●やっぱり極めつけは、この作品でしょう。

 昔で言えば「恐怖映画」「スリラー映画」。それが「ショック映画」やら「オカルト映画」になり、スプラッタ・ホラーなんて言葉が出てきたあたりから「ホラー映画」という呼び方が主流になったわけだけど、要するにお客さんを怖がらせて料金をいただこうとするジャンルの映画をそう称してきたわけです。その、所謂「恐怖映画」の宣伝惹句といえば、これが極めつけ。

「決してひとりでは見ないでください-」

 はい。我が国を代表する洋画配給会社・東宝東和が1977年6月に公開したイタリア映画『サスペリア』の惹句です。この惹句が当時どれほど凄い反響を巻き起こしたかは、拙著『映画宣伝ミラクルワールド』を読んでみて下さい。といった宣伝はさておき(笑)、恐怖映画、ホラー映画の惹句の、特に『サスペリア』以降のパターンとしては「いかに怖い作品であるか?」を「主観」ではなく「客観」的な視点で表現しているんですね。映画のみならず、あらゆる惹句は「主観」と「客観」どちらかの視点が反映されます。例えば『サスペリア』の「決してひとりでは見ないでください-」の場合、今まさに『サスペリア』を見ようとしている観客に対して、客観的な視点で注意を促すように書かれている。やたらに怖さばかりをそれっぽいフレーズで連呼するのではなく、「これだけ怖い映画なのですよ」ということを、一歩引いた立場で表現している。この距離感こそが、当時新しかったわけです。


●『デビルスピーク』の惹句は、そのやりすぎ感が笑いを誘う。

 『サスペリア』の成功以来、この「客観的な視点と冷静なフレーズで、恐怖をイメージさせる」惹句が、恐怖映画の惹句の主流になります。例えば1979年公開の、この映画の場合もその視点の反映とバリエーションといえるでしょう。

「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない」

 ご存じ『エイリアン』の、あまりにも有名な惹句。この場合は客観的な視点に基づき、その上で観客を劇中の登場人物とダブらせ、映画と観客の気持ちをシンクロさせるのが狙いと見ました。
 そもそも恐怖とか「怖い」といった感情は、出来る限り日常生活では味わいたくないものです。でも人間が本質的に持っている感情であることに間違いない。時としてそういう気持ちになりたいこともある。非日常的な気持ちを味わいたいと思った時、人は恐怖映画を見に行くのでしょう。観客を映画館に勧誘するために作る広告やチラシの惹句も、それ故、いかに怖い映画であるかをイメージさせるわけですが、時にそのやり方があまりにも考えすぎて、ひねりすぎて、苦笑失笑を誘うケースがあったりします。例えば1981年8月に公開された『デビルスピーク』という映画の惹句。

「いくら怖くても、恋人をおいて逃げだすことはしないで下さい!」

 明らかに、やりすぎ(笑)。つかこれって観客の対象範囲を狭めていないか? すべての観客がカップルでこの映画を鑑賞するとは限らないだろうに。そこまで先回りして「逃げだすことはしないで下さい!」と言われても、苦笑失笑するばかり。
 けどまあ、恐怖映画とかホラー映画の類いって、あまりにも観客を怖がらせようとするあまり、時々怖いのを通り越して笑っちゃうこともあるんだよね。そこまでやるかっ!?と。だから怖い映画を宣伝するための惹句が、やりすぎちゃってて笑えるってのは、このジャンルの特徴をうまく宣伝に活かしているとも言えるわけだ。


●甦れ!! 「怖い映画の笑える惹句」!!

 では最近の恐怖映画、ホラー映画の惹句はどうじゃろな?と、手元のチラシや試写状を見たのだけれど・・「『死霊のはらわた』壮絶なるリメイク誕生」(『死霊のはらわた』)って、それ単に事実を書いているだけ。「この映画に仕掛けられたトリックは100%見破れない。」(『ピエロはお前を嘲笑う』)。「見破れない」って、お客さんを諦めさせてどーする? 「チェーンソーを振り回して40年! 皆様のご支援で 最新作全米初登場第1位!!」(「飛び出す 悪魔のいけにえ レザーフェイス一家の逆襲」)。別にご支援した覚えはないけれど、怖い映画なのに「40年おめでとう!!」と思わず応援したくなるような、これぞ正統派「怖い映画の笑える惹句」だ。 

 久々に見たいなあ。笑えるほど怖いホラー映画。