ、安打製造機のイメージがある打者の数字としてはやや寂しいと言わざるを得ない。昨季はヤンキースで打率2割8分4厘をマークしているので、本来なら契約を更新してもらえる数字ではない。
 しかし、GMを兼任するジェニングス監督は契約更新をする可能性が高いことを明言しており、地元メディアもそれをポジティブに評価している。

 地元の有力メディアが安打や盗塁の通算記録以上に高く評価しているのは、試合前の準備が素晴らしいことだ。
 マイアミの最有力紙『サン・センチネル』は、イチローの試合前の準備は前日の試合が終了した直後に始まっているとし、メジャーでは用具係の仕事であるスパイク磨きを、自らブラシを手にしてやっていることや、グラブにオイルを含ませ皮を軟らかく、最高の状態に保っていることなどを紹介。
 さらに、家に帰っても、食事の前後に器具を使ったトレーニングをたっぷりやっていることと、就寝前に毎晩2時間のマッサージを受けていること。翌日は目覚めた後、軽くトレーニングしてから誰よりも早く球場入りすること。試合前は全身の筋肉を発砲スチロール状のローラーを使ったマッサージを入念に受けて筋肉を最高の状態に保っていること。オールスター休みの期間中、他の選手がバケーションを楽しんでいる中でイチローだけが毎日本拠地のマーリンズパークに来て、2時間トレーニングに汗を流していたことなども紹介し、イチローが41歳まで現役生活を続けることができた秘訣はルーティーンの小さなことをおろそかにせず、長い間積み重ねてきたことによるものと結論付けている。

 イチローの求道者的な姿勢はチームの若い選手にも好影響を与えており、記者やアナリストの中には、ディー・ゴードンの大化けの影にはイチローの絶え間ない助言があると見る向きが多い。
 ゴードンは昨年までドジャースに在籍していた快速二塁手で、昨年の盗塁王であるにもかかわらず、打撃面での評価が低いため、オフにマーリンズにトレードで放出された。