いとうあさこが出るBOSSのCMは“ブスいじり”か?
 ここへきて、にわかに論争の的となっている“女芸人のブスいじり”。

 発端はお笑いコンビ・「アジアン」の隅田美保の引退騒動。“他の芸人からのたび重なるブス呼ばわりに、婚期を逃してしまった。ほとほと嫌気がさしたので、今後はバラエティ番組への出演を見合わせる”、という主旨のことを語ったのだそう。
(※参照記事⇒アジアン隅田のテレビ出演拒否で考える、女芸人「ブス」イジり問題 http://joshi-spa.jp/317444)

 この告白に、ネット上では「容姿をからかって笑いを取るのはレベルが低い」という“ブスいじり”否定派と、「いやいや、芸人なんだからいじられてなんぼでしょ」との肯定派が拮抗する展開に。

 さらに続いて、「女芸人への“ブスいじり”、どこまで許される?」(オリコンニュース・9月7日)なる記事も配信され、いまや全く笑えない事態にまでなったのです。

◆BOSSのCMは、不快か否か

 そんな折、実にタイムリーなCMが放送中なのをご存知でしょうか? トミー・リー・ジョーンズ出演でおなじみの、サントリーBOSS『恋人も濡れる街角』篇。

⇒【YouTube】ボス『恋人も濡れる街角』篇 30秒 トミー・リー・ジョーンズ 宇梶剛士 いとうあさこ サントリー CM http://youtube.be/6PkAAaWNkZ0

 宇梶剛士演じる養鯉業者が見つめる先には、ウロコの模様がブサイクで売れ残ってしまった一匹。しかしどうも気になってしまい、夢にまで出てくる。すると、その鯉が人間の女性に化けて「さようなら」と一言。演じるのは、いとうあさこ。

 翌日になり、それが売れたことを知った宇梶は、慌てて車でかけつける。宇宙人ジョーンズが高速でエサをまき、おびきよせたあさこと宇梶が、池の中で熱く見つめ合い、「あ〜よかった」と缶コーヒーをゴクリ。

 言うまでもなく、このCMを成り立たせている前提は、<いとうあさこ=ブス>。にもかかわらず、ここには上で議論されているようなハラスメントを感じさせる要素がほとんどありません。

 では、バラエティ番組で隅田さんが受けてきた“仕打ち”との違いはどこにあるのでしょう?

◆今のバラエティ番組にはペーソスがない

 それはペーソスの有無なのかもしれません。

 秒単位で刹那的な笑いが飛び交うバラエティ番組では、文脈や背景などの行間がバッサリと切られてしまいます。つまり、「ブス」と言えば、それは形状の良し悪しの即物的な面をしか言わないのですね。

 もっとも、いまのお笑い芸人に、それ以上の含蓄を与えられる素地がないことこそが問題なのですが。

 一方、ボスのCMがほのめかすブスには、色々なニュアンスが隠されています。それは、「蓼食う虫も好き好き」だったり、「美は乱調にあり」かもしれませんし、はたまた「恋は盲目」といったフレーズも浮かんでくる。たった30秒ですが、観た人それぞれの感じ方にゆだねる余裕があるのですね。

◆“ブスいじり”を自粛しても逆効果?

 ゆえに、ただ単にブスいじりを禁じれば、隅田さんが苦悩から解放されるのかといえば、そんなに簡単な話ではないように思います。むしろ、この話題を機にテレビから「ブス」という言葉そのものや、そう感じさせるような演出が締め出されれば、視聴者は以前にも増して「ブス」の存在を強く感じることでしょう。

 もちろん、責任の多くは言葉を発する側が負うべきなのですが、何かあるとすぐに制度的、法的な態度で、実際にひとつの意味を持つ言葉を消そうとする動きは、決して健全だとは思えないのです。

<TEXT/沢渡風太>