不倫を予防するために「夫婦を交換して交際すること」が有効であると説く『はじめての不倫学』

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世の中には、絶えず不倫に関する話題が溢れている。
不倫SNS「アシュレイ・マディソン」のハッキング&情報漏えいも記憶に新しい。不倫を肯定すればアンチ不倫が燃え上がり、否定すれば不倫経験者から「そんなお前もいつ不倫するかわからない」と呪いをもらう。どっちの論調にせよ、不倫を扱えばだいたい注目されるご時世だ。
そんな中、『はじめての不倫学 「社会問題」として考える』(光文社新書)が発売された。著者は坂爪真吾。「性の公共」「性の健康と権利」を実現するべく活動している一般社団法人ホワイトハンズの代表理事だ。性を推進する立場をとるこの著者は、不倫問題をどのように扱うのだろう?


本書はこのような構成になっている。
■第1部 不倫学入門
第1章 現代社会における不倫の現実
第2章 不倫を学問する
第3章 不倫を歴史で考える
■第2部 不倫ワクチンを開発せよ
第1章 職場環境と人間関係の整備
第2章 夫婦関係や家庭を壊さない婚外セックス
第3章 婚外セックスを前提とした夫婦関係
第4章 希望としてのポリアモリー
■終章 無防備からの卒業

史上もっとも不倫がしやすい現代日本社会


第1部「不倫学入門」では、不倫に関する知識がまとめられる。
現代日本社会は、携帯電話やSNSの普及で史上もっとも不倫がしやすい環境になっている。経済的コストは低くなっているし、「不倫は絶対悪である」という風潮も若干緩まっている。
しかし、不倫人口は実は大幅に増加しているわけではない。今も昔も、不倫願望を持つ人はいるし、実際の不倫に発展する人も一定数いる。そのプロセスが見えやすく、発覚もしやすく、不倫する側もされた側もネットを通じて体験談が共有しやすくなった。

不倫の何がいけないのか?
不倫は、法律上は〈夫婦の共同生活の平和〉を侵害する行為。不倫された側は損害賠償請求をすることができる。不倫がきっかけで離婚にまで発展すれば、シングルマザーや子どもの貧困、生活保護や高齢者の孤独死といった問題の原因にもなる(逆に、この問題を避けるために、不倫されても離婚を選ばない夫婦もいる)。
ただし、こうした問題を並べて説いたところで、不倫をしている側は「そんなこと知ってる」と語るだろう。「不倫することで家庭を守れることもある」と語る人もいる。本書でも、こんな事例が紹介されている。
〈不倫を始めたことで、身体的・精神的な安定を得ることができ、夫婦関係や結婚生活が安定し、精神科やカウンセラーの元に通わなくても済むようになった、という報告はたくさんある〉
しかしこの意見はあくまでも不倫をする側のものであって、される側にとっては受け入れにくいだろう。する側とされる側の利害が一致することは、不倫ではほぼあり得ない。

不倫を防止すべき5つの理由


「不倫をするのはこんな男/女」という言説は多い。しかし坂爪は〈(状況や性格に傾向はあるが)不倫は誰にでも起こりうる〉と断言する。確かにレッテル貼りは、「自分は/配偶者は不倫をするタイプではない」と安心するためか、もしくは身近の気に入らない人に向けて「やっぱりあの人は不倫するタイプだ」とこきおろすためのものでしかない。
そんな誰にでも起こる不倫を坂爪は「不倫ウイルス」と称する。そのウイルスを防止(予防)する必要があるというのが、本書の趣旨だ。
理由は5つ。

1.不倫は高確率で周囲にバレる。不倫は発覚した瞬間、パートナーとの信頼関係が失われ、関係が冷え込む傾向にある。「バレないようにすればいい」は無理がある、
2.不倫後、現在のパートナーと別れて不倫相手と結婚しても大半はうまくいかない。あくまでも家庭あっての不倫。
3.子どもにも「感染」する。当事者だけではなく、子どものメンタル面や将来にも大きな影響を与える。
4.「不倫未遂」「脳内不倫」が起こりうる。実際に不貞行為まで発展しなくとも、配偶者以外に恋心を抱いたり、恋をしているつもりでセクハラをしてしまったりするケースがある。
5.不倫には中毒性がある。不倫セックスの快感に衝撃を受けて不倫を繰り返してしまう人は多い。また、一度不倫を経験すると、その後の人生で既婚者が恋愛対象になり、既婚者を誘うこと/誘われることに抵抗がなくなるパターンがある。

特に5つ目の理由は衝撃的だ。なるほど、不倫がドラッグのようなものであれば、一度中毒になってしまえば抜けるのは難しい。「薬をやらない」つまり「最初の一回の不倫をしない」というのが重要になってくるのは理解できる。

驚きの不倫ワクチンの中身


……と、ここまでわりと「わかる」で進んでいた本書だが、話が不倫ワクチンの具体例に入ると「わからない」の域に突入していく。
〈こうした代理満足(マスターベーションや風俗など)のツールで満たされるのは「性欲」だけであり、「性交欲」は満たせない。性交欲とは、相手と気持ちの通い合ったセックスをしたい、という欲求だ。性欲は相手がいなくても満たせるが、性交欲は相手がいなくては満たせない〉
よく言われている「マスターベーションや風俗で発散」という方法は解決策にならないと断言する坂爪。不倫をせずに性交欲を満たすため、新たに提唱されるのがこれらの「ワクチン」だ。

・悩んでいる夫婦や女性をサポートする「セックスカウンセラー」「セックスボランティア」になる
・セックスを手段としてではなく目的として求める、いわば「欲求を発散するスポーツ」として捉える相手とセフレになりあい「アスリート化」する
・高級会員制交際クラブ(愛人クラブ)に登録する
・スワッピング(夫婦交換・夫婦交際・スウィング)する
・一夫一妻制にこだわらず、複数恋愛(ポリアモリー)する

ぱっと見では「不倫と何も変わらないのでは?」と思うラインナップだ。ポリアモリーは多少毛色が違うが、ポリアモリーではないパートナーの了承を得ずにその形をとれば不貞行為になりうる。
〈不倫ワクチンには、日常生活や原稿の夫婦関係を壊さないための『安全装置』が必ず備え付けられている〉
読者からの「不倫と変わらない」という反応を見越し、坂爪はこう語っている。
もうひとつ気になるのは、「不倫する男性」寄りに偏っているように見えること。女性がこれらの手段で不倫を予防する姿というのは、かなり想像しにくい。

不倫からロマンをなくせ


おそらく本書は、不倫をする側/される側ともに支持されにくい内容になっている。不倫をされたくない側からすれば「結局他人とのセックスは推奨するのか!」となるし、不倫をしている側からすれば「こんなのロマンがない!」となるだろう。
不倫を予防するポイントは、後者の反応にある。
不倫は気持ちいいもの。背徳感があるもの。やってはいけないもの。禁断のもの……こう言われるし、そう思っているから、よけい不倫がきらきらして見える。だからこそハマる人は後を絶たない。
でも、不倫が単なる性交欲の外注にすぎないと捉えれば、不倫の輝きは色あせる。「ロマンがなくなる」のだ。不倫からロマンがなくなれば、不倫をする人は単にセックス好きの人だけになるかもしれない。
……ただ、こうして書いている間にも、そういう状況になったらなったで再び「ロマンのある不倫」が開発されてしまうだろうという予感がある。できるのは、自分が/配偶者がロマンに溺れる人間ではないと祈ることだけだ。

(青柳美帆子)