「あの死傷事故は、やはりこの病気か」と、ため息をついた人もいるだろう。先月16日夜、東京・池袋で医師が車を50メートルも暴走させ、歩行者5人が死傷する事故が発生した。逮捕された金子庄一郎容疑者(53)は、当初「持病は特にない」と供述していたが、その後の捜査で「てんかん」を患っており、事件当日の夕方は薬を飲んでいなかったことが判明。警視庁は、てんかんの症状がどの程度運転に影響を与えたか調査を続けている。

 てんかんといえば'11年4月、栃木県鹿沼市でクレーン車が通学中の小学生の列に突っ込み、6人が死亡した事件を思い出す。また、'12年4月、京都市の祇園で軽ワゴン車が暴走し、歩行者7人が死亡している。逮捕された容疑者は、いずれも発作を起こしていた。
 現在、てんかん患者は全国に100万人以上いるといわれている。道路交通法では一定の条件を満たせば、患者であっても車を運転できる。これまでの重大事故を教訓に、患者も市民もまず、病気の正しい知識と免許取得の仕組みなどを知ることが大切だ。

 東京都立多摩総合医療センター脳神経外科の、外来担当医はこう語る。
 「そもそもてんかんは、脳の神経細胞が過剰に興奮して発作を起こす病気です。ひきつけや体の硬直、痙攣以外にも、意識がボーッとしたり、体がピクッとしたりするなど、その症状には個人差があります。
 一番多いのは先天性のてんかんで、いきなり意識をなくす「欠神発作」を起こします。金子容疑者は髄膜炎から発症したそうですが、駐車場から出て突然意識を失ったことから、やはり欠神発作と思われます。警官に取り押さえられて暴れたのは、事故をまったく覚えていないためパニックになったのでしょう」
 この欠神発作は、数十秒から数分で治まるが、全身痙攣の場合は、痙攣が治まったあとに1時間くらい眠り続けることが多いという。

 ある症例を紹介しよう。東京都内に住む会社員の男性(41)が、てんかんの発作で倒れたのは'09年10月、ゴルフに行こうと自宅を出たときだった。気付くと血だらけで救急車の中に横たわっていた。意識を完全に失っていたのだ。
 搬送先の総合病院で「側頭葉てんかん」と診断されたが、「2年間発作がなければまた車に乗れる」と医師に言われた。男性は仕事に車が欠かせず、子供も小さく、家のローンもある。
 すぐに入院して薬による治療が始まった。側頭葉てんかんに使われることが多い薬を飲んだが、翌日、全身に激しいかゆみと発疹が出て中止になった。次に飲んだ薬ではかえって発作がひどくなり、数時間意識を失うこともあった。

 翌年5月、妻(39)がネットで調べたてんかん・神経医療専門病院を受診すると、検査の結果、脳の海馬という部分に発作の原因があった。同病院ではそれまでと違う薬に変え、2カ月後に発作がなくなった。だが、家に戻ると激しい頭痛に悩まされ、常にイライラして家の者に当たり散らし、壁に穴を開けたりして「人が変わった」と、妻を驚かせた。
 副作用を気にした医師の勧めで再び入院し、このときは前年に出たばかりの新薬『ラミクタール』を処方された。約2カ月間かけて新薬に移行すると、頭痛やイライラが消えた。
 これまで、抗てんかん薬の多くが、発作を起こす脳の神経の興奮を抑える一方で、眠気やめまいが起きるなどの副作用があった。薬によっては体毛が濃くなる、食欲が落ちるといった現象も見られたが、新薬はこうした副作用が軽くなると期待されている。