全国に84のCDショップを展開する大手音楽ソフト販売チェーン、タワーレコード社長の嶺脇育夫氏。48歳の「アイドルオタク」を公言する一方、タワーレコードの広告塔さながらテレビやネット配信の番組、雑誌などに自ら登場してさまざまな発信をしつづけている。「CDが売れない時代」を打ち破る“オタク社長”の経営戦略とは? 作家の杉山隆男氏が迫った。

──実はきのうも、YouTubeのアイドル関連サイトで嶺脇社長が出演している動画を見たんです。「ああ、あしたはこの人に会うんだ」って、まるでアイドル本人に会うみたいに、ドキドキが止まらない感じだったんですよ(笑い)。

嶺脇:いやぁ、そんなに喜んでいただいたのは初めてかもしれない(笑い)。

──町の本屋さんにとってはインターネットストア、特にAmazonは最大の脅威だと思いますが、タワーレコードにとっても……。

嶺脇:巨人ですね。もう立ち向かうのを諦めているんですけど、ただ3年前の2012年秋にタワーレコードの渋谷店をリニューアルするとき、「Amazonのできないことって何だろう」と考えたんですよ。

 ネットでの買い物ってすべて、マウスを握った、その手のひらで済ませられるものですよね。でも僕ら現実にあるお店は、CDやDVDだけでなく、そのお店に行くことで得られる体験を含めた、「リアル」っていうものを売っているんです。

 だから、Amazonとどう戦うかより、僕らが持っている強みをお客様にどう見せて、どう伝えていくかに主眼をおいて、渋谷店をリニューアルしたんです。

──具体的には?

嶺脇:お店に来ると、こんなにおもしろいことがいっぱいあるよ、という仕掛けをつくりました。

 まず全フロアでイベントができるようにして、今では年間1300回ぐらい開催しています。地下から8階まで、毎日どこかのフロアで3、4個のイベントが行なわれている。しかも、そのイベントをネット配信できるようなインフラも備えました。

 通称タワレボ、『TOWER REVOLVE PROJECT』という番組で撮影・配信もして、今お店で起きていることをリアルタイムで伝えています。CDなどをただ店頭に並べるだけじゃなくて、レコード会社の人が新譜をプレゼンして中身をしっかり伝える機会をつくる。

 時にはアーティストに会えたり、ライブが見られたりと、お店にわざわざ行きたくなるような付加価値をどんどんつけることが、僕らリアルの小売業がAmazonに対抗する手ではないかと。

──嶺脇社長が自ら積極的にメディアに出ているのもその戦略の一環ですか?

嶺脇:いや、僕、元々出たくて出たわけじゃないんですよ。僕が社長になった2011年、タワーレコードは独自のアイドルレーベルを立ち上げて、新潟のNegicco(※注1)のような、地方で活動しているアイドルのCDをリリースしたんですが、その宣伝のためのお金がないもんですから、「取り上げていただけるなら、何でも出ます」って言ったんです。レーベルのオーナーである僕が……。

【※注1/JA全農にいがたが展開する新潟の名産ネギ「やわ肌ねぎ」PRキャンペーンのために結成された女性3人組のアイドル】

──そのとき出演されたテレビの『タモリ倶楽部』では、嶺脇社長の特集で30分出ずっぱりでしたね。タモリさんの前で、アイドルオタクをはっきり告白されていた(笑い)。

嶺脇:あれがきっかけで、そのあと色々なメディアに出させてもらっているんですけど……なんだろうな、露出するなら、顔が見えた方がいいのかなという気がするんです。

 今はSNSで個と個がつながって、「この本おもしろかったよ」「この音楽よかったよ」ってオススメされたものを買ったりするのが普通じゃないですか。だからタワーレコードという企業がこれを推しているというより、タワーの社長がとか、タワーの誰それがとか、もっと個人が情報発信した方が受け入れられる。

 というより、売っている人間の顔が見えて、「この人がおもしろがってるんだ」というのがわかると、よりお客様との信頼関係が増すのではと思います。

 例えば、近所にBABYMETAL(※注2)好きの店長が経営するCDショップがあって、店先に手作りの豪華なポップが飾ってあったとしたら──そこでCDを買いたくなっちゃうじゃないですか。好きなものは好きな人から、好きなところで気持ち良く買いたいっていう感覚があると思うんです。そうしたことは、Amazonには絶対できないことだと思います。もちろん顔を出すことで嫌われるリスクもあるんですけど……。

【※注2/女子高校生3人組のアイドル。ヘビーメタルとダンスが融合したパフォーマンスを行なう。今年2度目の世界ツアーを行なった】

──渋谷店をただのCDショップではなくて、「丸ごとおもしろランド」にしたり、嶺脇社長自らタワーレコードの「顔」となってメディアに進出したり、ネットとは違う、小売業ならではの、付加価値をつけた。効果はどうでしたか。

嶺脇:おかげさまで売り上げが伸びたんですよ。渋谷店は集客でいうと前年比10%増ぐらい。翌2013年、2014年も集客が結構伸びましたし、売り上げもそれなりに伸びています。10%とまではいきませんが、いい月では5%は伸びた。

 CD不況と言われるこの時代に、前年に比べて売り上げを伸ばすというのは本当にむずかしい。その中で、僕たちのやり方は一つの正解だったのかなと思っています。

◆聞き手/杉山隆男(作家)

※週刊ポスト2015年9月18日号